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#異世界転移
花月夜れん
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設楽理沙
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耀聖(ようせい)
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耀聖(ようせい)
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皇后の還暦を祝う宴の日がやって来た。
皇帝に絵を依頼された姜弘の付き添いで、麗霞も宴席の場に来ている。
宴の記録画ではなく還暦を迎えた皇后を描くようにと仰せつかっているので、他の画人たちとは別で、両陛下のすぐ側に描く場所を設けられた。陛下の声まで聞こえてしまう距離に少々緊張してしまうが、入場してきた皇后と目が合うと微笑まれた。
あの絵、気に入っていただけたのかしら。
皇帝がお忍びで画院の蔵へ絵を見に来たすぐ後で、麗霞は皇后から頼まれていた春画の作成に取り掛かった。
仕事以外の時間は無我夢中で絵を描き、スランプに陥っていたことなどすっかり忘れて没頭してしまった。
お陰で予定よりも早く皇后へと絵を届けることが出来たのだが、かなり挑戦的作品だったので渡すのには不安もあった。
直接皇后の宮へと渡しに行くと、皇后はそのまま麗霞目の前で春画を見はじめた。皇后がひと作品ごとじっくりと目を通している間、どんな感想を言われるのかと気が気ではなかった。
「凄くいいわね。思っていた以上よ」
「ありがとうございます」
「この二枚はこれまで見た事のある、貴女らしい作品ね。キラキラとした世界観で素敵だわ」
最初の二枚はこれまでの作風通り、若い男女がイチャコラしている絵で、煌びやかな背景と衣装に、男性が女性を愛でているシチュエーション。
「こちらは私の年齢を意識してくれたのかしら? 少し年増しな女性ね」
次の絵は、子育てを終えた初老の男女という設定。子育ての忙しさから解放されて、改めて二人の愛を確かめあっている。そんな場面を想像しながら描いてみた。
「皇后陛下に御依頼頂き、房事が若い男女だけのものではないことに気付きました。その絵の女性より歳上ならば『こんな年頃のこともあったと』思い、同じくらいの年齢であれば『もしかしたらこんな事が自分にも』と置き換えられるでしょう。そしてまだ若い女性ならば、『歳を重ねてもこうして男性に愛されたい』と未来の自分に希望を持つのではないかと。ですからあえて、そちらの絵の女性はいつもより年齢を上げてみた所存にございます。ご不快にさせてしまったでしょうか」
「いいえ……。そうね、貴女の考えに深く同意するわ。子を成す為だけの行為ではないもの」
「はい。幾つになっても愛を分かちあいたいと考えるのは、ごく普通の欲求でしょう」
深く頷いた皇后は紙を入れ替えて、一番後ろの絵を見た。
「最後の絵は随分刺激的ね。でも不思議だわ。この女性がふしだらな様には見えないんだもの」
最後の一枚は、女性が男性に迫っている場面。女性は男性の腰紐を解きながら胸元に口付けている。
ともすれば遊女のように見えてしまうこの女性を、どうすれば淫乱に見えないよう描けるのか、かなり試行錯誤を重ねてやっとの思いで仕上げた作品。
女性の行動は大胆でありながらも恥じらうような表情をさせて、恥ずかしいけれど、彼を喜ばせたい一心でしている行為であることを表現し、動きもぎこちなくみえるよう体に力が入っているイメージで描いてみた。
「男性も好いた女性から迫られたら嬉しいのではないかと思い、描いてみた次第です」
「こんな年寄りでも?」
自虐的に皇后は笑った。こちらの絵の女性も、年齢設定はいつも描く春画より少し上にしてある。
「年齢は関係ない……と私は思いたいのですが。仮に私が若い男性に迫られたとして、もしその方のことを何とも思っていなければ『このスケベ野郎がっ!』と心の中で叫ぶでしょう。逆にその男性のことが好きならば、ひと回り年上でも嬉しく思うはずです。体が欲しいのではなく心を通わせたいと思う相手ならば、ですが」
「体ではなく心を……。言いたいことは分かるわ。でも下賎な女と思われないかしら」
皇后はきっと、誰かの事を頭に思い浮かべながら話をしている。
皇后ならば大丈夫だ。
その誰かは皇后のことを想っているから、受け入れてくれるだろう。
「どうでしょう。女性から男性を誘うことが問題なのではなく、要はお互いに気持ちがあるかどうかだと思います」
麗霞の場合は、麗霞にしか気持ちがなかっただけ。
皇后と皇帝は、あの絵を見た限りでは相思相愛の仲。
世にいる夫婦の中で、真実心から慕い合う関係の夫婦がどのくらいいるのだろう? 万といる男女の中でそんな人と巡り会い、夫婦となれたことは奇跡的なことなんだと、煜峰に振られた今だから思う。
だから、すれ違ったままなんて悲し過ぎる。
その縁をどうか無くさないで欲しい。
「実は私、先日とある男性に告白したのですが、あっさりと振られてしまいました」
「まぁ……」
「女から言いよるなんて、品がないと思われたかもしれません。今思い出しても胸が抉られるように苦しくて仕方がないのですが……」
同じ職場の人に恋なんてするもんじゃない。煜峰の姿が頻繁に目に入ってくるし、業務連絡の為に話す機会も多い。
だったらあのまま気持ちを胸に秘めておくべきだったのかというと、そうは思わない。
目の前で人が殺し合う場面を見、そして自分が死ぬかもしれない状況に陥いったことで改めて思った。
人はいつ死ぬか分からない。
だから、伝えられる時に伝えておくべきだと。
感謝の言葉も好きだって気持ちも、全部お墓には持っていきたくない。
この世に残していきたい。
後悔しないように。
「でも後悔は少しもしていないんです。結果はどうあれ口に出して言わなければ、私の気持ちを知ってもらうことなど無かったでしょうから」
「現状を維持するよりも、傷ついてもいいから伝えたかったのね……」
「はい」
「……そうね、長年連れ添っても、伝えなければ相手の気持ちなど分かるはずもないわ。私があの方の全てを分かってあげらないように、彼も私の全ては理解できないのだから」
自分自身に話すように小さな声で言った皇后は、ゆっくりと瞬きをすると改めて麗霞の方を見た
「ありがとう。貴女には悲しいことを思い出させてしまったけれど、私にとってはとても意義のある会話だったわ」
「私のような者の話をお聞き下さり、ありがとうございました」
そうして終えた皇后との謁見。
煜峰から皇后と皇帝の仲がどんな具合が聞こうかと何度も考えたが、結局、自分から話しかける勇気は出なくて終わってしまった。
煜峰を前にして平常心を保っていられる自信が、未だに出ない。
その煜峰はと言うと、皇子として皇后の宴に参加している。
麗霞が官女でいる限り、嫌でも煜峰の姿が目に入る。なら官女を辞めて実家に戻ろうか……。そうしたら間髪入れずに縁談話を持ってこられるだろう。
結婚したらきっと、春画はもう描けなくなる。そんな趣味を許してくれる男性などそういないだろうし。
好きでもない人と結婚して、子供を産んで、自分の趣味を全部捨てて……あーー、すっごい暗くなってきた。
やっぱり一生独身でもいいから、画院に残ろうかな。などと考えを巡らせていると、絵を描いていた姜弘が「ほぅ」と小さく声を上げた。
「どうかなさいましたか?」
姜弘が「ほれほれ」と視線を向けるその先には、皇后と皇帝が。
二人が並んで座るのは、式典などでは当然の光景。ただ今日は、いつもと少しだけ様子が違う。
コメント
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麗霞が皇后と交わした「年齢は関係ない」「心を通わせたいなら」という対話、すごく心に沁みました。自分が煜峰に振られた経験を教訓に皇后の背中を押す姿に、悲しみが無駄じゃなかったと思える希望を感じました。「人はいつ死ぬか分からない――伝えられる時に伝えておく」って言葉、重いですね。最後の皇帝夫妻の変化も気になります!