テラーノベル
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この国の貴族や王族だけ使える魔法は、世界を豊かにしてくれる奇跡。
生活を豊かにし、今や文明に欠かせない存在となっている。
しかし、魔法を扱えるのは、魔法使いの血を引く者のみ。
ノアのようにスラム出身で魔力を持つもの、リゼのように貴族の血統でありながら魔力を持たないものもいる。ただ、どちらも稀有な存在で、例外といっていい。
「魔法使いになれるのは、生まれながらに魔法使いだったものに限られる」
白輪教の教義では、神がすべての生物を六日間で創造したとされている。
人間も動物も、魔術師も非魔術師も、いずれも神が設計した不変の創造物と、聖書には書かれている。
動物が人に進化することがありえないのと同じくらい、非魔術師が魔術師になることはありえない。
それが白輪教の教えであり、この世界の常識だ。
「その通説が嘘だった、だから俺は一度殺されたんだ」
レオンがそう言うと、リゼが困った顔をした。
「……途中を飛ばし過ぎです。もう少しわかるように言ってください」
「じゃ、最初から話そうか。昔々、千年前まで、魔法は誰しもが使えるものだった。人体には魔導腺と呼ばれる器官があり、その器官は魔力を生み出すと知られていた」
「……どこの書物にも載っていない臓器ですね」
「だろうな。ただ現実、一見すると魔法が使えない者でも、眠っている魔導腺に特別な処置をしてもらえば、すぐに魔力を生み出すコツを覚える」
「……それが事実なら、誰もが魔術師になれる」
「そう。だからかつて、人は誰しも魔術師だったんだ。魔法は戦争で多くの人々を殺し、害意ある魔法も多く研究され、想像され、実践された。試せることは何でもやるのが人間だからな」
「それをよしとしない人たちもいるでしょうね」
「それが白輪教会だった。人々から魔法で記憶を奪い、秘密を守れる一部の血族だけが魔法を継承できるよう、人々の魔導腺を設計し直した。もっとも、その血族たる王族や貴族は、千年のうちに事情を語り継ぐことを忘れたらしいが」
ノアが「へー」と声を漏らした。
「ずいぶんと壮大な話だけど、そんな大がかりなことしないといけないもんかね?」
「仮に、明日突然、君の隣人が人を氷の檻に閉じ込めたり、見えない糸で身体を縛り付けたりできる能力を手にしたとして、今朝と同じように挨拶ができるかな?」
「……難しいな」
「その気になれば人を殺せる技術を封印する……社会の安寧を保つ手段としては悪くない。千年前の白輪教会には、自分たちが力を独占したいなんて欲はなかっただろうさ」
「今は?」
「力を知るのは自分たちだけでいい。秘密を知った者は、殺せってさ」
レオンは自分の頭部の傷を指さして、皮肉気に笑った。
話がようやく、レオンが一度殺された理由に戻ってきたらしい。
「その話、本当なの?」
メイジーが言った。
「正直、超巨大な陰謀論に聞こえるよ? あなたの話、証拠がなくない?」
「証拠はない。でも、証明はできる」
「どうやって?」
レオンが笑う。
「さっき触れた、眠っている魔導腺を覚醒させる、特別な処置……実はとてもシンプルなんだ。非魔術師の身体に、外から魔導腺を狙って魔力を通すだけでいい。人体への理解がある魔術師なら、誰でも力を呼び起こせる」
レオンは話しながら、リゼに立つように合図した。リゼも意図を察して立ち上がる。レオンはリゼの背後に歩み寄った。
「リゼ、君には予想できるんじゃないか。魔導腺はどこにある?」
不可思議な臓器に、心当たりはあった。
呼吸にも作用しない、血液の循環にも作用しない、消化器官や排せつ器官、生殖とも関係ない、他の臓器と隔絶された何か――。
「肩甲骨の間、高さは胸椎三番か四番付近、左右を三対七に内分する位置」
リゼが迷いなく言った。
リゼの眼からはわからないことだったが、レオンはもう、丁度その位置に手をかざしている。
「証明を始めよう。リゼ、今から君も魔術師になる」
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