コンコンッと中也が首領室のドアを叩く。
「首領、中原です」
「入りたまえ」
「失礼します」
許可をもらい、丁寧に開き戸を開ける。何歩か歩いた後、帽子を取り胸元に当て、小さく頭を下げる。
「首領、御用件は何でしょうか」
「中也君、最近眠れてるかい?隈が酷いよ」
「…はい、よく眠れています」
「そうかい、では君に今日から四日間、有休を与える。好きなことをして楽しんでいきなさい」
中也がずっと使わずに貯まってしまった有休を与えられた。仕事を三日も休むなんて有り得ない、という仕事人間の中也は口を開く。
「首領…!俺は、」
「中也君、これは命令だよ。この三日間は仕事しなくていい。ゆっくりしていきなさい」
「…ありがとうございます。お言葉に甘えて。では、失礼します」
結局、首領の命令に逆らうことも出来なかった中也は自分の幹部室に戻り、自宅に帰る準備をした。
するとポケットに入っているスマホからバイブ音の振動が、ブーッブーッと鳴った。
スマホを取り出し、画面に書かれている名前を見た。
“青鯖”
ずっと戻ってこなかった相棒からの電話。恐る恐る応答のアイコンをタップし、スマホを耳に当てる。
『やあ、中也。久しぶり』
スマホという機械から彼奴の声が聞こえる。四年ぶりに聞いた声。中也は四年前の姿を思い出す。
姿も血もマフィアで、誰から見ても黒だった。右目に包帯を巻き、見えるところでは首や腕、足にも包帯。彼奴はハッピーハロウィンでも参加してンのかっていうくらい包帯人間。しかし、見た目に反して冷酷で観察力や洞察力がとても優れていた。思ってもいないことを簡単に口に出し、相手を操る。歴代最年少幹部の彼奴は誰もが恐れるマフィアの男だった。
『中也?もしもーし、おーい……ちびっ子マフ』
「だァれがチビだァ?あぁン?」
『君が反応しないからでしょ』
「…用件はなんだよ、行方不明だったクセに」
『いやぁ、君、今日から暇でしょ?』
「まあ、……は!?何で知ってンだよ!!」
『はいはい、そこは置いといて』
「置くな!!」
『今から君の家に行くね』
「は、来んな」
ブチッ、プーブープー
電話の切れた音が聞こえた。
勝手に切りやがったな彼奴。
後から冷静になって会話を思い出す。
“今から君の家に行くね”……
「……マジか、」
中也は思わず口元を隠した。
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