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#異世界転移
花月夜れん
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設楽理沙
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耀聖(ようせい)
269
耀聖(ようせい)
855
食事や酒の並んだ卓の下。正面や横からでは気付かれないその位置で、二人はこっそりイチャついていた。手を繋いでじゃれ合っている。
「夫婦とは分からんもんじゃのぉ」
「はい。私もあんな夫婦になってみたいものです」
歳をとっても、すれ違いがあっても、互いに想い合える、そんな夫婦に。
じんわりと暖かいものが胸に広がってくるのに、煜峰を見ると、決して自分には手に入れられない未来なのだと現実を突きつけられるのが、また辛い。
無理矢理煜峰から視線を引き剥がして皇太子夫妻を見ると、こちらもまた幸せそうだ。皇太子が妻の腹に触れて気遣っている。
その様子を見ていた皇后が声を掛けた。
「お腹が大きくなって同じ体勢で座り続けるのは辛いでしょう? いつでも休んでいいのよ。大事な身体ですからね」
「お気遣いありがとうございます、皇后陛下」
二人の和やかな会話に入ってきたのは胡淑妃だった。今回の宴には四夫人も呼ばれている。
「太子妃がお産みになるのは、たしか今回で5人目の娘だったかしら」
まるで決めつけるかのように『娘』と言った胡淑妃に、ピクリと皇太子が反応した。
「腹の子の性別はまだ分かりませんが?」
「ああ、そうでしたわね。皇太子の子はいつも女の子ばかりだから、つい今回も女の子だとばかり思いこんでしましましたわ。気を悪くしないで下さいな」
「…………」
「陛下がよく心配なさっていますのよ、男児がなかなかお生まれにならないから。なにせ皇太子ですもの。御自分の役目を果たせないのでは太子妃もさぞやお辛いでしょう。同じ女性として、心中お察しいたしますわ」
袖口をギュッと掴み屈辱に耐える皇太子妃は何も言えずに口を結んでいる。代わりに皇后が窘めるように話しかけた。
「胡淑妃、あまりプレッシャーをかけるものではありませんよ。今は大事な時です」
「皇后様が一番よくお分かりになっているはずです。妃の最も重要な勤めが何なのかを。お優しい皇后様に変わり、私がはっきりと申し上げたまででございます」
「こらこら、もう少し言葉を選びなさい。皇后様、娘はただ皇太子殿下の心配をしているだけでございます」
女たちの会話に入ってきたのは、上座近くに座る男性。胡淑妃を娘と呼んだことから、この男性は父親の胡中書令だろう。
「そうだ! 寺に祈祷に参りましょう。男の子宝に恵まれると評判の寺院があるのですよ。我が娘もそこで祈祷してもらい志勇が産まれ、志勇もまた息子を何人も授かっております」
「それはいいですわね。まだ生まれるまでにひと月以上はありますでしょうし、間に合いますわ」
男児が産まれるようにと祈祷に行くのは、何も悪いことじゃない。どこの家庭でもよく行われていることだし。
でも、すんごく胸糞悪い。
まるで『良かれと思って』とでも言うように、善人ぶりながら言っているのだと分かるから尚更。
皇帝はまだ暁明を皇太子に据えておくことを迷っているのだろうか?
このまま男児が産まれなければ、暁明の次に有力とされている志勇を、代わりに皇太子にするつもりなのか。
胡氏とその取り巻きたちが盛り上がる中、ついに皇帝が口を開いた。
「その必要はないぞ、胡中書令」
「……はい? と申しますと」
まさか、他の皇子を皇太子にするつもり?!
恐らく会場にいた誰もが、麗霞と同じように思ったはずだ。
既に息子がいる有能な皇子を皇太子にしてしまえば、悩みの種は消える。
待ち構えるように目を見開く胡中書令と淑妃に、皇帝は朗らかに笑いかけた。
「朕は皇太子妃の腹にいる子が女でも男でも気にならぬ。孫が増えるのは喜ばしいことに変わりはないからな」
「もちろんで御座います」
「ですが」と続けて喋ろうとする中書令を遮り、皇帝は皇太子夫婦を見た。
「それに、暁明に息子がいようがいまいが、皇太子であることに変わりはない」
「世継ぎはどうなさるのですか。現実問題として、世継ぎができないのでは――」
「娘が既に10人もいるではないか」
騒がしいはずの宴の会場が、シンっと静まり返った。
誰もが今言った皇帝の言葉に、耳を疑っている。
「そ……それは一体どう言う意味でしょうか」
「そのままの意味だ。世継ぎが10人もいれば問題なかろう」
「な……」
娘を世継ぎとして認める。ということ……?!
今の朝だけと言わず、それより以前の王朝でも女帝の存在はいなかったとされている。
それは男性が家督を継ぐのが当然、というのが習わしであり文化だから。
特に法で決められている訳でもないのだが、逆を言えばわざわざ法で定めて明記する必要もないほど、男だけが帝となるのが当たり前とされてきたからでもある。
それを皇帝は今、サラりと言ってのけてしまった。
「女が帝位を継いではならんという法は、確か無かったはずだ。中書令の其方ならば、そのくらいのことは知っているであろう?」
「陛下、今の御発言はこの国の文化を蔑ろにするものであります!」
「そうです! 国中からの反発は免れられません。民の理解も得られないでしょう」
「そのような重大なことを発言なさるのは――――」
静寂に包まれていた会場が一気に騒がしくなった。反対意見を訴える者、近くにいる人と話し合う者とで入り乱れる中、皇太子は帝に向かい頭を下げ、皇太子妃は静かに涙を拭っている。
きっと、嬉しかったのだろう。
実際に女性を後継者として立たせるのは法で禁じられていなくとも至難の道だというのは、皇太子夫妻も重々承知している。
それでも尚、皇帝がただ見捨てるだけではなく可能性を口にしてくれただけでも、二人は救われたはずだ。
「さてはて、胡氏贔屓をしていたかと思ったら、一体何があったんだかのぉ? ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ!」
愉快そうに笑う姜弘の手元には、卓の下で指を絡ませ合う両陛下の絵が描かれていた。
コメント
1件
ちょっと待って皇帝陛下カッコよすぎん?!?!💖 胡淑妃たちの嫌〜な嫌がらせにムカムカしてたところでの「娘が10人もいるではないか」はマジで痺れた…! あの静まり返った会場の感じとか、麗霞が胸糞悪いって思う気持ちにも超共感したし、最後の姜弘が描いた絵のオチもニヤけたよ〜😭✨ この夫婦の行方も気になるし、皇帝の本気度も気になる…続き読みたい!!