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このアパート、変人だらけ!

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このアパート、変人だらけ!

2 - 第2話 不毛姉妹~妹が高圧電流を全身に浴びた話(1)

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2023年12月31日

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画像 「スイマセンでした」


呂律が回らなかった舌も、1時間もすると普通に動くようになっていた。


「ホンマにスイマセンでした」


目の前で女性警官が2人、顔を見合わせた。

口元が微妙に震えている。

笑いを堪え切れない、といった表情だ。

アタシはそれを見ないように深々と頭を下げた。


「スイマセンでした。エット……」


何でこんなことになったんだっけ。


たしか昨日……桃太郎?がアタシの部屋に住み着いてて……いや、アレは夢や。

現実にはありえへんもん。


雷が鳴ってて、アタシは身体がフワフワ気持ちよくなって……ものすごいゲップを出した瞬間、ピカッと全身に雷浴びたような気がする。

「ギャッ!」と悲鳴をあげた瞬間には、全身バチバチ弾けてた。

あとは全然覚えてない。



意識を回復したのは翌朝のことだった。


目が合った看護士さんが「オブオブッ!」と変な声で叫んで部屋を出て行く。

ほどなくして、たくさんのお医者さんと看護士さんがアタシのベッドを取り囲んだ。

みんな奇異の目でアタシを見てる。


──何や? 何が起こったんや。


勝手にアタシにスマホを向けたり、アタシを囲んでナースたちが記念撮影したりしている。


「ちょっ……ヤメうに。なにしゅるうに。あみゅ?」


愕然とした。

アタシ、喋れてないやん。


警察の人がアタシを引き取りにきたのは、それからしばらくしてからのことだった。





16歳の少女(←コレ、アタシ)が陽気な感じで電柱に登った。


「ウララ~♪」


素手で電線をちぎってぶら下がり、ターザンみたいに遊んでいたらしい。

そこに雷が!

雷と高圧電流を同時に全身に浴び、軽く2,000アンペアが体内を通った。


普通なら即死の事態だ。

でも電流は奇跡的に身体の外に流れ、少女は無傷で地上に着地したという事だ。

……普通50ミリアンペアでも人は死ぬらしい。


「あなたが助かったのは奇跡なのよ……オブッ!」


説明が終わったと同時に噴き出した警官を前に、アタシはうなだれるだけだった。


その時だ。


──カツーン。カツーン……。


何やら恐ろしい気配と共に、ゆっくりと足音が近付いて来た。

扉の向こうから警官との会話が聞こえてくる。


「多部リカの姉の乙姫です。お電話を頂いて妹を引き取りにまいりました」


こ、この声は……。


「ヒィィ……」


アタシは椅子から転げ落ちた。


警官が驚いたように何か叫んだが、アタシの耳には入っちゃいない。


「お、お仕置される。精神にくるキッツイ見せしめ的なお仕置きされる……」


ブツブツ言いながら床を這い回る。

でも逃げ場はない。

ゆっくりと時間をかけてドアが開き、アタシの前ににこやかな笑顔の女性が現れた。


「お、お姉……。久しぶりやな。こ、今年の正月以来やん……」


東京の大学に行く為、家を出た姉の乙姫だ。

今は大学を卒業して、アパートを経営しているという。

この姉というのが実は……。


「ヒッ!」


ガシッと襟首をつかまれ、アタシは悲鳴をあげた。

にこやかな顔して姉は洗濯ばさみを2つ、アタシの首筋の皮膚に挟んだ。


「アグッ……! お、おしおき?」


ニッコリ笑われた。

うわ、すごい地味なお仕置や。

でもダメージはジワジワくる。


しばらく地獄の時間が続いてのち、ようやくアタシは解放された。

警察にご迷惑をかけたのは生まれて初めてだし、色々問い質された…というか、怒られたというか…馬鹿にされたわけだけど。


とにかくショックやった。生きた心地もしなかった。

過去に補導歴がないかどうかということまで調べられたし。


電車に乗ってバスに30分乗って、更にテクテク歩いてアタシら姉妹はアパートに帰ってきた。

その間、首筋に洗濯ばさみ挟んだまま。


お姉のにこやかな笑顔と冷たい視線にさらされて、アタシは生きた心地がしなかった。

どうでもいいけどこの人、まだ1回も妹(アタシ)に向かって話しかけてへんで。


アタシらが足を止めたのは、一軒のボロ屋の前である。


──オールド・ストーリーJ館(AからI館までは聞いたことがない)。

大層な名前だけど、それは東京とは思えない荒地の真ん中にポツンと建つ木造2階建てのボロアパートだ。


ここの2階の1室がアタシの新居。

姉は大家なのだ。


「せ、洗濯ばさみ、そろそろ外してもいいですかね?」


すごい下手に出て聞いたのに、あえなく無視された。


姉はアパートを見ている。

その視線を辿って、アタシは玄関前で手を振っている若い男の姿に気付いた。


「乙姫サマ! お勤め、ご苦労様です!」


男はお姉に向かって敬礼した。

何や、それ。うちの姉は一体どこの組長やねん。

お姉は当たり前みたいに鞄をそいつに預け、脱いだ靴をわざと遠くに転がした。

「ハァハァ」言いながら男はよつんばいになって靴を拾いに行く。


「な、何や、この人……」


明かに関わりたくないタイプの人間だと、アタシは本能で気付いていた。

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