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ろのみ🩵🫧
43
#愛され
おうか
252
これで引き返せない。
促されるままに中へ入ると、彼は私のコートを受けとりソファーへ座らせた。
「コーヒーは? 」
牛乳だけ入れると言った私に
「……次から、用意しとく」
そう言った彼を見て、笑顔をつくった。
……次。
次、またここへ来るのだろうか。ここは、誰かのテリトリーの中なのに。
一人で住むには広いマンション。綺麗なキッチン。
ここからベッドルームは見えるけど、他のドアはきっちり閉められている。
彼は私の前にコーヒーを置くと、私を引き寄せた。
「湊、スマホ出して」
そう言われて……私のスマホが粉砕したのは事実だけど、もうとっくに手元にあった。ただ、彼と会うときは会社に置いておくことにした。持っていないと言い通すために。本当だという証拠に、自分のバッグの中身をバサバサとひっくり返した。最小限の荷物。その中にスマホがあった。
「これは、社用」
そう言って、そのスマホを持ち上げた。
「本当か? 」
「そう。でね、私どうしても機種譲れなくて。2ヶ月待ちなの。代替え面倒臭くて。社用携帯あるし……プライベートはどうせ、誰からも連絡……」
「ああ、彼氏もいないって言ってたか」
いた方が、この人には都合が良かったのかもしれない。
だけど、彼氏がいたらここには来ない。もちろん、あのホテルにも。
「えっと、今は……いるから……な」
嫌な予感がする。
「全く、自分の“彼女”の連絡先知らないのなんて、初めてだよ」
ため息をつきながら、私の顔を窺う。
「彼女だ。湊。それで、いいよな? 」
『彼女』という響きは、随分と軽く、尚且つ私には暗く響いた。
それを、悟られないように……笑った。
『彼女』になるつもりはなかった。
「それと連絡は、俺の方からする」
そう言って、彼は私の社用携帯にワンコールした。その番号を登録する振りをして、バッグにしまった。
1回の過ちが2回目となると、もう魔が差したでは済まない。
何をしているのだろう、こんな所まで来て。
「今日は泊まる? 」
“今日は”大丈夫なのだろう。
「明日仕事だよ? 」
「職場、近いんだろ……じゃあ……」
「誰かに……見られるよ」
「堂々としてれば」
慣れたもんだね。
そうか、堂々としてれば逆に……そうは見えないのかもしれない。
コーヒー1杯と飲み終わらないうちに、さっきの玄関での続き。
さっさとしたいよね。可笑しい。……悲しくて……可笑しい。器用に服を脱がし、下着のホックも片手で一瞬で外される。恥ずかしい。
この人に太刀打ちできるほど、私は慣れてはいない。なのに、平気な振りをしなければならない。
「嫌だわ、部長……私……そんなつもりじゃ」
「ここまでついて来といて、それはないだろう? 」
茶化すように、でも……ちょっと意地悪でそう言った。冗談に乗ったのか、それとも、本心か。クスクスと笑う。
「何、そんな感じのが燃えるの? 」
「もう……」
そう言って、彼の胸を押す。
少し押したくらいでは、びくともしないたくましい彼の胸。
『逃がさない』
その言葉を意味するのか、彼が私のあちこちに、わざと小さな痕を残していく。
身を捩るようにそれを避けて、彼の首元……敢えて服を着ても見える部分に口づけ、軽く吸う。
「ストップ。……俺はいい」
予想通り、私の身体を引き離すとそう言った。
「冗談よ」
そう言って笑う。……見られて困る人が、いる。
機嫌を取るようにゆるく頬をつねる彼にまた、笑った。そうだ、拗ねていい関係でも、求めていい関係でもない。
「寒い。私だけ……脱がして……温めてくれないの? 」
終わらせたい。早く。虚しいだけの、この関係を。
「……ベッド行こうか」
そう言う彼の首に、ぎゅっと腕を回す。そのまま抱えられてベッドへとなだれ込んだ。
熱い瞳で優しく微笑みながら、じっと見つめられる。
「……何? 」
「んー……好きだよ。湊」
ああ、言えちゃうんだね。
それはそうか、ベッドの上……だもんね。
「お上手ですわ、部長」
茶化す私に、容赦なく……だけど、優しく触れていく。そんな彼に、抱きついた。
今だけ。この間だけは……忘れられる。
出そうになる涙をこらえる。顔を見られないように抱きついたのに身体を離され、それに気づいた彼が、目尻に口づける。
「……綺麗だな」
そう言った彼の腰に手を這わせる。
「悪い人だなぁ……」
「よく、言われます」
「はは! ねえ、」
他にもいるのだろうか。
……本命でない“彼女”が私以外にも。
そして、本命ですらない私が、本命ですらない人に……嫉妬する。
「黙れ……もう」
彼が、私の口を塞ぐ。そこからは、何も考えずに、考えられなくなるほどに、彼に酔わされる。
何度も押し寄せる波にのまれる。
それは、心なのか、身体なのか……わからなかった。
まだ暗いうちに目を覚ました。
……広いベッド。一人で寝るには……広い。
ここでいつもは誰と眠っているのだろう。
傷つく人がいる。
前回同様の、激しい自己嫌悪。そして、粉々になる取り繕った自尊心。
小さく、でも……数多く残る痕に痛みが走る。
やめよう、不毛な……先のない関係など。
分かっている。吉良くんにも申し訳ない。
また、迷惑を掛けてしまう。
私のせいで……だから……そっとベッドに腰かけると、昨日と同じ下着をつける。
仕方がない。一度家に帰ろう。
そう思って立ち上がろうとすると、その力が反対に動く。
腕を掴まれ、そのままベッドに倒された。
「何? また、帰るの」
「……あ……だって、下着……」
「ああ、気持ち悪い? じゃあ……送る」
「いい。明るくなってるし、電車も動いてる。送ってると遅刻しちゃうでしょ。部長」
そう言って笑って誤魔化した。
「……今月はちょっと忙しいけど、時間作るから」
そう言った彼に、自分からキスをした。
「うん、連絡待ってる」
そう言って、彼のマンションを出た。
何より驚いたのは、私のマンションと目と鼻の先だったこと。よく、今まで会わなかったものだ。いや、会ってたのかも。昨日まではもし会ってても、知らない人だったわけだから。
知られる訳にはいかないな。
念のため、駅の方向へ歩いてから方向転換した。私のマンションは、彼のマンションより駅から遠かった。お陰で、彼がうちの方向へ来ることはないだろう。
引っ越そう。これ以上、彼に……心奪われるのが怖かった。
『うん、連絡待ってる』
そんな言葉が、自分から出たことに。自分から、彼にキスした事に。
それがなぜかも、本当は分かっている。
だから、だからこそ。
私は彼への道を断つように、引っ越しを決めた。
どのみち、心機一転。そう、だからこそ。
コメント
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うわあああ第17話読み終えたよ〜!!😭💕 湊さんの心情がひしひしと伝わってきて胸が苦しい……「彼女」って言われたときの軽さと暗さ、でも抗えない自分、もう戻れない感覚がリアルすぎて息できなかった💔 「好きだよ」って言えるんだね、でもそれがベッドの上だけってわかってる切なさ……。引っ越しを決意するところ、自分の気持ちに気づいて逃げたくなる感じ、すごくわかるよ……。 西原さん、この複雑な感情の描き方が天才すぎる……!✨ 次が気になりすぎるよ!