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隼斗篇
世界大戦で人類は凡ゆるものを失い振り出しから出発するしかなかった。
この島の至るところに在猶銃撃戦の痕が残されているのは、自治区長が敢えてそうしたからだ。
「二度繰り返された歴史に学べ」と警鐘を鳴らす為に。
でも僕たち若者はそれに反対だった。
何時までも暗い影を次世代まで背負わせる やり方は常に後向きのような気がしてならなかった。
忘却の果てに繰り返された戦争は先人の残した禍根であり逃れようにも逃れられない宿命である様な気もしてくる。
この小さな島が背負わされた宿命から僕らは逃れられないのだ。
かと云って容易く宿命を受け止めてしまえば漆黒の闇に突き落とされる思いがして僕たちは年寄りがたの声を黙して聞き入れるしかなかった。
西暦2040年代に入ると経済恐慌で各国に紛争の火種が起り連合加盟国は時代を逆行するように異教徒を国外追放とする共同声明を発表した。
王州でテロ事件が頻発し憤怒に駆られたファシズム団体ゲルリアンが移民や外国人労働者を襲撃、これに煽られた民衆が王州の至る所で暴動を起こすようになった。
経済難で鬱積した感情を一般市民までもが移民や難民に向けるようになったのだ。
ゲルリアンはそこに付け入るように次々と暴動事件を起こし、またその報復として過激派組織によるテロ爆破事件が相次ぐようになった。
王州連合加盟国はこれを収束させようと移民や難民の受入を全面撤廃し彼らを国外追放としたのだ。
これに反発した移民や難民と、追放され行き場のない彼らを逆輸入したくない周辺国との間に亀裂が生じ幾許もなく第三次世界大戦が勃発した。
軈て魯西亜は往古の領土だったアラスカを米国から買い戻そうとした。しかし小切手は結局不渡りとなり両国の間で不穏な空気が流れた。
世界対戦を何とか終息させたい思いから米軍は世界中の任地に赴き国費を散財していた。
故にアラスカを魯西亜に売却してでも財源が必要だったのである。
しかしアラスカはこれに激怒し独立宣言を出した。
彼らは彼らで魯西亜に買い取らせまいとあらゆる策を講じ米国は魯西亜にアラスカを引き渡すことが出来ず、然う斯うしてる内に契約は不履行となり小切手の期限が切れ不渡りにしてしまったのである。
米国はいいことが何もない。アラスカを渡せないなら当然魯西亜は支払いに応じない。
だが財源がないと軍事行動もままならない。
しかし、そんな米国の事情など魯西亜には関係なかった。米国は眠れる獅子を呼び醒してしまったのだ。
魯西亜軍は米国へ侵攻を始めた。世界中に拡散していた米軍は当然ながら自国を護るために急遽本国へ集結、世界の警察どころじゃなくなったのである。
当然、この島に駐留していた米国軍は全面撤退となった。当初狠国は沖縄に射程を置き核弾頭搭載したミサイルの発射準備をしていたがそれを取りやめた。彼らが脅威に感じていた米軍基地がなければその必要もなく、そのミサイルの矛先は全て日本本土に向けられた。
沖縄諸島には数千数万の狠国艦隊がやって来て狠国の大軍を相手に日本は地上戦を余儀なくされた。沖縄はまたしても地上戦の舞台となったのである。狠国の圧倒的な軍事力にも日本軍は必死に抵抗を続け長期戦になると思われていた。
しかし或る日突然日本軍が次々と日本本土へ撤退し沖縄諸島は陥落した。
日本が沖縄を引き渡す代わりに狠国は日本を攻撃しないことで秘密裏に取引が交わされたと噂が流れた。
かつて米国は日本の同盟国だったらしいが先の王州から勃発した第三次世界大戦で疲弊していた。米国は日本との同盟国を解消した為、日本は自衛隊を大規模な軍隊へと変貌を遂げ大日本帝国の再来と呼ばれるようになった。
しかし日本が大陸を相手にする為に必要な兵力は絶対数足りず沖縄の国土を固守しようとしたが既に地上戦で多くの島民の命も日本兵の命も失い日本政府は追い詰められていた。
過去の苦い経験を再び繰り返したくない思いもあり、これ以上の犠牲を出すまいとし断腸の思いで沖縄を諦めざるを得なかったのである。
或いは狠国は日本に核を落とせない理由も十二分に察知していたから日本は強気の交渉が出来たのかもしれない。僕らはそれを戦後ずっと後になって知った事だが、最近のニュースで漸く当時狠国大陸は水不足に悩んでいたと報じられた。
水は人間が生きていく上で最重要視される生命維持の源である。難攻不落と呼ばれる城は常に水源が豊富だから立て籠もっても持久戦で敵に勝るのである。水失くしては勝利も得られないのだ。
しかし現代はペットボトルがあるから何処にいても水は飲めるし濾過装置もある。狠国の兵は容易く落馬しなかった。