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言葉遣い天才的ですね👀 難しい言葉大大大好きなんですよ... こんな小説書きたいなぁと感じながらボキャブラリーもないので主様の小説を拝見して満たすんですけど... もっと本を読めば素敵な小説書けたりするんですかね...辞書引いてきます📚
私も心がほっこりして、泣きそうです🥹 素敵なお話ありがとうございます! 続き、楽しみにしてます✨
心がすっごく温まりました! ありがとうございます🙏🏻
いつだって貴方は優しい
それは僕にだけ特別なんじゃなくて
貴方はみんなに等しく優しい
僕は貴方の優しさにいつも甘えてしまうけれど
時々どうしようもなく寂しいんだ
僕が貴方にだからみせる態度、表情、……弱さ
でも貴方は僕以外の誰かでも、誰でも、受け止めてみせるのだろう
それがどうしようもなく苦しいんだ
僕にとって「貴方」は特別なのだと
付した記号の意味に貴方は気づいてくれるかな
ライブ前の打ち合わせを終え、控え室に戻ってくるなり元貴に
「涼ちゃん、昨日あんま寝てないでしょ」
と言い当てられ、思わず返す言葉に詰まる。
「顔色悪いよね、俺も気になってた」
若井にまで言われてしまい、いよいよ何も言えなくなってしまう。幸いリハまではまだ少し時間がある。二人にやんややんやと言い負かされて、促されるままに仮眠をとることにした。最近は3人ともハードスケジュールの合間をぬって短い休憩時間に仮眠をとることも珍しくなく、ライブの際も会場によって可能な場合は大体控え室とは別に仮眠室として一室押さえてもらってあるのが常となっていた。心配性の僕はリハの前も大体演奏の確認をしていることが多いが、今日はイヤホンと毛布だけ手にし、仮眠室へと向かった。
なるべく静かな環境となるように配慮されており、メンバーの控え室やスタッフの動線からは外れた、少し遠めの角部屋となっている。普段はパフォーマーの控え室として使用されている部屋の1つであるそこは、中でも特にコンパクトな方で、畳敷きで部屋の中央には机が1つ置かれているだけのシンプルなものだ。部屋の隅に積まれていた座布団を数枚、適当に並べて横になると、どこか懐かしい畳のい草の香りに自然と身体の力が抜けていく。昨夜歌詞について考えていたために眠れず、寝不足なのは確かでも眠気はなかった。二人に言われた手前、下手に心配をかけるにもいかず形だけでもと仮眠室に来たのだが、自覚がなかっただけで身体は限界を迎えていたらしい。目を閉じると身体が急に鉛のように重くなり、指の隙間から零れ落ちる砂のようにするすると意識は遠のいていった。
どのくらいの時間が経ったのだろうか。ぱたん、と軽くドアが閉まる音がしたが、膜を隔てているか、水の中にいるかのように遠くに聞こえる。誰かが起こしに来てくれたのかもしれない、起きなきゃ、と頭の中では考えが働くが、身体は全く動かない。瞼も重いままだ。するりと誰かの手が僕の前髪をかきあげる。温かな指先が瞼に触れ、頬をすべり、唇に触れてゆっくりとなぞられる。少しだけくすぐったいが、不思議と嫌な気分はしない。むしろ触れられていることに安心するような、離れないでほしいような。さらけ出された額に、指先とは違う柔らかく温かいものが触れた。ふと鼻腔をくすぐる香水の甘い匂いは慣れ親しんだ大好きな人のそれだった。どうやらこれは夢らしい。
「元貴……」
夢うつつの中で口に出した言葉は、現実の世界でも形を持ったらしい。額に触れていたそれがぱっと遠のいたかと思うと、がたん、と机に何かがぶつかった音がして、僕の意識は一気に現実の世界に引き戻された。はっと目を開くと、机を背に尻もちをついたような姿勢で、こちらを驚いたようにみる元貴と目が合う。
「え……?」
突然のことに状況がうまく呑み込めない。ここに元貴がいるということはさっきまで触れていた体温は現実ということだろうか。
「い、いつから」
元貴が憔悴しきった様子で、息を吐き出すように声を出す。
「いつから起きてたの」
「え?い、いま」
瞳に一瞬だけ安堵の色が浮かび、それから何か適切な言葉を探しているように逡巡する。その様子になぜか僕は焦りのようなものを覚えた。だめだ。待って。元貴が何か言葉を見つける前に、言わなきゃ。なんで?だって、そうじゃないと、僕はまた彼の真意を確かめるチャンスを失ってしまう。でも何を。
「元貴」
頭で考えるよりも先に口から言葉がこぼれた。元貴の瞳に宿るかすかな怯えの色。そこに昨日までの自分の姿が重なって見えた。貴方の心が分からなくて怯えていた僕。気持ちが伝わったときにどんな反応が返ってくるかがどうしようもなく怖かった僕。
「あのね、僕は」
寝起きのせいか、緊張のせいか、喉の渇きのために声が掠れる。
「誰かの求めに応じて動くことは誰に対してもできるけど、後先考えず駆け寄って自分にできることを探してしまうのは元貴にだけなんだよ」
はっと小さく息を吞み、元貴が目を瞠る。
「涼ちゃん……」
小さく呟いたのと同時に、ぽろりと大粒の涙が一粒、彼の瞳からこぼれ落ちた。
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いつもあたたかなコメントありがとうございますー!
次回本編は最終回になります。