テラーノベル
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生徒を送り届けて、家に帰り着くと、
沈み込むようにソファーに腰を下ろした。
リュウキと後輩の姿を目にしてから、車を走らせている間も、たわいもない話が隣から聞こえてくる間も、ずっと、頭の中にその光景が浮かんだままだった。
“もう、たっくんのこと、すきじゃない”
きっと俺は、
心の片隅では、あの言葉を、信じきれていなかった。
……信じたくないと、思っていた。
決断できずにいたのも、
リュウキの気持ちが、そこに有り続けていると、思っていたから。
でも、そんなのは、都合の良い考えで。
リュウキはちゃんと、前に進もうとしている。
あの言葉には、ちゃんと、意志がある。
なのに俺は、なんで、
……待っていてくれると、思っていたんだろう。
俺から、離れていくことに、
……どうして、こんなにも。
カーテンが開いたままの窓から、真っ暗になった外をぼんやりと眺めながら、リュウキが来てくれたあの夜のことを、ふと、思い出してしまっていた。
***
朝、目を開けた瞬間、アラームが鳴らなかった事に気付いて、慌ててスマホで時間を確認する。
「っ、……あ…、そっか、…休みじゃん……、」
今日が休みな事を思い出し、そのままスマホを眺めると、目に入ってくる日付。
先生が、研究室で待っている日。
『今日は急に行ってごめん。もしついてきてくれるなら、明後日、研究室に来てほしい』
先生とのラインを開いて、もう一度、その内容を確認する。
先生からは、それから連絡は来ていない。
……リュウキからも、あれ以来、ラインは送られてこない。
昨日、前へ進もうとしているリュウキの姿を見ていながらも、トーク履歴に並んでいる2人のラインを、交互に、見つめていた。
しばらくそれを眺めた後、重たい身体を起こして、リビングへと向かう。
水を飲もうとキッチンに立つと、ふと、コンロに置いたままにしてあった、フライパンに目がいった。
“やばい天才やん!めっちゃ美味しい!!”
“そう?”
“ちょっ、たっくんも食べてよ!”
“えっ?”
“はいっ。”
“うっま……、”
“やろっ、?!あははっ、やばー!ばか天才やん!”
リュウキとここで、作り直したパスタを食べさせ合って、それが予想外に美味しくて笑った事が、目に、浮かんでいた。
……美味しそうに、食べてたな。
視線をテーブルに移しながら、そんな事を思い出す。
“うわ〜無くなるん嫌や〜”
“また作ってあげるよ”
“えっ、?”
“そんな喜んでくれるんだったら、作りがいあるし。”
“っ、…約束やけんね、?”
“ふふっ、うん。”
“…っ、やったぁ、、”
嬉しそうに、小さく、やったぁなんて言って。
「……、約束、…果たせなかったじゃん、」
ねぇ、リュウキ。
俺、嘘つきになっちゃうじゃん。
……いや、今更、そんなこと。
せっかく、リュウキが前を向こうとしているのに、余計な事、考えんなよ。
リュウキは、もう、
俺の拠り所なんかに、なってる場合じゃないんだよ。
……拠り所になんか、
したら、駄目なんだよ、
俺が、リュウキの幸せを願えなくて、誰が願うんだよ。
「………俺も、……、やめなきゃな、」
小さく独り言を放って、車の鍵を手に取った。
***
駐車場に車を停めて、事務所へ向かう。
誰もいない、休みの日のダンススクール。
事務所の前まで来て、ドアを開けようとした瞬間に、リュウキが初めてご飯に誘ってくれた時の事が、頭に浮かんだ。
“……たっくん、…今日、…ご飯行こ、?”
“え、?…ふっ、…ふふ…っ。”
“っ、な、なん…っ、?何で笑うと?”
“…っ、…ううん?…リュウキやなって。”
“なんそれ、どういう意味、?”
あの時、唐突に、いきなり誘ってきたリュウキの事を、可愛いなと思っていた。
……それに。
“っ、よっしゃぁ…っ、!”
俺がドアを占めた瞬間、そう、声を上げていて。
喜んでくれていることが可愛くて、嬉しかった。
どんな顔をしているのか、見てみたかったなんて、考えていた。
そんな事を思い出してしまいながら、事務所に入り、デスクの前で足を止める。
そこにあるキーホルダーに、手を伸ばした。
リュウキがくれた日からそれは、ずっと、ここに置いてある。
“いえーい、びっくりした?”
あの日、急にここへ来て、
俺を驚かせた事を、
ペカペカの笑顔で喜んでいて。
“サプライズ”だなんて、
このキーホルダーをくれた。
『おそろ!!』って、 バッグに付けられたキーホルダーの写真が送られてきて。
そんなリュウキの無邪気さに、
俺の顔は、自然と綻んでいた。
いつも、何かあると、このキーホルダーを撫でていた。
……俺にとっては、リュウキの代わりのようなものだったから。
でも、リュウキが自分の意志で、それを外したなら。
……俺も、その意志を、尊重したい。
「っ、…、…ありがとうね、」
手に取ったキーホルダーを、そっと、引き出しの奥にしまい込んだ。
***
事務所を出て、再び車に乗り込んだ。
海沿いを走りながら、
今日の事を、考えていた。
先生への、答えを出す日。
気持ちを整理したくて、ただひたすらに車を走らせていると、信号で止まった先に、リュウキと行ったゲーセンを見つけた。
あの日を思い出して、無意識に、助手席に目がいってしまう。
初めてリュウキをここに乗せた時、…全然、こっちを見てくれなかったっけ。
緊張が伝わってきて、俺が話しかけると、一生懸命話してくれて。
それがとても、可愛らしかった。
俺が促すと、使えてんのか使えてないのか分かんない敬語を、外すようになってくれて。
“絶対楽しいって言わせるけん”
ゲーセンなんて、子供だな。
そうからかった俺に、リュウキは自信満々にそう言い放った。
……そしたら、いつの間にか俺も、夢中になっていて。
“っ!!ほら見ろ!!よっしゃ!!”
“っ、ぶ、はははっ、!!めっちゃ喜んどうやん!!”
“っ、うるさいな!嬉しいだろ!”
“ふはは、、っ、ほら、楽しいやろ!?”
“…っ、うん、楽しい。”
“っ…、かわいい、たっくん。”
“………あ、初めて名前呼んだ。”
“え?…っ、い、いいんやろ、?”
“うん。これ取れたことより嬉しい。”
あの時初めて、名前を呼んでくれたっけ。
あのキーホルダーの事を、可愛くないね、なんて、言い合って、一緒に笑い合って。
距離が縮んだことが、嬉しくて、
自然と笑顔になって、楽しくて、
子供みたいに、はしゃいでいた。
リュウキといると、
目の前が、明るくなった。
俺が、苦しさに捧げてしまった青春を、
取り戻せたような気がしていた。
そんな楽しかった記憶を思い出しながら、青になった信号に従って、ゲーセンを通り過ぎていく。
思い出が、遠くなっていくようで、
でも、振り返ることができなくて。
胸がぎゅっと、苦しくなりながら、
昨日、リュウキを見かけたコンビニを通り過ぎた。
後輩との姿を思い出しながらも、
2人でアイスを食べた、あの日の事が、浮かんでいた。
俺の家に来た帰り道、コンビニまでねって約束して。
着いた途端、”アイス奢ったげる”なんて言い出して。
本当はあの時、コンビニに着いてしまったことが、ちょっとだけ、名残惜しかった。
……リュウキも、そう思ってるのかななんて、内心では嬉しかった。
あの日、また会いたいって、言ってくれて。
次の日、一緒に、海に行って。
“どっちが早いか競走しようや!”なんて、子供みたいな事を言うリュウキが可愛くて。
そのテンションの高さについ楽しくなって、気が付くと俺も一緒にはしゃいでいた。
時間が経つのがあっという間で、
楽しかったと、俺に言ってほしそうに話すリュウキに、思わず笑って。
……だって、本当に、楽しかったから。
帰りたくないと思ったことを、
自然と、口にしていた。
いつも、リュウキといると、
知らない自分に出会えた。
いつも、リュウキの光に包まれるみたいに、
暖かい気持ちになって。
“たっくん、”
“ん?”
“……俺、また、誘うから。また一緒に、楽しいことしようね?”
“…っ、ふふ。うん。ありがとね、”
……リュウキは、いつも、
俺の事ばかりを、考えてくれていた。
俺が、寂しくならないように。
俺が、苦しくならないように。
毎日毎日、ラインも送り続けてくれて。
いつも、俺を巻き込んで。
俺を、光の中へ、連れていってくれた。
リュウキは絶対に、
俺の事を、置いていかなかった。
……それなのに、俺は。
“もう、たっくんのこと、すきじゃない”
あんな事を、言わせるなんて。
どこを見ても、
どこに行っても、
リュウキの事を、思い出しているくせに。
「っ、、……、」
視界が滲んで、海の前に車を停めた。
輝きを放つ海。
そこに繋がっていく、階段。
俺がリュウキに、先生の事をまだ好きだと、話した場所。
“それでもいい”
“それでもいいけん、たっくんの傍におりたい”
“今までずっと、1人で抱えとったんやろ”
“苦しかったね、たっくん”
リュウキの言葉が、走馬灯のように、
頭に、浮かんでくる。
あの時から、ずっとリュウキは、
俺の苦しさに、寄り添ってくれていた。
あの時、話さなきゃと思ったのは、
きっとリュウキが、
すでに、大事な存在になりかけていたから。
“俺、諦めんけん”
“気付いとるやろうけど、俺、たっくんの事が好き”
辛いなんて、
苦しいなんて、
そんな素振り、一切見せずに。
“俺が、絶対忘れさせるけん”
そう、強く誓うような、言葉をくれて。
それからずっと、その言葉通りに、
俺を楽しませて、喜ばせて、
何があっても、笑顔で、そばに居てくれた。
何度も何度も、その笑顔に、救われた。
何度も何度も、
その姿に、元気をもらって。
“たっくん!”
リュウキの、
明るくて、眩しくて、
光みたいなその声が、
隣にいるみたいに、
頭に、響いていく。
「っ、…、〜っ、…りゅうき、っ、、…、」
今更、なに、
泣いてんだよ、
リュウキは、
もう、
「……、っ、」
コン、コン。
ふいに、車の窓を叩かれる音が、耳に入った。
「っ、…あ…、」
顔を上げると、窓の向こうに、
ランが立っていた。
“どうしたの”
涙で濡れている俺の顔を見てびっくりしたのか、目を丸くして、そう口が動いた。
「……っ、、」
俺が戸惑っていると、助手席の方に回り、”開けて”と再び窓を叩くラン。
ドアを開けると、心配そうな顔で声を掛けてくる。
「たっくん、…どうしたん、」
「………ラン…、なんで、、」
「店の買い出し行こうと思ったら、たっくんが見えたけん。……乗ってもいい、?」
「……、うん、」
ランが助手席に乗り込み、少しの静寂が流れる。
「……なんで、泣いとったん。」
「っ、……、」
「………俺、……会ったよ、リュウキに。」
「……っ、え……、?」
言葉を発せなかった俺に、何かを察したようなランが、その名前を口にした。
“リュウキ”と聞こえた瞬間、自然と、ランの方に視線を向けていた。
「 ……たっくんに何があったか、全部聞いた。…あの頃付き合ってた人から、本当はずっと好きだったって言われたんやろ?」
「………、うん……、」
「……やっぱり、…あの人の事、まだ好きやったんやね、たっくん。」
ランに先生の事を聞かれた時、誰にも未練がある事を言わないつもりでいた俺は、昔の事だ、関係ないだろなんて、言い返してしまった。
でも多分、ランは、そんな俺に気付いていた。
「……、誰にも、言うつもりなかったから、」
「…でも、言ったんやろ、リュウキには。」
「…….っ、…リュウキには、…言わなきゃって、思ったから。」
「……リュウキが、たっくんの事好きだから?」
「……、違う、」
あの時の俺は、そういう思いもあった。
先生に気持ちがある俺に、もし好意を向けてくれているんだとしたら、それがもっと大きくなる前に、俺から離れた方がいい。
リュウキの傷が、浅い方がいいと。
でも、本音では、
俺は多分、リュウキに聞いて欲しかった。
ただ、リュウキに。
リュウキなら、
俺の事を、救ってくれるんじゃないかって、
そう、思ってた。
「……そっか。…リュウキさ、たっくんの気持ち、…ちゃんと、分かってくれとったよ。…ずっと好きやった人に、全部捨てるからついてきてって言われたら、そりゃ行くやろって。…たっくんは、悪くないって。」
「っ、、…そう、…言ったの、…りゅうきが…、」
「言ってたよ。…たっくんが幸せなら、俺はええけんって。」
「…っ、…、、」
「……でもさ、たっくん。」
リュウキの言葉に、心臓がギュッと掴まれたように痛くなっていると、ランが一呼吸置いて、俺を見つめた。
「俺、たっくんともリュウキとも友達だから、ちゃんと言うよ。…リュウキのこと好きやないなら、ちゃんと言ってあげて。……リュウキのこと、利用しないで。」
「っ……、」
ランの言葉が、胸に突き刺さる。
リュウキの気持ちを知っていながら、俺は、心の拠り所にしてしまっていた。
それでも、
ちゃんと向き合いたいって、思ってた。
その気持ちは、確かにあるのに。
でも、…そうしたら、
過去の苦しんだ俺は、報われない。
「……っ、……ランには、わかんない…、」
「わかんないよ。俺には、たっくんがリュウキをどう思ってるかなんて、わかんない。…でも、……リュウキが、どう思ってるかは、知ってるから。」
「……、え……、?」
「……リュウキ、たっくんとの事、たくさん話してくれたんよ。…海見ると、たっくんの事思い出すんやって。たっくんと初めて遊んで車に乗った時、緊張しちゃって海ばっか見てたとか、…そこの階段で、たっくんが昔の話をしてくれて、まだその人が好きだって分かってても、それでもいいって告白したって。」
「……っ、…、」
「……たっくんの家に行って、帰り道に、ここの近くで一緒にアイス食べたりして、…たっくんと海で遊んだとき、たっくんが楽しそうに笑ってくれて、…帰りたくないって、言ってくれたって。」
「っ、、…、」
「……この海に、来るとさ、…たっくんの事、……好きだなって、…思ってしまうって。…だからもう、来たくないって。」
「〜っ、…、っ、…ぅ、〜〜っ、、…っ、」
“……ばいばい、?”
寂しそうに、そう言ったリュウキに、
またねって、言ったのは、俺なのに。
「……ねぇ、たっくん。……今、たっくんが会いたいのはどっち?」
「…〜っ、、ひ…っ、ぅ……っ、」
涙が勝手にぼろぼろと溢れて、上手く話せなくて、返事を返すことができずにいた俺に、ランが言葉を続ける。
「……リュウキ、…この間、告白されたんだって。その相手に、次会ったら返事するって言ってた。……確か、それ、今日だと思う。」
「…っ、、え……、、」
きっと、
昨日隣にいた、後輩への返事。
“明日、話聞いてやろ〜っと。”
“……明日、?”
“あ、タクトさんも来ます?サークルの集まり、大学であるんすけど。”
ランの言葉を聞いて、昨日の何気ない生徒との会話を、思い出していた。
……今日、リュウキはきっと、大学にいる。
先生が待っている、大学に。
「たっくん、…俺、そろそろ行かんと。……じゃあね、?」
「……っ、…うん…、ありがとう、…ラン……、」
ランが車から降りていった後、しばらく海を見つめて、涙を拭うと車のエンジンをかけた。
車を走らせて、何度も通い慣れたその道を、ひたすらに進んでいく。
俺が、好きな人に、出会えた場所。
車を端に停めて、大学を見つめる。
“今、たっくんが会いたいのはどっち?”
ランの言葉が、胸に響きながら、
心を決めて、
後部座席に忘れられた、先生の服を掴んだ。
***
(🐿視点)
『リュウキくん、俺と遊んでください』
後輩に告白されてからそんなに時間が経っていないのに、すぐに誘いのラインが届いた。
その潔さと勢いに圧倒されながらも、頭で余計な事を考えないうちに、すぐに『いいよ』と返事を送信した。
「ゲーセン行きます?」
「えっ、?」
会って提案されたその場所に、一瞬、躊躇いの声を出してしまった。
……たっくんと、初めて、遊んだ場所。
「嫌でした、?リュウキくん、好きだから…ゲーセン。」
「あぁ、いや…っ、ううん。いーよ、行こ。」
俺が、たっくんと遊んだところだなんて、
……そんなの、こいつには関係ない。
ちゃんと、向き合わないと。
俺の事を、好きだと言ってくれる人に。
「あっ、リュウキくん!新しい景品出てるっす!」
「え?どこ?…うわ、まって欲しい!」
「俺が取ります!やりましょ!」
ゲーセンに着いて、俺と同じテンションではしゃぐ後輩。
まぁ歳近いけん、その辺は合うんよな、なんて思いながらも、”子供やな”なんて、俺をからかっていたたっくんを思い出してしまう。
「あ、リュウキくん、これ良くないすか?」
「ん?」
目的のクレーンゲームに向かう途中、ふと後輩が立ち止まって、別の景品を指さした。
「……っ、…、あ、、」
たっくんと、お揃いのキーホルダー。
それを指さされて、言葉に詰まってしまう。
「どうしたんすか?」
「っ、……ううん、」
「……あれ?そういやこれ、リュウキくん付けてませんでしたっけ?」
「えっ…」
そう言って、俺のバッグに視線をやる後輩。
「ん?取っちゃったんすか、?」
「あー、…うん。」
「なんでっすか、可愛いのに。」
「……可愛い?お前まじ?」
「え?まじっすけど…」
「……そっか、」
このキーホルダーのことを、”可愛くない”で一致して、笑い合った自分とたっくんを思い出しながら、胸がぎゅっと、切なくなっていく。
……あぁ、またや。
気を抜くとどうしても、
たっくんの事を、考えてしまう。
……前を、向くって、決めたやろ。
「……じゃあ俺が持っとうやつ、あげるよ。」
「え!まじすか?!」
もう、俺が持ってる、意味もないけん。
……そう思いながらも、このクレーンゲームの前で、たっくんが楽しそうに笑っていた顔を、言葉を、思い出してしまう。
子供だなんてからかっていたくせに、
いざ始めると、一緒になって楽しんでいた。
景品が取れた瞬間、聞いた事ない大声で喜んで。
照れたように笑って、楽しいと言ってくれた。
……嬉しかった。
愛おしかった、本当に。
「……ごめん、……やっぱ嘘。」
「え、ちょ、なんなんすか!笑」
「うっさい。後それやっぱ可愛くないけん、やらんで。あっち行こ、」
あのキーホルダーを、
たっくん以外に取って欲しくないと、
思ってしまっていた。
……
「今日ありがとね、誘ってくれて。」
「……っ、リュウキくん。」
「ん?」
帰り際、バイバイと言おうとした瞬間、コンビニの前で後輩が立ち止まった。
「…アイス、食べたくないすか?」
「えっ、?」
「俺、奢るんで、行きましょ!」
「ちょっ、おいっ、!」
いきなり腕を取られて、コンビニの中へと引っ張られていく。
……あぁ、多分、俺と同じだ。
帰りたくなくて、時間がもっと欲しくて。
アイス奢るって、
俺も、たっくんを、足止めしたっけ。
後輩が奢ってくれたアイスを、
コンビニの前で食べて、話をして、
その間も、ずっと、
防波堤に座ってアイスを食べながら、たっくんとくだらないやり取りをして笑ったのを、思い出していた。
「ありがとね、ご馳走さま。」
「全然っす。ちょっとこれ捨ててきますね、」
そう言って再び店内に入っていく後輩をぼーっと店の前で待ち、戻ってくるとバイバイする雰囲気になった。
「リュウキくん。明日、大学来ますよね、?」
「サークルの集まり?うん、行くよ。」
「…俺、待ってるんで。今日はありがとうございました、楽しかったっす!じゃあ…っ、」
去っていく後輩を見ながら、また、自分と重ねていた。
楽しかったって、言ってあげたらよかったかな。
きっと、そう、言ってほしかったよね。
………たっくんも、こんな気持ちで、俺の事、見とったんかな。
俺がいつも帰り際に、
寂しそうな顔をするから。
たっくんはいつも察したように、
楽しかったよ、って、頭を撫でてくれていた。
たっくんは、俺に、合わせてくれとったんかな。
俺と会ってても、ずっと、
先生の事を、考えとったんかな
俺は、たっくんに、
出会わない方が、よかったんかな
暗くなっていく空を眺めながら、
そんな事を考えて、
息が、苦しくなっていた。
***
“俺、待ってるんで”
朝起きた瞬間に、後輩のその言葉を思い浮かべた。
……返事、今日、しなきゃな。
いつまでも、長引かせるわけにもいかない。
そう考えながら大学に行く準備をして、家の鍵を取ろうとした瞬間に、玄関に置かれたままのキーホルダーが目に入った。
「………行ってきます。」
そう、小さく声を掛けて、
小物入れの中にしまい込むと、玄関のドアを開けた。
……
大学に着いて部室に向かうと、すぐに後輩の姿が目に入り、俺に気付いたのか嬉しそうに近づいてきた。
「リュウキくん、おはようございます!昨日はありがとうございました…っ」
「おはよ。俺もありがとね。……あのさ、…ちょっといい、?」
「え、?…っ、あ、…はい…っ、」
後輩を連れて一度外に出ると、部室がある棟の下で足を止める。
「……あのさ、…まぁ、…何言うか、分かっとうと思うけど……、」
「……っ、…はい……、」
緊張が、痛いくらいに伝わってくる。
勇気を出して、俺に告白をしてくれた。
泣かせたりしないなんて、かっこつけてくれて。
……俺は、
新しく、
前を、向かなくちゃ。
「………こないだの、返事なんやけど。」
「はい……っ、」
「俺、……、俺、さ、、
お前と「ごめん、この子、俺と付き合うから。」
「……っ、え、、?」
いきなり腕を掴まれて、
後ろから、 たっくんの声がした。
「っ、…、え…っ、?たっく、、っ、」
「だから、ごめんね。」
「……っ、、…あ……、〜っ、…はい…、」
後輩はたっくんの言葉に狼狽えた後、俺の顔を見て、諦めたようにその場を去っていった。
「……っ、なん、で……っ、?」
目の前に、たっくんがいること、
俺の腕を掴んでいること、
たっくんが、さっき、
後輩に、放った言葉。
全部が、信じられなくて、
ただただ、心臓がバクバクと
音を立てていることが、
現実なんだと、知らせてくれた。
「……ごめん、勝手な事言って。」
「……っ、…たっくん…っ、なんで、…なんでここにおると…っ、?」
「……先生に、会ってきた。」
「っ……え……、?」
「…服、返してきて、……もう、会わないって、言ってきた。……ちゃんと、さよならしてきたから。」
「……っ、、…、なんで…、…っ、いいの、?……それで、…本当に、いいん…っ、」
「うん。…俺が失いたくないのは、……リュウキだって、気付いたから。」
「……っ、〜っ、、…っ、たっく、っ…、」
もう、その声で、
俺の名前が、呼ばれることはないんだと、
そう思っていたから。
抑えていたたっくんへの感情が、
涙になって、
止めどなく、溢れ出していく。
「散々振り回して、……苦しめて、本当にごめん。…自分勝手でごめん。でも、…俺は、リュウキの事が好きです。……俺が、…ここにいる、意味になってくれる、?」
たっくんにとって、先生との、思い出の場所。
ずっと、それを守るために、
たっくんが、居続けた地。
……その意味を、
俺に、託してくれた。
たっくんにとってそれは、
“好き”よりも、重い、想い言葉。
「……っ、…うん…っ、〜っ、うん。…なる、絶対なるけん…っ、」
「っ、…よかった、…っ、」
たっくんの手が、俺を抱き寄せて、
ぎゅっと、優しく、包んでくれた。
その手は、少しだけ、震えていて。
……きっと、俺には想像もつかないくらい、
苦しくて、辛くて、
そんな決断を、してくれたから。
……俺は、そんなたっくんを、
心から、ちゃんと、笑わせてあげたい。
「…っ、たっくん、」
「……っ、ん…、?」
「俺が、…断るわけないやん……っ、?」
「…っ、、!ふふ…っ、…そーだった。笑」
「ふは…っ、やけん、そーだったもおかしいやろって…っ、!笑」
「ふふっ、、…ねぇ、リュウキ、」
「ん、?」
「…俺と、…出会ってくれて、ありがとう。」
「……っ、たっく、、〜っ、ぅ、っ、ん、、…俺も、たっくんに、出会えて、よかった……っ、」
本当は、心の奥底では、
たくさん、たくさん抱えていた寂しさを、
全部包み込んでくれたようなその一言が、
胸の中に、熱く、染み渡っていった。
***
(🍓視点)
俺は、先生のことが、本当に好きだった。
先生に振り向いてもらえることだけを、ずっと願っていた。
先生の”好きだ”という言葉でそれが叶った瞬間は、もちろん嬉しくて。
先生のところに、自分は行くんだと、
決まっている未来のように、
無意識に考えていた。
でも、リュウキの事を思い浮かべる度に、
その存在の大きさに、気付かされて。
太陽みたいに明るくて、
強くて、優しくて、
きっと俺よりも、
俺の事を、考えてくれていた。
そんなリュウキの事を、
俺はいつの間にか、好きになっていた。
先生の気持ちが嬉しかったのは、
自分の苦しかった時間が、
やっと報われた気がしたから。
先生の所へ行かない自分を、過去の自分はきっと許してくれない。
そう、思っていた。
気持ちに嘘をついて、先生のところに行こうとしていた。
でも、そんな事をしても、
誰も幸せにならない。
俺が願っていたのは、何だったんだろう。
それは、きっと、
先生と幸せになることじゃなく、
好きな人と、幸せになることだった。
そして今、
俺が好きなのは、
……今、選びたい未来には、
もう、リュウキがいたから。
「……ねぇ、たっくん。」
「…ん、?」
「俺、たっくんが好きだよ。……誰よりも。」
「……っ、」
リュウキのその言葉が、
俺はもう、大丈夫だと、
そう、言ってくれているような気がした。
「……リュウキ。」
「ん、?」
「…っ、…俺も。」
俺の言葉に、ふわりと顔を綻ばせたリュウキが、どうしようもなく、愛おしくて。
この気持ちを、伝えたくて。
そのまま、そっと、
光に吸い寄せられるように、
ゆっくりと、唇を重ねた。
#mazzel
あめ
1,035
コメント
8件
んえええめっちゃ泣きました…😭😭😭😭 良かった良かったぁぁ😭😭💕 天才しか出てこない…なかなか結ばれずやっと結ばれる感じほんまに好きです🥹過程も丁寧でスクロールする手がほんまに止まらないです🥹🥹💕 次回も楽しみです😭✨️

やばーーーーーーーい!!!!!!! 遂に2組目! 予想は外れちゃったけど、ほんとに幸せな気持ちです笑 🐰💖みたいな感じでラブラブしてる所は見られるのか、! 🦅☕️は上手くくっつくのか! 全てが楽しみで、頭の中で🍓🐿のアフターストーリーを妄想しまくってます笑笑 次回も楽しみに待ってます🍀*゜
涙ちょちょ切れてます🥲お願いですから書籍化してください買いますから。よくよく考えてみれば好きな人に告白の返事貰えるって時にイケメンに好きな人取られた後輩くん可哀想っすね。そんな事どうでもいいんですよ!ラン兄ありがとう。セイナオ、タクリュキときたら次はらんかいかな、?みちさんの真骨頂ですね🤔楽しみです。余談ですがみちさんの小説読むようになってから国語の成績伸びました大好きです😘