テラーノベル
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一度膨らんだ妄想は、変な方向へとどんどん加速していく。綺麗な看護師や、若いお見舞い客の女性が、ナオミに連絡先を聞いている光景が脳裏に浮かんで、胸の奥がキュッと苦しくなった。
「……そんなの、嫌だな」
ぽつりと、誰もいない部屋に寂しい呟きが落ちる。
その瞬間、穂乃果はハッとして自分の両頬を抑えた。独占欲に似たその感情は、自分の、ナオミに対する紛れもない『恋心』そのものだったから。
せめて、何処の病院を受診するのか、聞いておけばよかった。
なんなら、ついて行った方がよかっただろうか? いや、待て。自分が行ってどうすると言うのだ。家族でもないのに、男の姿のナオミの付き添いとして横に並ぶ自分を想像してしまい、頭を掻きむしりたいほどの衝動に駆られる。
――今頃、もう手続きは終わっただろうか。
気になって仕方がなくて、穂乃果はベッドの上でスマホを握りしめた。
『無事に入院できましたか?』『体調は大丈夫ですか?』
そんなメッセージを打っては消し、打っては消しを繰り返す。けれど、付き合ってもいないのにこんな連絡をするなんて、さすがに「重い女」だと思われてしまうかもしれない。
(うう、ダメだ……送れない……っ!)
結局、送信ボタンを押す勇気は出ず、画面を伏せてガバッと布団を頭から被った。
余計に悶々としてしまった上に、シーツからも自分の肌からもまだナオミの熱が残っているようで、意識すればするほど頭が冴え渡り、まともな仮眠すらとれないまま夕方を迎えてしまう。
◇◇◇
結局、寝不足と終わらない悶々とした思考のせいで、どっと疲労感を覚えたまま、穂乃果は仕事用の鞄を手に取った。
「よし……っ、仕事、仕事!」
パン、と自分の両頬を叩いて無理やり気合を入れる。ナオミのことでパンクしそうな頭を強引に仕事モードへと切り替えながら、夕暮れの街へと歩き出した。
ナオミさんがいない数日間、ちゃんと自分の仕事を頑張らなきゃ。
――そう、自分を奮い立たせてナースステーションのドアをくぐった、その時だった。
「……え?」
一歩足を踏み入れた瞬間、穂乃果の身体がカチリと凍りついた。
あからさまに、病棟の空気が悪い。
いつもなら「お疲れ様です」と迎えてくれる先輩ナースたちが、穂乃果の姿を見た瞬間にピタッと話を止め、弾かれたように視線を逸らした。申し送りの準備をしている同僚たちも、チラチラとこちらを盗み見ては、小さな声でヒソヒソと何かを囁き合っている。
不思議に思う間もなく、すれ違いざまに先輩ナースが放った、隠そうともしない刺々しい声が、穂乃果の耳へと飛び込んできた。
「……よくあんなことしておいて、平気な顔で出勤してこられるわよね」
「本当。真鍋先生があまりにも可哀想……」
「ッ……!?」
直樹の名前が出た瞬間、穂乃果の心臓が嫌な音を立てて早鐘を打ち始める。
さっきまで頭を占めていた恋の葛藤は一瞬で吹き飛び、耳を疑うような最悪な『噂話』の全貌が、じわじわと穂乃果の元へと押し寄せてきた――。
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瀬名 紫陽花
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