奈良はそれを聞くと、手に持っていた米俵を置きゆっくりと深呼吸をした。
日本家はみな、奈良が捕まる覚悟をしたのかと思ったが、奈良はそうでは無いらしく
「この米俵、わえが生きて帰ってきたらその時にでも渡してくれ。」
と一言言うと、玄関の扉が開いたと同時に障子を開ける。
「ここに奈良の野郎は来てねぇか?!」
玄関からの戦国であろう声が聞こえた瞬間奈良は部屋を抜けて縁側に出ると、塀の上にストンと飛び乗った。
だが飛び乗ったのは良いものの、その場面を戦国に見られてしまう。
戦国は奈良の正面の縁側に立つと何処からか弓矢を取り出す。
「うぉおおら!やはりここに居たか憎き奈良の野郎!はっ倒してやるから覚悟しやがれええ!」
と大声をあげ、弓矢を素早く構えると標準を合わせ一発放つ。
奈良は間一髪で避けて、まず此処から場所を変えようと試みる。
――彼奴の手元が狂うなんぞまずあり得ないが…弓矢は危険だ、わえら以外に被害なんてあったら…飛鳥に殺される…。
一先ず此処から離れる為奈良はクルリと体の向きを変えると、家とは反対側に塀を飛び降りて宛もなく走り出した。
戦国を止められる物は1人だけ。
室町だ。
室町の飯を食べれば誰でも静かになると言っても過言では無い。
大袈裟と言われるかもしれないが、確実に言えるのは…戦国は室町の飯を食べると怒りが静まるのだ。
奈良は後ろの暴走野郎を沈める為、何処にいるかも分からない室町の所へ急ぐ。
自分の命がこの世から消えるか何処かにいる室町を探すか、答えは明白であろう。
そんな奈良に対して、戦国は奈良が何をしたいのか分からず追うしか無くなっていた。
目的は奈良に茶器の恨みを晴らすのみ、戦国は先程通った正面玄関を駆け抜けると奈良が行った方向に走りだす。
「おい!止まれ!」
後ろからの声を無視し、本家へ急ぐ奈良。
本家と分家との距離はそれ程無い、大体5分も走れば着くほどだ。
もうすぐ昼の時間であるし、今頃室町は昼飯を作っている頃とみて矢を避けながら屋根の上を渡っていく。
いつもは戦国と同じ家に室町は住んでいるのだが、今日その分家に行った時に室町はいなかった為本家にいるのだろう。
本家で料理を頼まれて作っているのは、室町にはよくある事だ。
「見えた!わえの家…!」
戦国は走っている内に奈良が本家に行こうとしていることに薄々気付いていた。
そしてこの一言を聞き、戦国の予想は確信に変わる。
戦国は奈良が本家の裏口から家に入ると予想すると、一足早く裏口の方に周っておく。
奈良は屋根を渡っているので下に戦国がいれば下に降りるに降りられないだろう。
そう考える戦国に対し、奈良は自分を捕えず、本家の裏口に周る戦国を見て自分の考えがバレたのだと分かった。
奈良は急遽正面玄関の方向に向きを変えて下に飛び降りると
「室町ー!飯はあるか!」
と叫んだ。
中から困惑した様な顔で出てくる室町は料理中だったのだろう、お玉を持っている。
いつもは叱られる時あのお玉で頭をはたかれるので恐怖のお玉だが…今は戦国の怒りもあって有難いお玉にしか見えない。
「飯…今味噌汁出来たばっかだが。」
「そ、それを1杯!なるべく早く!殺される!」
「殺っ…分かったから少し待て。」
何となく予想がついた室町はせっせと味噌汁をお椀に入れる。
そしてそのお椀を奈良に手渡すと一言
「死ぬなよ」
とだけ言って、また昼飯の支度を始めた。
奈良は戦国がどこにいるか曖昧な為に、警戒しながら味噌汁を運ぶ。
その時の戦国はといえば、裏口から奈良が家に入らなかった予想外の展開に驚きつつ、奈良が家から出た時に捕えようと裏口の前で弓を構えながら待機していた。
奈良は息を潜め、内側から裏口の扉を勢いよく開ける。
それに反応し戦国は矢を放つと、奈良の頭の横を素早く通り過ぎた。
奈良は小柄な体型をしている為小回りが良くきく。
奈良はその体型を駆使して戦国の後ろに回り込むと、後ろから味噌汁を飲ませた。
「うまぁ~…っ!」
戦国はおもわず口に出すと、奈良はその隙にひょいと戦国の持っていた弓矢を奪い
「す、すみませんでした…。」
と謝る。
戦国は味噌汁で少し落ち着いたのか
「…許す。」
味噌汁を両手で持って、少しだけ飲むと、静かにそう言った。
奈良は、ほっと胸を撫で下ろすと反撃されないように奪っていた弓矢を返した。
そして二度と戦国の茶器は割らないと心に決めたとさ。
その日の昼食終わり。
「あの時わえが避けた矢はどこへ行ったのじゃ?」
そういえば…と思い出した様に、奈良は食器を洗っている室町に問う。
室町はその問いに何ともない顔で
「俺がまな板で受け止めた。」
と言う。
奈良が信じ難い顔をしていると、室町は洗っていたまな板を差し出した。
「ほらこの穴。矢が刺さった穴だ。」
「うわ…まな板で受け止めるとか…室町君もしかしてやば――」
「壁に刺さるよりかはいいだろ。それ言ったら今度から戦国が暴れても飯やらねぇぞお前。」
「うっす…。」
奈良は採集手段が無くなると辛い…と言いながら室町の反射神経に驚いたのだった。
おわり!_(:3 」∠)_
コメント
7件
まな板で矢を止めるって、イラストであったやつ!?
こうゆう、日本家のお話って少ないから嬉しすぎる! 室町さんのお味噌汁飲みたいっ!、、、
奈良くん生きてて良かったね🥹 室町くんの料理.....1度は食ってみてぇッッッッッ!!!( ᐛ )