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白山小梅
12
#借金
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玄関土間は三人が入っても余裕があった。左側にはシューズクローゼットと物置を兼ねたスペースがあり、そちらにも上がり|框《かまち》が続いているため、どちらからでも出入りは可能だった。
瑠維は手に持っていた袋から全員分のスリッパを並べたが、志賀は自分のものがあると断ったので、春香と瑠維だけがスリッパに履き替える。
春香は二人の後ろを歩きながら、家の中をじっくり眺めていた。外見は豪邸のイメージだったのに対し、内装はどこか素朴な印象を受ける。
白の漆喰の壁と、くすんだ水色の腰壁。わざと見せている梁、フローリングの床。全てが合わさり、温かみのある空間を作り出していた。
二人とは別行動をするかのように、春香は一人で移動し始める。
アイランド型のキッチンと、その背面には造り付けの食器棚。白い扉には飾りが施され、まるでフランス辺りの台所に立っているかのような気分になる。
壁側のアーチ型の入口を入ると中にはパントリーがあった。こんなに収納出来たら、買い物だって少なくてすむ。
浴室も広々としていて、ゆったりとした時間を過ごせそうだった。ただ脱衣所の壁がやけに可愛らしい小花柄だったのを見た時、先ほどの志賀の言葉を思い出した。
『だから急にカラーの変更が入ったんですね!』
彼らしくないと思ったのは、春香を意識して変えたからなのだろうかーーそう思うと胸がキュンとする。
リビングに面した大きな窓の向こう側にはウッドデッキと庭が広がり、周りは樹脂製の高い塀が庭全体を囲んでいた。
これなら人の目が気にならないし、誰かが入ってくることはないだろう。
それから春香は二階に上がると、廊下沿いに四つの部屋があることに気付く。一つ一つ順番に見ていくと、同じくらいの広さの部屋だが、壁紙がそれぞれ違っていた。水色、淡い緑、レンガ、木目と、どの部屋を見ても瑠維らしくない気がしてクスッと笑ってしまう。
これっていつ頃変更することになったのかしら……急だったのなら大変だったはず。
春香は部屋の窓からバルコニーに出た。そこはどの部屋にも繋がっていて、そして目の前には大きく広がる海が見えた。
なんてきれいなのかしら……キラキラと輝く水面と、鼻先をかすめる潮の香りが心を癒してくれる。ここにいれば嫌なことも全て忘れられるような、そんな気持ちになれた。
ぼんやりと海を眺めていると、
「春香さん?」
と背後から瑠維の声が響く。
振り返ろうとした途端、背後から抱きしめられる。温かくて、ホッとする香り。たったこれだけのことでリラックスしてしまう自分がいた。
しかしやってきたのは瑠維だけで、先ほどの男性の姿は見えなかった。
「あれ、リフォーム会社の方は?」
「点検作業も終わったのでもう帰りましたよ」
「本当? 全然気付かなかった」
それほど長い間、ここから海を眺めていたということだろうか。時間が経つのが早過ぎて驚いた。
「すごく素敵なところだね」
「気に入ってくれましたか?」
「もちろん……というかこの家、完全に私の好みなんだけど」
「当たり前です。春香さんの好みは高校生の時からしっかり熟知してますから。あなたと暮らすならこういう家だろうなってずっと妄想していました」
瑠維は微笑むと春香の手を取り、そっと握った。
「最近こういう家を見ると、必ず『かわいい』って言ってましたよね」
「……確かに言ってたかも」
「それに仕事モードじゃない時の春香さんは、こういう温かみのあるイメージですよ。あの日……図書館で見た春香さんもそうでしたから」
春香は驚いたように目を見開く。
「図書館で? だって立て膝で本を読んでいたのなら、ちょっとお行儀が悪い感じじゃない?」
「あはは。まぁそれもあるかもしれませんが、飾らないあなたを垣間見た気がしたんです。きっと皆に見せる明るく勝気な姿も春香さんなんでしょうけど、実は素朴で無邪気で純粋で……。どちらも含めて春香さんだけど、たぶん僕はあの時、自分だけが知る一面を知ってあなたの虜になってしまったんだと思います」
瑠維は春香の手を引いて部屋に入ると、静かに窓を閉めた。それから手を繋いだまま階段を降り始める。
「この家を初めて訪れた時、僕のイメージではないなと思ったんです。だって色合わせが面倒で白黒ばかりの僕ですから。どちらかといえば、春香さんらしさを感じていたのかもしれません」
「えっ、じゃあ買った時からこの漆喰の壁と腰壁だったの?」
春香が聞くと、瑠維は頷いた。
「たまたまですけどね。内装より僕の目的はセキュリティがしっかりしている家で、合致したのがここだったんです。だから内装は大幅に変えようと思っていいました。でもあなたと再会して、一緒に住むようになって……まだ付き合ってもいないのに、あなたを意識し始めてしまって、気付いたら当初の予定と全く違うものになっていました」
リビングに戻り、春香は再びキッチンに入っていく。家の中を回って、この場所の雰囲気が一番気に入ったのだ。
「私と住むことを意識して変えなかったの……?」
瑠維が微笑んだのを見て、春香は居ても立っても居られず、彼の胸に飛び込んだ。