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すぐにマンションの解約を決めた。
こちらは、引っ越しシーズンのためか4月末でいけた。
正直、ホッとした。
でも住むところがなくなる。ちなみに、職も。
相当自分を追い込んだ。それくらい彼に気持ちが動いていた。分かっている。
そうじゃないと、こんな関係に進む訳もなく……
そして、追い込まないとやめられない。この関係を。情けないけど、どうしようもなかった。
退職に伴い、取引先に挨拶に回った。引き続きも兼ねて。
「寿!? 」
とか
「次はどうするの? 」
とか
その度に、笑って誤魔化した。
懇意にしていた人には正直に話した。先の事も、本当はやりたい事がある、その事も。
そんな時だった。
取引先の縁のあるデザイン事務所が、人員を募集していると聞いてすぐに面接に向かった。
そして、その場で採用となった。6月からと、まだ先だったけれど。
そう大きくはないデザイン事務所だったが、6月から数人が海外研修へ出るので人員募集との事。
建築士、デザイナー。インテリアコーディネーター。勉強させてもらうには十分な環境だった。
おまけに、何軒かマンションも紹介して貰えた。
ラッキーだった。
ただ、イタリアレベルに彼と離れたかった私にとって、大して離れられない事はちょっと引っかかったけれど。
大丈夫、路線も違うし。そう、言い聞かせた。
矛盾。
矛盾しているのは、自分でも分かっている。
彼から電話があると、何を置いてもすぐに駆けつけてしまう。
待っていた。いくら、気にしないようにしても、待っている自分がいた。
毎日。
彼からの電話はいつも突然だった。それなのに、いつでも呼ばれるままに向かった。
彼の、元へ。
彼からの電話は、週に1回だったり、2回だったり……時には2週間ない時も。
「はぁ、やっと会えた」
部屋に入るなり、彼はそう言った。
「悪い、湊……最近忙しくて」
「ああ、いいよ。新入社員入ってきたし忙しいよね」
確かに、決算月の年度末に入社時期の流れでは忙しい。
でも、それだけじゃないのだろうなと、詮索してしまう。詮索しても仕方がないのに。
「落ち着いたら、どこか行こうか。温泉でも」
「いいよ、私も今忙しいし」
そう言って、笑った。実際、忙しかった。
でもそれは……来週に控えた引っ越しのせいだけどね。
それにしても、温泉とか……定番すぎませんか。
「オヤジくさいか? 湊の行きたいとこで、いいけど」
「はは! 気にしてるの? じゃあ、イタリア! 」
「そう来たか。んー……まとまった休み取るかぁ」
実現されないだろうやり取りに、また、笑う。
「もうちょっと、我が儘言ってくれていいのに」
そう言って私を撫でながらキスをする。
何回だろう。
今日で……会うのは……
「……6回目」
あ、口に出してしまった。
「何? 会った回数、数えてんの? 」
「あー……ほら、一応」
「ああ、そっちの? 女性は……気にするか。ちゃんとするよ。大丈夫」
「うん、そうだね」
「デキても、いいけどね」
そう言って、笑う。
嘘つきだな。
なのに、なぜ甘く聞こえるのだろうか。
どうして、離れられないのだろう。
たった1度すらも、断る事もできず……駆けつける。
バカだなぁ。
どこかで食事をして、どこかで飲みきれる小さいサイズの牛乳を買って、彼の家に来る。
そして、翌朝早くに帰る。それが、私達の定番だった。
いつも、同じ。
彼の腕の中にいるときだけの幸せ。
そのあとの虚しさ絶望感に日々辛くなっていく。
数えられるうちに止めよう。
何度もした決心は、たった1回の電話で取り払われる。
だけど、数えられるうちに。引っ越しもするし、来月は、ほぼ会社には行かない。
「そう言えば……」
私に触れながら、彼がおもむろに聞く。
「独り暮らしだよな? 」
今さらだな……。
「そうだよ」
「呼んでくれてもよくない? 」
ヤダよ。
私の家の方が、都合いいだろうし……。
ああ、でも……いっか。引っ越すし。
「散らかってるの。すっごい」
「俺もだよ、それは」
「綺麗だよ、ここは」
「はは! あっちに、詰め込んでるから」
そう言っていつも締め切られた部屋を指差した。
……嘘ばっかり。
「玄関まででいいなら、行ってみる? 」
「何で玄関なんだよ」
「散らかってるんだって」
「……忙しいもんな、湊も」
「行こ」
「は? 今から? 」
彼の手を取って立ち上がった。外へ出ると、離れて歩いた。
歩いて、数分。
「……嘘だろ? 」
「本当」
「こんなに、近いのかよ」
徒歩数分のそのマンションのドアを開けた。
引っ越しの段ボールが置かれた廊下。
「……引っ越し……」
「うん」
「いつ? 」
「1ヶ月前くらいかな」
「え? 前? 何で言わないんだよ」
「ほら……追いかけて来たみたいじゃない」
私も嘘で返した。
「はは! 確かに。そんなに好きなんだ。俺のこと」
「言うと思った」
そう言って、笑い合った。
「手伝おうか? 片付けるの」
「いいよ、ゆっくりします」
「片付いたら、招待して」
「はーい」
「こんなに近いなら、遅くても遠慮なく呼べるな」
身勝手な発言に
「私、このまま帰ろうかな」
そう言うと
「……だーめ、まだ……何もしてない」
そう言われ、また……彼のマンションへ戻った。
6回……か。あと、3回。あと3回で終わりにしよう。
今日で最後って決められないところが……情けない。
彼の優しい笑顔に今日も騙される。
いいよ、あと3回は騙されてあげる。
だけど……
いつ呼ばれるか分からないあと3回。それまでに、固めなければならない。
強い決心を。
この不毛な恋を終わらせる、そんな決心を。
コメント
1件
ああ、もう……切なすぎるだろ……。自分から引っ越しして距離を取ろうとしてるのに、結局呼ばれたら駆けつけちゃうの、痛いほどわかる。「あと3回」って自分に言い聞かせるところがもう、読んでて胸が締め付けられたよ。嘘で返し合いながら、でも互いに気持ちは見えてて、それでも離れられないもどかしさ。続き気になるわ……。
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