大柄の男が、ビルの屋上で唸っていた。
「ふぅむ……困った事になったな」
ソルジャーギアの総司令、ハーガリアン。彼はラクスなど、ソルジャーギア隊員内にいるツインテール派やツーサイドアップ派の動向に注意し、離れた場所から監視していた。
その方法は、アーマメントによる小型飛行カメラと空中投影の映像である。ただしプリントと同じく、単色でノイズ有りという画質の悪さ。
それでも遠くを見張ることが出来るという事で、サイロバクラムでは相当に高価な物となっている。
そんな道具を使って見張っている対象は、ツインテール派のラクス達だった。
「何が起こったのか分からんが、ラクスが一切動かなくなった。周りの奴らも、どうしたら良いか分からないようだな」
映像には、ラクスが生きているのか確かめようとして胸部に触れようとし、次々と同派閥の女性陣に殴られていく男性陣の姿が移っていた。どさくさに紛れてラクスに触れようとし、同じ様に殴られている女性陣も数名いるが。
「ここでこうしていても仕方がない。行くか」
結局何が起こったのか、本人達に聞くことにした。
「わ、分からないっす。喋ってたら突然動きが止まって、こんな状態に……」
「これ絶対魔法ですよ! 魔法の効果ですよ!」
「やっぱりな。ツインテール魔法少女に不可能は無いからな」
「なるほどな。わからん」
言いたい事はある程度分かったが、詳しい事は全くの不明となった。
なにしろ実際に魔法を発動した姿を見た者は少なく、残念ながらムームーは魔法使いではない。同行していた唯一の魔法使いであるネフテリアは何もしておらず、ラクスを停止させたのは、パフィにくっついてただの木の板を握っていたアリエッタである。
「こうなった時、エーテルの動きは?」
「レーダーには何も検知されませんでした」
エーテル技術が発達しているので、それを検知する技術も当然ある。実はツーサイドアップ派を警戒する為に常備していたアーマメントだが、それにも反応は無かった。
「一体どういう──」
「っ! 司令! 反応です! かなりのエーテル反応が現れました!」
「なにっ!? 場所は!」
「こちらの方角からっ!? 速い! すでに目視距離です!」
その叫びに全員で周囲を警戒するが、周囲には高速で動く何かはいない。
「まさか地下か!」
ハーガリアンの一言で、全員が足元を警戒する。しかし、
ズドォォォン
一同から少し離れた場所に、上から何かが落ちてきた。
少し地面が割れ、四角い土煙が大量に舞い上がる。状況判断の早いソルジャーギア隊員数名が、バリアを展開して防御しつつ、何かが落ちてきた方を凝視する。
「……上でしたね」
「言うな」
同じくバリアとアーマメントを展開するハーガリアンの顔が赤い。
ともあれ土埃が晴れてきて、その姿が見えようとしたその時だった。
「んなっ!?」
突如その人陰が輝きを放ちながらラクスに向かって飛び出した。その物凄いスピードに、反射的に攻撃をする一同。
しかし、エーテルによる攻撃は通用せず、輝く体に弾かれている。
その人物がラクスに接近し、手を伸ばしたその時、ハーガリアンが間に入ってそれを阻止した。
「何者だ? 俺の部下に何をする」
「!」
襲いかかってきた大柄な男は、ハッと何かに気付いたかのような反応をし、後ろに跳んだ。
「逃がさん!」
相手が何者か確認する必要があると考えたハーガリアン。背中にあるバーニアを起動し、追撃する。
追撃を向かい打つべく輝きを増すその人物と、エーテルの光を噴出して高速飛行するハーガリアンが、激突した。
「ぐあぁっ!」
「!?」
両者の拳がぶつかり、衝撃によってハーガリアンは下へ、相手は上へと飛ばされる。
ハーガリアンは追撃をかけるべく、腕のアーマメントからエーテルのビームを発射。しかし、相手は空中で軌道を変え、高速でどこかへと飛び去って行った。
「大丈夫ですか! 総司令!」
「ああ……一体何者だ?」
危険な何かを感じ、部下に追跡を命じるが、
「駄目です。高速移動しているのに、エーテル反応がありません」
「むぅ……何だと言うのだ、本当に」
何も分からない不気味さを感じるのだった。
そんな中、一部の女性陣が、頬を紅潮させて騒いでいる。
「あの逞しさ。いいわぁ、締め上げられたい♡」
「筋肉もいいですけど、あのはみ出しそうな膨らみ……ジュルリ」
なんだか危ない会話が始まっていたので、周囲の人々は目を逸らして聞こえないふりをするのだった。
「うーん、どーしよっかなー」
「困ったのよー」
こちらはラクスを止めた犯人のいるネフテリア達のグループ。
これからの事を考え、ムームーとパフィは軽いノリで悩んでいた。
「悩むのは良いけど、わたくしはいつまで、こうしてなきゃいけないのかしら?」
2人の前で座っているネフテリアが、困った顔で苦情を言った。
その正面にはアリエッタがどっしりと座り、真剣な顔でネフテリアの絵を描いている。
(僕がノリで服をデザインしたとはいえ、てりあはセクシーだし似合ってるなぁ。もっとパーツ増やしても良かったかな? でもゴテゴテしすぎると動きにくいんだよねー、魔法使いらしさも無くなるし)
自分の考えた衣装を見直しながら、ネフテリアの絵の髪部分に下書きを描き足している。
(そうか魔法か! それがあれば、絵でしかできないような髪型も出来るかも。実際ぱひーだって、綿あめみたいにモコモコしてるし)
世界が違えば、髪の毛の物理法則も変わるのではと考えたアリエッタ。実際は世界というよりも生態の違いではあるのだが、結論自体はそうそう間違えているわけでは無いようだ。
こうなったら魔法頼みだと考え、今まで現実でそうそう見ない髪型を考え始める。
(ツインテ系……はムームーがやってるし、よくある髪型だし、ただのウエーブだと珍しくない気がするし。何が良いかなぁ。髪の長さ的にはお揃いとか出来なくもないか……でもポニテってだけだと絶対つまらないよなー。そういえば三つ編みとかこっちで見た事無いな。でもどうやるかは思い出さないと無理だ。じゃなくて、あんまり見ない髪型……)
なんとなく思いついたのは、割と無難な髪型ばかり。難しい髪型は家で試した方が良いと考え、断念。だが、それで満足しないアリエッタは、方向性を変えていく。
(逆モヒ、スーパーな怒髪天、四角いリーゼント、う〇こヘアー、ちょんまげ……)
方向性云々というより、ただの迷走だった。
(いやいや落ち着け。それは誰も喜ばない。ん~……たまにはてりあとお揃いってのも、悪くないかもなぁ。簡単な髪型で試してみて、良い感じだったら今度ミューゼとお揃いしようかな~)
ネフテリアと一緒の髪型を想像してみると、色が黒と白(銀)という事もあり、並んでみるのも悪くないと思っていた。
(でも、初めてのお揃いはミューゼがいいなー。うーん、どうしよっかなー。似てるけど違う感じがいいかな)
ミューゼとお揃いという思考が、アリエッタのテンションを上げていく。
そして何を思いついたのか、笑顔になって筆を滑らせ始めた。
「なんだかノリノリなのよ」
「楽しそうだね」
「貴女達もね……」
髪型をタマネギみたいな形にされたネフテリアが、後ろの2人に呆れていた。
「2人してわたくしの髪をいじりまくるから、アリエッタちゃんまで乗り気になっちゃったじゃないの」
「さすがアリエッタなのよ。頼りになるのよ」
パフィとムームーは、面白半分でネフテリアの髪型で遊んでいた。ムームーの糸を使えば、まとめたり装飾をしたりという事が、簡単に出来てしまうのだ。
そんな短い会話の間にも、ネフテリアの髪型は改造され、前髪の上に大きなツノが模られた。
(おお、空手めっちゃ得意そう! 殺人事件に巻き込まれそうだけど!)
そんなネフテリアの姿を見て、さらにテンションが上がるアリエッタ。
そしてついに絵を描き上げた。2人分の絵を。
「え? これをやりたいのよ?」
絵を受け取り、じっと見つめられたパフィは、少し考えた後、快く了承した。
「……で、こんな感じに落ち着いたわけね」
「微妙にお揃いなのが羨ましいのよー」
「にひひ~♪」(なんだか白黒の姉妹みたいだ。てりあの方が強そう(?)なのがイイね)
パフィとムームーの2人は、やりきった!という満足顔になっている。
ご機嫌なアリエッタは、これまでと同じポニーテールだが、その先端が縦ロールになっている。それをゆらゆら揺らして、楽しんでいた。
(ついに完璧なドリル装着! ポニテドリルだ! これは勝ったな!)
何に勝ったのか分からないが、アニメやゲームでしか見る事が出来なかった縦ロールになれたのが、心底嬉しいようだ。
その隣にいるネフテリアは、同じくポニーテールになったのだが、その根元から大きく2つに分かれ、その両方の先端が縦ロールになっている。
「変わった髪型ね。おかしくない?」
「おかしいかとか言われても……」
「初めて見る髪型だからよく分からないのよ」
「だよねー」
大人3人は不思議そうにしているが、アリエッタは満足気。
(まさか本当にツインポニテドリルが出来ちゃうとは。やっぱり魔法って凄いんだな)
物理法則をそれなりに無視した髪型。実際はムームーが出した見えないくらい細く頑丈な糸で模っているのだが、アリエッタは他の人の能力をよく分かっていないので、魔法だと思っている。
「まぁでも、これなら目立つし、ちょっとはアイツらを揺さぶれるでしょ」
「なのよ」
「上手くいくと良いですけどね」
これまでツインテール派とツーサイドアップ派に絡まれたネフテリアは、上手くいったらラッキー程度の考えで、とある提案をしていた。それは両派閥を刺激し、コロニーの外で過激な連中をボッコボコにしてやろうという、力任せの作戦だった。
そんな大雑把な作戦だが、何か起これば良し、何も無くても楽しんでるから良しの精神で、パフィとムームーも了承したのだ。
「名前はどうするのよ?」
「ん~……素直にポニーテール派で」
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