ある程度煮込んで置いておく。
その間、2人は机を挟んで対話していた。
「ロンレイは、どこから来たんだ?」
水を差し出しながら、リンデェンは聞いた。
若干、聞いてはならなかったか とも思ったが、意外にもロンレイは嫌な顔せず
自然に答えてくれた。
「西の方だよ。相当遠い遠い所だ。
だからここの方言はよくわからなくてさ。」
楽しそうに話すロンレイを、リンデェンも微笑みながら見つめていた。
 ̄本当に顔が整っているな……
綺麗な肌に、長いまつ毛と真っ直ぐに伸びる鼻など、自分との差で若干心傷する。
爽やかな笑顔が、なんとも眩しい。
「お兄さん、俺に何かついてる?」
ロンレイは、リンデェンが机に頬ずえを付いていた形と同じようにし、
前屈みで同じ体制になり、リンデェンを見つめた。
リンデェンは思わず、姿勢を少し正し、
慌てて答えた。
「何もついてないさ! あ、そうだ。水呑を新しく入れてくるよ。」
少し顔を赤らめて、勢いよく立つと、2つの水呑に水を足した。
ロンレイは笑っている。
そんなに可笑しいだろうか。
見すぎてしまったかな。
深呼吸をし、平然を装って座り直した。
「そういえば、ロンレイはどこから来たんだ?言いたくなかったら大丈夫。」
一応、嫌な思いはさせたくなかった為、言わない選択肢もつくった。
だが、ロンレイはいや顔せず説明してくれる。
「遠く離れたところから来たんだ。ここからだと、あっちかな? 」
そう言って西の方向に指をさす。
「遠い西から……それじゃあ、家を出てからもう長い時間経ってるのか。」
楽な姿勢になおし、自然対に戻る。
「そうだな…もういくつか夜を明かしてきてここまで来たんだ。お兄さんのように、親切な人に初めて出会ったよ。」
スマートに人を褒める彼は、無自覚だろう。
なんとも、人から好かれそうな (特に女性)
性格だと思った。
「ロンレイ、君は本当に……ありがとう。」
一応、感謝の言葉を伝えた。
お世辞だろうが、リンデェンの心は気持ちよくなっている。
彼の思うがままなのか……?
 ̄本当にすごいな。
ひと段落ついたところで、扉が開いた。
リンシィーが帰ってきたのか。
「おかえり、リンシィー。 」
リンデェンは、いつものように振る舞うが
リンシィーの返事は帰ってこなかった。
まだ警戒しているのか。
ただ、昨日のことがあり、リンデェンも完全に人だと信用しているということでもない。
リンシィーもそれをわかって、判断をリンデェンに任せている。
「 リンシィーさん?少しだけ、朝食の準備を手伝ったよ。」
初めて、ロンレイがリンシィーに話をしたか。
だが、リンシィーからの返答は、若干怒っているような気がした。
「そうですか。それは、私へのなんですか?
自慢ですか、承認欲しさからですか?」
若干というか、怒っているように聞こえる。
ロンレイをそこまで毛嫌う理由は、リンデェンには分からなかった。
彼は、よくでしき青年だと思っている。
すると、ロンレイはリンシィーに邪な態度をとらずに、尺弁した。
「そんなんじゃない。初対面の人が触れた食事は、もしかしたら嫌かも と思って。 」
 ̄そんなことを気にしたいたのか。
リンデェンには驚きだった。
リンシィーは黙っている。
「そんな事ないさリンシィー、違う?
昔、私とリンシィーが知り合ってまもない頃、美味しいと食べてくれただろう。」
この場を宥めるために、不確かな記憶を辿って
代打で話した。
違っていたら、どうしようかとは思ったが。
リンシィーの眉毛が僅かに動く。
ただ、お腹を空かせていたのか、気にしない という意味合いなのか
途中まで終わっていた料理に手を伸ばし、続きを始めた。
ロンレイはほっと息をつく。
「私は箸を作っておくよ。外へ出てくる。 」
ロンレイとリンシィーは2人きりになったら、何を話すのだろうか。
少しの好奇心から、二人にしようと思い、
なんらかの理由をつけて外へ出ようとした。
すると、すかさずロンレイが後ろから言う。
「それなら俺も着いていく。自分の分なのに、全て任せるのは、申し訳ないから。」
そう言ってリンデェンよりも先に、外へ出てしまった。
少し変わった子なのか、
二人は流石に嫌だったか。
リンデェンの言葉を聞いた時、リンシィーは
此方を振り向きかけていた。
リンシィーも乗り気ではなさそうだし、言ってしまった以上2人で外へ出た。
2人は少し山の方へ入り、ちょうどいい木材を探しに出た。
途中、ロンレイが言う。
「お兄さん、さっき俺とリンシィーさんを2人にしようとした?」
口調はまるで怒ってなどおらず、むしろ楽しんでいるようだった。
少し安心すると、認めることにした。
「そうだよ、バレてた?2人には、仲良くなって欲しいんだけどね……」
言葉を詰まらせると、ロンレイがリンデェンに相談するように言う。
「俺もリンシィーさんと仲良くしたいけど、
あまり、俺の事をよく思ってないようだし。」
ロンレイは言い終わると少し俯いてしまった。
リンデェンはロンレイの肩を軽く叩き、元気を出すように言う。
「まだ会ったばかりだからね。それと、昨日色々あったんだ。だから、警戒心が余計に働いているんだと思う。」
するとロンレイは顔を上げて、姿勢を正して歩き出した。
リンデェンに ありがと と言って、前を進み出した。
「昨日何かあったの?」
 ̄興味津々だな……
好奇心旺盛、とでも言おうか。
言いたくない訳ではなかったため、簡単に説明することにした。
「そうか……そんなことがあれば、俺を簡単に信用するのは難しいか。
ところで、俺はさっき言っていた青く光る鹿について興味があるんだ。」
そういう彼の瞳は、若いが故のなにかが感じられるような気がした。
青く光る鹿について、リンデェンも気にかけていた。
この耳飾りもだ。
そんな彼に、耳飾りのことについて、話してみることにした。
「この耳飾り、ロンレイはどう思う?」
少し間をあけて、ロンレイは返って聞いた。
「どう思う…… お兄さんは、どうして右だけに付けているの?無くしたとか?」
その回答に少し笑って、答えた。
「この耳飾り、さっき言っていた青く光る鹿から貰ったんだ。あの鹿も耳に花を付けていた。
お揃いかな。」
それを聞いてロンレイはより、興味をもったのか尚リンデェンに話した。
「凄く綺麗な耳飾りだね。群青色の花 この花は、ツキミソウじゃないかな?」
「ツキミソウ?」
初めて聞く花の名前に、聞き返してしまう。
「ツキミソウっていう花を知らない?でも、その鹿が持っているのはおかしいか…… 」
 ̄どういうことだろう?
普通の鹿なら、どんな花を持っていても不思議だが、ツキミソウはよりおかしいのか。
意味は理解できなかった。
「ツキミソウは、どこに生息するんだ?」
自分の耳飾りに触れながら、ロンレイに聞いた。
「俺が昔住んでいた所に、たくさん咲いていたよ。家の近くには、花畑があった。 」
綺麗なツキミソウの花畑。
「それは……見てみたいな。」
思わず口にすると、ロンレイが反応した。
「良ければ今度見に行こう。遠いから、いつか
時間が有り余ったときにでも。」
2人は足取りを軽くして、森へ進み、いい具合の木を探した。
それから、古屋へ帰ると朝食ができるまでの間で、いくつかの箸を作っおいた。
その間気づいたことがある。
ロンレイは、手先が器用で工作が得意だ。
手際よく、何本も簡単に作ってしまう。
おまけに、余った木材で箒や便利器具などいくつかのものを作ってくれた。
2人は木材を余らせることなくして、作業を終わらせると古屋へ戻って行った。