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修羅場のあと。空気は落ち着き、みんな普段通りに戻ろうとしていた。でも、初兎の心は……まだほんの少し、ざわざわしていた。
(りうらもまろちゃんも、ちゃんと謝ってくれたし……うれしかった。けど……)
ふと頭をよぎるのは、ないこの言葉と、あの指先。
「初兎ちゃんを泣かすなよ」
(あの時、あの声が、一番……安心した)
次の日の帰り道、初兎は思い切って、ないこの後ろを追いかけて声をかけた。
「ないちゃん!」
「ん、どした?帰る方向一緒だったっけ?」
「うん、まあ……うん!」
少し歩いたあと、初兎はポツリとつぶやいた。
「……ないちゃんって、ずるいよね」
「ん?俺、なんかした?」
「りうらとかまろちゃんは、“好き”って気持ちがバレバレだけど、ないちゃんは……なんか、分かんないんだもん」
ないこは立ち止まり、初兎の方をちらりと見る。
「……そう?」
「うん。なのに、俺が困ってるとき、一番欲しい言葉、くれるんだもん」
「そりゃ……リーダーだから、でしょ」
「ほんとにそれだけ?」
沈黙。
風が通り抜ける。
「……じゃあ逆に聞くけど」
ないこが、ふと真顔になって、初兎を見つめた。
「“それだけじゃなかったら”、どうする?」
「え……」
「“好き”って言わなくても、伝えてるつもりだったけどな。初兎ちゃん、そういうの、鈍感だからさ」
初兎の心臓が、跳ねた。
「っ……そ、そういうの、反則……」
「ふふ、今さら?」
そう言って歩き出すないこの後ろ姿を見ながら、初兎は頬を赤くして呟く。
「……やっぱ、ないちゃん、いちばんずるいよ」