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──今回はお忙しいなか、我々のインタビューに応じてくださってありがとうございます。
「いえ、アパートに帰ったら急に取り囲まれたんですけど。あの、我々って誰なんですか? インタビューって一体どこの……」
──日頃は見習いシェフを時々されているとか。
「は? 見習いじゃないですけど?」
──今回、我々は幾ヶ瀬氏の謎のベールに迫ろうという企画を立ち上げました。まぁ、別に全然謎でも何でもないんですが。知らなくてもいいことですし。
「は? それ悪口ですよね!?」
──いいえ。悪口じゃないです。
「………………」
──幾ヶ瀬氏の行動にはさして興味がないので、今回は有夏氏についてお伺いしたいと思います。
「いや、明らかに悪口じゃないですか!」
──いいえ、悪口じゃないです。
「………………」
──早速ですが、有夏氏の魅力は何ですか? あったら教えてください。
「いやぁ、何ていうか……」
──では、不満は?
「早っ! 魅力、まだ言ってない!」
──不満は?
(ここで幾ヶ瀬氏は小さな声で「何だコイツらは」と呟いた)
──不満は?
「そ、そうですね。不満っていうか、殺意っていうか……湧いてきますね。いやまぁ、時々ですけど(笑)」
──殺意、ですか。
「いや、時々ですよ? たまに……ですよ? 殺意っていっても冗談半分ですし」
──冗談半分ということは、本気が半分……。
「いやいや。何なんですか、一体。冗談100%ですって。まぁ、バチあたれくらいは思いますけど(笑)」
──罰とは……例えば?
「例えば!? いや、その……罰じゃなくてバチっていうか。軽いやつですよ? 靴の中に虫が入ってろとか、お風呂入ってる時に停電になれとか。そういう可愛げのある感じで……」
──殺意は?
「えっ?」
──殺意はどういう状況で湧きますか?
「い、いや……実際に湧くわけじゃなくて。冗談だって言ってるじゃないですか!?」
──例えば?
「あの、人の話聞いて……いや、まぁ、そうですね。たとえば、昨日のことなんですけど。遅番で疲れて帰ってきたら有夏が寝てたんですよ。いや、遅い時間ですし。それは良いんです、全然。起こさないように静かにお風呂入ったりして、我ながら優しいなと(笑)愛だなと(笑)。でもまぁ、お風呂あがったら有夏、目を覚ましてたんです。ものすっごい大あくびしながら、何て言ったと思います?」
──さて?
(ここで幾ヶ瀬氏は大きく口を開けて「ふわぁぁん」と言った。欠伸のつもりだろうか。少々不気味である)
「ふわぁぁん……有夏、今日5度寝しちゃったぁ、なんて言うんですよ! 5度寝って、ちょっと耳を疑いません? 聞いたことあります、5度寝って!?」
──5度寝はさすがに初耳ですね。
「でしょう! トイレに起きたり、喉が渇いたりして目を覚ました以外は40時間くらい眠り続けてるんですよ。有り得ない!」
(有夏氏はこのあとシュークリームをペロリと平らげ、また寝たという。正確には6度寝ということか)
「そうなんです。寝てるか、ゲームしてるか、マンガ読んでるか、お菓子食べてるか。それしかないんですよ」
──ご飯食べたり、お風呂に入ったりとかもしてるんじゃないですか?
「はぁ? まぁ、そりゃしてますけど」
──飲み物を飲んだり、読むマンガを選んだり、あるいは何もせずに座っている時間もあるのではないですか?
「そりゃありますよ。さっきから何を……」
──トイレに行ったり食べるお菓子を選んだり、あるいは何もせずにベッドに寝転がっている時間もあるのではないですか?
「何なんだ、あんたらは! さっきから何のインタビューなんだ、これは!」
(幾ヶ瀬氏が突然、怒鳴り出した。人に対してすぐに殺意を抱く──インタビュー冒頭で彼自身が口にしていた言葉を思い出し、我々は戦慄した)
──まぁまぁ。
「まぁまぁじゃないですよ。本当に何なんですか! 何だ、この形式は! どうなってるんだ、今回は!」
──まぁまぁ。
「あんたら、まさか有夏にも下らないインタビューするつもりじゃ……」
──予定は未定ですが。
「絶対させないからな!」
──まぁまぁ。
「………………」
(幾ヶ瀬氏のこめかみがビクビク波打っている。命の危機を覚えながらも、我々は果敢にインタビューを続行した。これがジャーナリズムというものなのだ)
「い、いや、別に……怒ってないですよ。別に怒ってないです! えっ、それなら安心してインタビューが続けられるって? そんなこと言うんだ!? あんたらどこの……えっ? 他に思うところはないですかって。特に思いつかな……てか、何について答えたらいいんですかね!? 何でも良い? 困ったな。何かお題的なものはないですかね」
──好きな体位は何ですか?
「何でも良いって言ってたけど。それにしたって、いきなり好きな体位とか聞くんだ!?」
──好きな体位を教えてください。
「い、嫌ですよ? 何でそんなの言わなきゃなんないんですか」
──好きな体位は何か言ってくだ……。
(突然「うわぁぁあーー」と幾ヶ瀬氏が叫んだ。「何だコイツら、話が通じない」と意味不明なことを口走っている。かなり情緒不安定のようだ)
「お前ら、いい加減に……ハァハァ。場合によっちゃ訴えて……ハァハァ」
(目が血走っている。何だか怖いことをブツブツと呟いている。だが、我々も負けてはいられない。用意した質問はまだ残っているのだ)
──座右の銘は何ですか。
「ここにきて初めてまともな質問キタ!!」
──我々はいつもまともですが? して、座右の銘は何でしょうか。
「う、うーん…いきなり言われたらちょっと…。座右の銘ってほどじゃないんですけど、日常生活で心掛けているのは『1円を笑う者は1円に泣く』ですかね」
(幾ヶ瀬氏は急に機嫌が良くなった。1円玉に対する執着心が並々ならないようだ。今、我々が1円玉を氏に進呈したらどうなるだろうか。きっと喜びを爆発させて周囲の人々の靴を舐め回すに違いない。ならば、と我々は考えた。その10倍の10円玉を進呈すれば、氏は一体どうなってしまうのだろうと)
──10円あげます。
「はぁ、何で? はぁ……ありがとうございます?」
──……?
「え、何ですか?」
──靴を舐めないのですか?
「はぁ!?」
(氏の額に、青筋がビシッと音をたてて浮き出るのを我々は目撃することになる。これは命がけの仕事だと我々は直感した。よくよく気をつけてインタビューを続けなくてはならない。まだ最後の質問が残っている)
──では最後に。有夏氏の好きなところはどこですか。
「えっ、えっ……それは……わっ、分かんないですぅ。駄目なところも結構好きかもしれないですぅ」
──ふーん。
「興味持てよ(怒)」
「笑劇!インタビュー☆IKUSE」完