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ごきげんよう、そしてこんばんわ。レイミ=アーキハクトです。夕暮れとなれば暑い夏の日差しも和らぎ、幾分過ごしやすくなります。
さて、これから乗り込むわけですが私が荷馬車を用いているのには理由があります。昨晩宴を開いているとの情報を受けた私達は、直ぐに作戦を立てました。
内部に潜伏している内通者と連絡を取ることは容易で、私は『マルテラ商会』から荷馬車とお酒を購入。
そしてエレノアさんにはとある花を探して貰いました。花の名前は、『バラバラの花』。真っ赤な花を咲かせる植物です。
以前ロメオ君に猛毒を持つ花だと聞いて、症状などから考えるにおそらく地球にあったトリカブトに非常に良く似た毒性を持つと判断しました。
幸いレーテル近郊に自生していたので、これらを採取して酒に仕込むことにしました。
まあ、有り体に言えば毒殺を画策しているわけです。相手はゴロツキや身分を奪われる程の悪事に手を染めた貴族達です。私が斬るまでもなく、毒殺がちょうど良いでしょう。間違っても戦って華々しい最後を、等の贅沢は許しません。
お姉さま曰く、ガズウット男爵はあの日に関与していたみたいなので、彼だけは殺さないように気を付けないと。
私は内通者の手引きでお酒を配達することになった村娘と言う設定です。
毒殺しようと言った時は、エレノアさんの顔がひきつりまして。
「やっぱり姉妹だねぇ」
なんてしみじみと言われてしまいました。お姉さまと同じ感性を持っていると言う意味ならば、問題はありませんね。
荷馬車を操り砦の前に来ました。草木に侵食されてあちこちが崩れています。マスケット銃が普及する前に建てられた古い砦、現在ではほとんど意味をなさないでしょう。
正門付近には数人のゴロツキが屯していました。ふむ、武器はリピーターカービンライフルですか。ボルトアクションライフルよりは劣りますが、マスケット銃よりは遥かにマシですね。
「止まれ!こんなところに何の用件だ?」
「ミルタン子爵家筆頭従士様の命で、追加のお酒をお届けに参りました」
荷台の酒樽を見せながらそう伝えると、彼らは嬉しそうに笑みを浮かべました。
「なんだ、追加の酒か。ほら、早く運び込め!」
内通者とはミルタン子爵家の筆頭従士です。身分を剥奪されたのに、未だに貴族気分でロクな給金すら出さずにこき使われて恨みが溜まっていた様子。
家臣を大事にしない等論外ですが、故事に曰く他人の振り見て我が振り直せとも言います。帰ったらセレスティン達をしっかりと労ってあげないと。
「おい!お前も一緒に来いよ!飲ませてやるからさ」
ゲスな笑みを浮かべて私の身体をジロジロと見てきますね。この感覚は、理解します。
自分でもビックリですが、どうやら私の容姿は男受けが良いらしい。前世では全く縁がなかったので慣れませんが、使えるものは最大限に利用する方が利口です。
「では、お邪魔しますね」
私は笑顔を張り付けて一緒に砦へ入りました。まあ、間違ってガズウット男爵が飲まないように気を付けないといけませんからね。
内部も崩落している箇所が多かったのですが、広い広間がありそこにはゴロツキや多少身なりの良い没落貴族達が宴会を開いていました。緊張感の無さには呆れ果てます。
貴族だから殺されない?お馬鹿。私達一家がどんな目に遭ったか忘れたのか。
「新しい酒が届きましたぜ!子爵閣下の計らいだとさぁ!」
「おおっ!」
歓声が上がり、酒樽に向かってわらわらと群がってきました。用意した酒樽は五樽。数としては充分でしょう。
そして、如何にも偉そうな男性が現れました。そして側に控える衣服の痛みが目立つ男性へ顔を向けました。
「追加の酒を手配していたのか。マルケタ、大義である」
「はっ……」
マルケタ……なるほど、今の男性がミルタン元子爵をですか。マルケタとは内通者であり、ミルタン元子爵の筆頭従士です。
何とも傲慢な態度ですね。爵位を剥奪された以上平民と身分は変わらないと言うのに、その自覚もない。
「子爵閣下ぁ。この女を見てくだせぇ」
あっ、私を見た。
「ほう、下民にしては麗しいではないか」
「ついでです、コイツで楽しんでもバチは当たらねぇでしょう?」
ゴロツキの言葉で皆の視線が私に集まりました。ハッキリ言って不快でしかありません。
「ふむ、下民ではあるが……褒美としては良かろうな」
いや、私の意思は?
「ガズウット男爵」
「はっ」
ミルタン元子爵に呼ばれて一人の男が現れました。コイツがガズウット男爵。私達姉妹から何もかもを奪った奴等の一人っ!
……視線を外しましょう。殺気を堪える自信がありません。始末するのは連れ帰って洗いざらい吐かせてから、です。
「ここまで来れたのも、貴公の献身によるもの。下賎な下民の女で悪いが、先ずはこの村娘を授ける。なに、一夜限りの我慢だ。事をなしたら、上質な身分の女を用意しよう」
だから私の意思は?
「有り難き幸せ。ほら、此方に来い」
無遠慮に私の手を引いて強引に二階の部屋まで連れ込まれてしまいました。エスコートすると言う概念が……ああ、平民の扱いなど物同然と。不愉快ですね。
ただ、好都合であることに変わりはありません。部屋に連れ込まれる寸前、ミルタン元子爵がが酒樽の酒を皆に飲ませるのが見えました。マルケタ筆頭従士以外に。
あくまでも彼には飲ませないつもりなのですね。こき使えば忠誠など失われますよ。自業自得です。
私を強引に部屋へ連れ込んだガズウット男爵は、ゲスな笑みを浮かべて手招きしてきました。
「下賎な村娘には勿体無いが、その方にはワシの子種をくれてやろう。有り難く思うが良い」
「お断りよ」
「がっ!?」
おもいっきり股間を蹴りあげてあげました。
……ブーツを履いていれば良かった。サンダルなので露出している足の甲や足指に嫌な感触がしました。
膝を着いた彼の顔面に蹴りを叩き込み、意識を刈り取ります。歯が何本か折れたみたいですが、まあ許容範囲でしょう。
あと待つだけ。バラバラの花には若干ではありますが、遅効性があります。具体的には毒が効果を現すまでに五分前後掛かります。
即効性はありませんが、この場合は有効に機能します。即効性が強いと、まだ飲んでいない者が飲まなくなるからです。
これなら皆が飲んだ後にしっかりと効果が現れるのですから。
しばらく様子を見ていると、広間に居た者達が次々と血を吐いて踠き苦しみ始めました。私はガズウット男爵を縛り付けて外に出て、その有り様をゆっくりと鑑賞します。
「がふっ!?」
「げぇえっ!!」
即死できた者は幸せですね。死にきれず踠き苦しむ様は、見ていて気持ちが良いものではありません。別に同情もしませんが。
「ごふっ!!ごふっ!!」
おや、ミルタン元子爵は苦しみながらもまだ生きていますね。
その様を見下ろすマルケタ筆頭従士。
「御苦労様でした。此方が約束の報酬です」
私は金貨の詰まった小袋を手渡しました。
「ありがとうございます。これで悔いなく新しい人生を……」
彼の言葉が終わる前に、私は腰に差していた刀で首を跳ねました。まあ、当たり前ですよね。
マルケタ筆頭従士も子爵時代に悪政に加担していたのですから。もちろんお姉さまからの許可は頂いています。
跳ねられた首が床に転がり、首を失った身体は血を吹き出しながら倒れました。
「げほっ!げほっ!」
私の右足首をミルタン元子爵が掴みました。はぁ、血で汚れたじゃない。
私はそれを振り払い、しゃがみこんで彼と視線を合わせます。
「苦しい?貴方がこれまで苦しめてきた人びとの苦しみを少しでも味わえたのなら幸いよ。それと」
普段はしないんですが、敢えてお嬢様っぽく。身分に拘りがあるみたいですからね。
「私の名前はレイミ=アーキハクト。アーキハクト伯爵家の次女よ。そんな私を良いようにする?身分を弁えなさいな、下郎」
私の言葉に彼は目を見開き、そして白目になって倒れました。うん、スッキリ。