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イベントから数年後。
保育士として数年キャリアを積み、今では後輩の指導もこなす立派な「涼架先生」となった涼架が、仕事帰りに玄関の扉を開けました。
「ただいまー! ふぅ、今日は外遊びでヘトヘトだよぉ……。元貴? 滉斗? 帰ってるー?」
返事の代わりに聞こえてきたのは、リビングからの小さな「うー……」という呟きと、柔らかい衣擦れの音。
不思議に思ってリビングへ向かうと、そこには驚きの光景が広がっていました。
仕事から一足先に帰宅していた元貴が、ソファの上でブランケットにくるまり、自分の膝を抱えて小さくなっていました。その瞳はとろんとしていて、涼架と目が合うと、ふにゃりと力なく笑い、指先で涼架の服の裾をぎゅっと掴んできました。
「……ぁ、う……りょーちゃん……」
仕事での過度の緊張か、あるいは溜まりに溜まった疲れの反動か。
目の前にいるのは、支援員として子どもたちを支える大人の元貴ではなく、完全に心を解き放ち、本能のままに甘えを求めている「赤ちゃん状態」の元貴でした。
「あらら……。これは相当頑張っちゃったんだね、元貴」
普通なら驚いて滉斗を呼び出すところですが、今の涼架は百戦錬磨の保育士です。状況を瞬時に理解し、涼架のスイッチが「お兄ちゃん」から「先生」へと切り替わりました。
「よしよし、元貴。今日はもう頑張らなくていいんだよ。ここからは涼架先生の番だね」
涼架は手早くスーツを脱ぎ、動きやすい部屋着に着替えると、手慣れた動作でお世話を開始します。
聴覚過敏の元貴のために、部屋の明かりを少し落とし、リラックスできるヒーリングミュージックを極小音で流します。
「はい、元貴。ぬるめのお湯だよ。ゆっくり飲めるかな?」
コップを支えてあげると、元貴は両手でそれを持ち、こくん、こくんと赤子のように飲み干しました。
涼架は元貴の背中を、子どもを寝かしつける時と同じリズムで優しくタッピングします。
「大丈夫、大丈夫。ひろとももうすぐ帰ってくるからね」
「……う、ん。ひろと……あいたい……」
「そうだね、会いたいね。でもその前に、少しだけねんねしようか」
涼架の膝枕で、元貴は安心しきったように体から力を抜いていきました。
カチャリ、と玄関の鍵が開く音がしました。
帰ってきたのは、今日一日のカウンセリングを終えて、少し疲れの見える公認心理師の滉斗です。
「……ただいま。元貴、いるか? 連絡がなかったから心配し……」
リビングに入ってきた滉斗が見たのは、涼架の膝の上ですやすやと眠る、幼い顔をした元貴。そして、口元に指を当てて「しーっ」と微笑む涼架の姿でした。
「おかえり、滉斗。今日の元貴は『0歳児クラス』だよ。心理師さん、診断をお願いできる?」
涼架が小声でからかうと、滉斗は一瞬で全てを悟り、眼鏡を外して深くため息をつきました。けれど、その表情には隠しきれない愛おしさが滲み出ています。
「……診断も何もない。ただの『甘えすぎ』だ。……涼架さん、代わる。こいつは俺の担当だ」
「はいはい。じゃあ、僕はキッチンで離乳食……じゃなくて、大人の晩ごはん作ってくるからね」
外の世界では、支援員として、心理師として、保育士として。
誰かを支える側に回っている3人。
けれどこの家の中だけは、どんなに格好悪くても、どんなに幼くなっても、互いが互いを全肯定して受け入れる。
「……ひろと……?」
「ああ。ここにいる。もう寝ろ、元貴」
滉斗の大きな手に頭を撫でられ、元貴は夢の中で幸せそうに微笑みました。
キッチンの涼架が奏でるトントンという包丁の音を子守唄に、3人の夜は穏やかに更けていくのでした。
急に時間飛んだ…
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コメント
4件
2人に包まれると安心して寝ちゃうのかわいい🫶🏻💗
0歳児もとき可愛い🩷