コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ダン!
凄まじい音に、アタシの部屋の家具たちまでガタガタッと震える。
「うぉ、ビビったぁ」
アタシは壁の穴から慌てて身を引いた。
一瞬、ノゾキがバレたかと思ったのだ。
どうやら大丈夫そう。
うんうん、そう簡単にバレやしないって。
まさか、自分の部屋の壁に穴があいていて、しかも隣りの住人に四六時中覗かれてるなんて普通は思わないもんだって。
ども。隣人です。
お隣りのゲイカップルのおセックスにハァハァしながら、毎日この穴を覗いてます。
本日も絶賛ノゾキ中!
けど、今日は……少し勝手が違うようで?
本日はアタシの実況・解説でイトナミをたっぷりじっくりとっくりお届けいたしやす。
今回はそういう趣向です、はい。
地震かと思ったのは、長身のメガネが玄関横の壁を叩いた音だった。
「あ、おかえりー。どした、幾ヶ瀬?」
室内から有夏チャンがヒョイと顔を出す。
お出迎えというわけでもなさそうだが、鈍感な有夏チャンといえども音が気になったのだろう。
「ランチ上がりにいちいち帰って来んなってんだろが、幾ヶ瀬。仕込みを仕込めよ」
手にはPSvita。
色素の薄い髪は、襟足がだらしなく伸びてきている。
変な柄のTシャツと短パンといういつもの部屋着で、有夏に変わった様子はない。
日本語が少々おかしいが、そこはスルー。
「仕込みなんてとっくに終わらせてるよ」
幾ヶ瀬の口調が冷たい。
足音荒く室内に入ってきた幾ヶ瀬、これはかなり珍しい。
怒っているのか?
いつもは結構ナヨナヨして有夏サマのご機嫌をとっているコイツが。
この2人、ベッドじゃ全然逆なんだけど、普段は有夏チャンの方が口調も態度も男らしいよな。
自分のこと「有夏」って名前呼びしてる時点で、色々アウトではあるけど。
最近思うのは、有夏チャンがワガママでだらしなくてクソニートだから、ヘンタイメガネが仕方なく面倒をみてるのかと思いきや、意外とヘンタイメガネの方が有夏チャンに依存して付きまとってるみたいに見える。
で。
そのヘンタイメガネだが、有夏チャンの前に立つとこう言い放った。
「有夏のスマホ、解約してきたからねっ」
「は?」
隣りの部屋からこっそり覗いてるこっちも「はぁ?」である。
この前の幾ヶ瀬の休みに2階角部屋──有夏チャンのゴミ屋敷を大掃除して、3ヶ月ほど所在不明だったらしいスマホを、ようやっと発掘したんじゃなかったのかよ。
(ノゾキ常習犯のアタシは知ってるんだよ!)
ヘンタイメガネだって「これで、帰ります連絡ができるねっ」とクネクネしながら喜んでたじゃねぇか。
もっとも有夏チャンはあまりマメではないらしく、せっかく見つかったスマホもテレビの横の棚に置きっぱなしにしていたようだけど。
「うっわ、ホントだ。どこにも繋がんない」
いつの間に幾ヶ瀬がスマホを持ち出していたかも分からなかったらしい。
彼が手にしているものをひったくって、中身をチェックしている。
「アドレス全部消されてる……ウソ、幾ヶ瀬が1コだけ残ってる。ウザっ」
ものの役に立たなくなった電子の板を、有夏は床に放り捨てた。
「何してくれんだよ。姉ちゃんらや、友だちの連絡先分かんなくなったじゃん!」
「大丈夫だよ、有夏。お姉さんたちは実家に電話すれば連絡とれるよね。有夏の実家の電話番号は俺のとこに入ってるし。友達っていうのは、ここ数日連絡を取り合ってる中島って奴のこと?」
有夏の表情が訝し気に歪められる。
「何で知ってんだよ。勝手に見たのかよ」
図星だったらしく、幾ヶ瀬が一瞬怯む。
それでも詰問する声はどんどん高くなる。
「中島って誰なの! 女!?」
「違うよ!」
「んじゃ男なの!?」
語尾が震えた。
多分これは、怒りか悔しさか。負の感情からくる声だ。
「どっちもダメなのかよ」
有夏が嘆息する。
「うっそ、妬いてんの? バカじゃないの。中島ってアレだよ? バカなの? 中学から一緒で、高校ん時は有夏と3年間同クラだった……幾ヶ瀬、バカだろ」
「うっ、馬鹿じゃない……」
「知ってんだろ? 朝寝坊がひどくて遅刻ばっかしてた。んで、迷子を交番に連れてったから遅れましたって毎日言ってた凄まじきバカ、その名もナカジマ……」
何ひとつやましいことはないというように、有夏は呆れ顔で説明を始めた。
「たまたま連絡きてて……2年ぶりか? んで、ゲーム貸したげるってなって。困るんだけど? 有夏だって友だちくらいいるし」
「ああ、疎ましき中島よ。勿論覚えているさ。俺でさえ高2の時に1回しか有夏と同じクラスになれなかったっていうのに。あの糞坊主はぬけぬけと3年間も……。朝だけじゃなくて一生寝てろって感じだ」