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アスモデウスは息を切らしながら、ラファエルの身体を抱きしめていた。その胸には砕けたロンギヌスの残滓が突き刺さったまま、そこから柔らかな光が漏れている。
ラファエルの口元が僅かに動く。
「……アスモ……そこに……いるの……?」
「いるよ……最後まで、傍にいる」
傷だらけの彼女の頬をそっと撫でる。
果実は彼女の胸から芽吹き、枝を伸ばし始めていた。
アスモデウスの手にもその根が絡みつき、彼の身体にも同じ芽が宿る。
「お前とこうなる運命だったんだろ……最初から……俺たちは」
「――うん、私たちが触れてしまった時から、もう……」
ラファエルはそっとアスモデウスに口づける。
それは、最初で最後の、互いを確かめ合う確かなキスだった。
天は裂け、地は崩れ、福音の書はすべて沈黙し――
この世の「物語」は、いったん、幕を下ろす。
しかし。
崩壊の中にあって、たった一つ芽吹いた新たな命。
それは――禁断の果実。
その実を抱くように、二人は一つの大樹へと姿を変えていく。
葉が揺れ、風が吹き抜ける。
ラファエルとアスモデウス――
天使と悪魔の境界を超えたその魂は、木の中で永遠に寄り添う。
場面が代わり、熾天使ルシファーの目線。
まだルシファーが熾天使だった頃――
神の命で、リリス(“命の始まり”)が天上に作られた存在として生を授かる。
ルシファーは、密かに彼女に心を寄せていた。だが、リリスは最後まで責務を全うし、ある日、一人の悪魔に殺されてしまった。
ルシファーはこの出来事に深く絶望する。
悪魔を裁いて欲しいと神に直接問い詰めたとき、神はこう答えた。
「おまえの愛は、美しいが無価値だ。私の創造に口を挟むな。第一、リリスが死んだのは運命なのだよ。」
その後、神が新たに「人間」という存在を創ったとルシファーは知る。
自らの愛を否定したにも関わらず、「愛せ」と命じる対象として人間を創ったことに激しい矛盾と怒りを覚える。
ならば、リリスの遺した“記憶”であるこの果実で、神の愛を嘲笑ってやる」
ルシファーは堕天し、「サタン」となる。
彼は地上に密かに「果実の種」をばら撒いた――
それはリリスが殺された際、天上に滲んだ血とルシファーの嘆きが混じり、結晶化したもの。
この果実は、触れた者の心に“自由意志”と“知恵”を与え、神の秩序から外れさせる「知恵の実」。
つまり、神から見れば「堕落の実」、ルシファーから見れば「真実の実」。
サタンは黒蛇に化け、アダムとイヴを唆し人類を地に落とした。
ここで人類は永遠に償えない罪を背負った。
罪の始まりは悪魔と天使の恋という罪。
アスモデウスとラファエルの恋が、永遠に輪廻する罪を産んだのだ。だが決して、罪=悪では無いということを忘れずに。