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しゅわボラ!ー東水瑠々市立 水瑠々中学校ー
ひらひら…
桜の花びらが舞う始業式の日。
そんな綺麗な景色をかき消すようにミクとツバサは猛ダッシュしていた。
「お、遅れるぅぅぅぅぅ!!」
「制服着るの難しいんじゃボケー!」
言い訳をしながらも腕時計を見ると8時20分。
遅刻になってしまうのは8時25分で到着は5分以上かかる。
遅刻確定だ。おわった!
「ヤバいヤバい!」
「ミクもうちょい朝ごはん早く食べろって!」
「わかってるけど!」
水瑠々中学校は家から遠い。だから当然…
キーンコーンカーンコーン
朝に弱いミクは遅刻する…!
「ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ッ」
ミクは汚い声を出し、歩みを止めた。
「モウ、イキタクナイ…」
諦めた。
「だめに決まってんでしょうが!」
ツバサはミクの腕を掴んで学校まで引っ張った。
ミクの絶叫が空しく響く中、
ツバサはミクの腕を掴んだまま走り続けた。
諦めきったミクの体は重いが、
ツバサは構わず引っ張る。
「だーかーらー! まだ昇降口の鍵閉まってないかもしれないでしょ!」
ツバサが叫ぶと、ミクは恨めしそうに
ツバサを見た。
「もういいよ……生徒指導案件だよ……」
「生徒指導覚悟で走れ!」
二人がようやく校門をくぐり、
昇降口の前に着いた時、
幸運にも完全に閉まる寸前で開いていた。
慌てて靴を履き替え、廊下を走る。
幸い、始業式は体育館で行われるため、
教室棟はまだ静かだ。
体育館の扉が少し開いており、
中から校長先生の穏やかな挨拶の
声が聞こえてくる。
「せーの……」
ツバサはミクに目配せし、大きく開いている扉から、頭を下げながら滑り込んだ。
「遅れましたあああ!」
体育館中の視線が二人に注がれる。
校長先生の話が止まり、教頭先生が厳しい顔で二人の方へ歩いてくる。
「1年1組のミクと、ツバサか。
始業式からこれはどういうことだ」
教頭先生の冷たい声が響く。
ミクは顔面蒼白になり、ツバサは頭を下げたまま必死に言い訳を始めた。
「す、すみません! 通学路で怪我をしている猫を見つけてしまい、保護するのに手間取ってしまって……!」
ツバサの咄嗟の嘘に、ミクは驚いてツバサを見上げた。そんな猫、いなかった。
教頭先生は少し眉をひそめたが、すぐにため息をついた。
「……まぁ、理由はどうあれ遅刻は遅刻だ。始業式が終わったら職員室に来なさい。反省文を書いてもらう」
「はい! 申し訳ありませんでした!」
二人は再び頭を下げ、冷や汗を拭いながら生徒たちが並ぶ後方へと移動した。ミクはこっそりツバサの袖を引っ張った。
「ねぇ、猫なんていなかったじゃん……」
ツバサはニヤリと笑った。
「その場の空気読んでアドリブ利かせたのよ。ほら、後でコンビニのパン奢りなさいよ」
ミクは呆れながらも、最悪の事態を免れたことに少しホッとした。桜の花びらが舞う新しい学年が、波瀾万丈のスタートを切った瞬間だった。
ミクとツバサは教頭先生に職員室へ来るよう言われ、体育館の後ろで肩を落とした。
「最悪だよぉ……初日から生徒指導だよ……」
「まぁまぁ、反省文書くだけだって。猫のおかげで最悪の空気にはならなかったでしょ」
始業式が終わり、
生徒たちがゾロゾロと教室へ戻っていく中、
二人は職員室へと向かった。
反省文を書き終えて職員室を出た時には、
もう最初のホームルームが始まってしまっていた。
「やれやれ、踏んだり蹴ったりだね」
「ミクがもっとシャキッとしてればね」
2人は顔を見合わせほほ笑んだ。
少しだけ元気を取り戻した二人は、
自分たちのクラスである1年B組
を目指して廊下を歩き出した。
新しいクラスでの自己紹介に遅れてしまうことが、今は一番の懸念事項だった。
教室の扉を開けると、黒板の前で担任らしき女性教師がチョークを持っていた。二人の姿に、教師とクラス中の視線が集まる。
「あの……6年2組の、ミクと、ツバサです。遅れてすみません!」
「私たちは1組だけどね」
「あ、ごめん、つい!」
小学生の余韻がまだ残っていたせいか6年生といってしまった。
担任の先生は少し困った顔をしたが、すぐに笑顔を見せた。
「あらあら、元気な二人組だねぇ。私は担任のイシイじゃけえ。自己紹介は後でゆっくりしてもらうとして、まずは席に着いてくれんかねぇ?」
イシイ先生の温かい対応にホッとしつつ、二人は空いていた一番後ろの席に座った。
ホームルームが終わり、クラスメイトたちと少し話した後、放課後になった。今日は部活動紹介がある。
「ミクは何の部活に入るの?」
「うーん、全然決めてない。ツバサは?」
「うーん、第一志望はやっぱり吹部かな。
でも何か他の部活も見てみたいかも」
二人は体育館で行われている部活動紹介へと足を運んだ。
様々な部活が熱心にプレゼンテーションをする中、
一つの部活だけ喋らず何かしている。
体育館の壇上に立って
その人たちはプロジェクターを使い、
ハンドサインのようなものに字幕をつけている。
そのプレゼンテーションの画面には
「手話ボランティア部」
と書かれている。
「手話ボランティア部……?」
ミクが呟くと、ツバサも
興味深そうに覗き込んだ。
そこには、3年生の先輩たちがいた。
先輩たちは流暢に手を動かしていく。
字幕には、こう書かれていた。
【こんにちは!手話ボランティア部、部長のカズキで
す】
【この部活はみんなで楽しく手話をしたり】
【烏目川(カラスメガワ)のゴミを拾う
ボランティア活動をしています】
「手話ボランティア……なんだか、すてきだね」
「ね。派手さはないけど、こういうのもいいかも」
ミクとツバサは顔を見合わせ、
仮入部はここにしようと決めた。
新しい中学校生活は、遅刻から始まり、
思いがけない「出会い」へと繋がったのだった。