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「ひどいよリオ、俺を置いて逃げただろう」「ごめん、だって俺、あの人苦手だもん」
「俺だってそうだよ!しかもさ、大広間を覗いてたことがバレてた…。なんでた?目しかわからなかったじゃん!」
「優秀な騎士様は怖いね」
「全くだよ」
並んで身体を洗いながら、リオはアトラスの|愚痴《ぐち》を聞いている。
夕餉の後に浴場に来たら、アトラスがいた。リオを見るなり飛びつき、ひたすら愚痴り続けている。服を脱ぎ身体を洗っている間もずっと。
アトラスによると、ビクターに捕まった後、説教をされたそうだ。
「初めて会った時から、おまえは何一つ成長していない。ここの規律が|緩《ゆる》いのではないか。領主は怖い顔の割に威厳が足りぬのではないか。俺の所に来い。鍛えて直してやる」と。アトラスは「これから頑張ります。大丈夫です。お気遣い感謝します」と震えながら声を絞り出したと涙目で語った。
リオは「ふーん」と頷きながら、腹が立ってきた。
あの人さぁ、ギデオンの悪口言ってない?威厳が足りないだって?そんな訳あるか!ギデオンほど立派な騎士を見たことがない。領主としても立派だ。アトラスが頼りないのはアトラス本人の問題だ。ギデオンのことをよく知りもしないでひどいことを言って!今度会ったら文句を言ってやる!
リオが怒りに任せて腕をこすっていると、アトラスが顔を覗き込んできた。
「なあ、聞いてる?」
「聞いてるよ。アトラスも言い返しなよ。ギデオンは威厳あるし立派だから」
「そこは俺もカチンときたけどさ、あの人、ギデオン様とは違う怖さがあるんだよ。それに覗いてた理由を言わされて、すごく怖かった…斬られるかと思った…」
アトラスが、すずっと鼻をすする。泣いてるのか湯なのかわからないけど、両手で顔を拭っている。
いや、もっとしっかりしろよ!王城勤めとはいえ、同じ騎士なんだから!
そう言いたかったけど耐えた。
アトラスはすごく優しいのだ。だから強い態度がとれないのだ。たぶん。
リオは頭から湯をかけて泡を洗い流すと、湯船に向かう。
アトラスも急いで湯をかぶり、リオと一緒に湯船につかる。
「はあ…気持ちいい。ここの浴場は人が少なくていいよね」
「皆が使う所より狭いし、城の端にあるからな。俺はアンを連れて入ることがあるからここを使ってるけど、アトラスは広い方に行けばいいのに」
「俺も気兼ねなく入れる方がいいよ。ところでアンは?」
「腹がいっぱいになって寝てる。たくさん寝て大きくなってもらいたい」
「そうだね。心配しなくても、ある日突然すごく大きくなるよ。リオを背中に乗せれるくらいに」
「ふふっ、そうなったらいいな」
「あ、そうそう。それでさ、覗いてた理由を話した流れで、ビクター殿がなぜギデオン様のことが嫌いなのかを聞いたんだよ」
「なんだったの?」
「それがさ…」
「楽しそうだな」
いきなり頭上から声が降りてきて、リオとアトラスは同時に跳ねた。