※サブタイトルを、上手いこと四輪駆動の略と被せることができた(・ω<)-☆
ここから【この想いは蜜よりも甘く】の恭介&和臣カップルが途中から出てきます。
***
1月某日の日曜日、天気は薄曇りで、暖かさをあまり感じることはなかった。インプの車内のヒーターで寒さから脱却できるのは当然のことだが、助手席にいる宮本の熱気が空気にのって伝わってくるお蔭で、橋本は心までぽかぽかだった。
(――雅輝のヤツ、俺以外のヤツに自分の運転を見せるのが、楽しみでしょうがないんだろうな)
「おまえ以外とインプで出かけるなんて、すげぇ久しぶり」
「陽さんってば、わざとそんなことを言って、俺を安心させようとしているでしょ? 浮気してないぞって」
いつもより弾んだ橋本の声に共鳴したのか、宮本の元気な声が車内に響いた。
「そんなこと、全然考えてなかった。この車は仕事で使うハイヤーと違って、プライベートルームっていう感じの居場所にしていたからさ」
「へぇそうなんだ。マンションは誰でも招き入れちゃうくせに、インプは特別なところなんですね」
「雅輝のその言い方、まるで俺が誰彼構わずに食ってたみたいに聞こえるぞ」
「……違うんですか?」
少しだけ焦れた宮本が、吸い寄せられるように橋本の肩に頭を預ける。
「俺だって、好みくらいあるに決まってるだろ。それに――」
「それに?」
肩にのせられた宮本の頭の重みが、随分軽いなと感じた。運転の支障にならないようにすべく、体重をかけない配慮が宮本らしいと思わずにはいられない。
(こういうさりげない優しさが、ときにはもどかしく感じることがあるのに。まったく――)
シフトレバーに置かれた橋本の左手で、宮本の肩をぐいっと抱き寄せてから、自分の肩にしっかり頭をのせ直した。ついでに、ぐちゃぐちゃと髪を撫でてやる。
「陽さん?」
「それに俺にとって雅輝は、特別な存在だからさ。特別なここに一緒にいたいと思うのは、当たり前のことだろう?」
「うん……」
短い返事でもわかってしまう、宮本の心情――嬉しいことを隠しつつも、どこか照れた感じに聞こえたせいで、今すぐに宮本がほしくなった。思惑を外すような返事が多々ある中で、こういうストレートな感情を出す恋人が愛おしくて堪らない。
「雅輝、キスしたい」
「今は運転中ですよ。それに昨日だって、いっぱいしてるのに」
口ではたしなめることを言いながらも、宮本の右手が橋本の太ももに置かれ、感じさせるようにてのひらが蠢いた。キスができない代わりに、こうして接触させているのかもしれない。
「昨日は昨日。今日はまだ4回しかしてない。足りないに決まってるだろ」
「俺としては、もう4回なのに。しかもちゃっかり回数を数えてるなんて、陽さんって意外と細かいんですね」
ぞくっとしたのをきっかけに、宮本の手の甲をつまんで放り投げた。しつこく迫ってくるだろうと身構えたのに、空いた手が触れたのは、橋本が着ているセーターの裾だった。ぎゅっと握りしめるだけで、それ以上何もしてこない。
自分の肩の上で鼻をすんすんさせる宮本を、橋本は笑いながら、ちらっと見下ろした。さりげなく匂いを嗅ぐ顔が、かわいらしく見える。
「甘え上手にもほどがある。まいったな……」
無自覚な恋人の一挙手一投足に、橋本の躰が疼いて仕方ない。
「甘え上手? 俺が?」
何を言い出すのやらという感じの口調に、橋本は苦笑いを浮かべる。
「雅輝は下手な計算をしない分だけ、直球で俺の感情を揺さぶってくるんだぞ。実際、すげぇ困ってる」
「何がですか?」
自分に注がれる上目遣いと甘いトーンに、頭がクラクラした。
(そのことを指摘しても、間違いなくコイツには伝わらないだろう。無意識にこれをやってのけるんだから、ある意味天才――)
「おまえの存在そのものが、俺にとって厄介だってことさ」
タイミングよく信号が赤に変わったので、迷うことなく宮本の唇を塞いだ。触れるだけのキスにとどめたが、さっきから宮本を欲していたせいで、深く舌を絡めたい気持ちになる。
感情のおもむくままに、キスを深いものにさせないようにと、慌てて唇を外した瞬間だった。
「やめないで、陽さんっ……」
キスの回数について文句を言ってたはずの宮本が、求めるように唇を押しつけるなり、舌を差し込む。それに応えたいのは山々だったものの、もうすぐ信号が青に変わる頃合なのが、長年の勘でわかった。しかも車を発進させて、次の交差点で右折したら、恭介の住んでいるマンションに到着してしまう。
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