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祐誠さんのマンションの部屋の前――とうとう来た。
インターフォンを押して、数秒待つ。
「いらっしゃい」
ドアが開いて、祐誠さんが現れた。
何ヶ月も何年も会ってないわけじゃないのに……
「やっと会えた……」って思った。
「お、お邪魔します」
またロボットみたいにガチガチになってる。
リラックスしなきゃ。
久しぶりに部屋の中に入ると、祐誠さんは笑顔で私にソファに座るように言った。
クロワッサンを渡すと、それを取り出して、
「一緒に食べよう」
って、お皿にのせて出してくれた。
ロイヤルミルクティーも2人分いれて、祐誠さんは私の焼いたパンを食べ始めた。
「いいね。こんなに美味しいクロワッサンは、ニューヨークにはなかった」
「ニューヨークでもパンを?」
「朝食だったり、ブランチで頼んだりしてた。でも、これを超えるのは無かった。このクロワッサンが美味しいのは、きっと雫の心がこもってるからだな」
祐誠さんは、また1口、イチゴジャムをつけて食べた。
私の心がこもってる……
そんな風に言ってもらえるの、本当に嬉しい。
だって、いつも「美味しくなりますように」って……願いながら作ってるから。
それを感じてくれてすごく幸せだった。
軽い食事を終えて、祐誠さんはワインを出してきた。
「ニューヨークのお土産」
「そうなんですか。嬉しいです、ありがとうございます」
慣れた手付きでグラスに注ぐ。
透き通った綺麗な赤……
「乾杯しよう。イベントの大成功と海外ブランドの立ち上げに……」
「は、はい」
私、ワイングラスを持つ手がかすかに震えてしまってる。
でも……
肩が触れそうなくらい、こんな近くに祐誠さんがいたら、それは仕方のないこと。
「そして……今日、雫に会えたことに乾杯」
こんなセリフ、映画でしか聞いたことがない。
きっと、祐誠さんだから様になるんだろう。
全くイヤミなくサラッと言うところ、すごくカッコいい。
私は、止めることができない胸の高鳴りを隠すのに必死だった。
祐誠さんが1口飲むと、その美しい「赤」がグラスの中で少し揺れて……
ただワインを口にしただけなのに、ゴクリという喉を過ぎる音でさえも、私には艶めかしく聞こえた。
ワインのせいでほんの少しだけ濡れた唇も、何もかもにドキドキしてしまって。
祐誠さんが持つ男性としての魅力を、これでもかというくらい……感じずにはいられなかった。
嘘みたいに強くなる鼓動を早く止めなければと焦る。
もう1口、ワインを飲む祐誠さんの横顔……
奇跡のような端麗な顔立ち。
伏し目がちに下を向いた時の美しさに身震いした。
本当に実在する人物なのか、一瞬疑いたくなる程、何度見ても彫刻や絵画のように錯覚する。
ワインをテーブルに置く腕と手、指先。
祐誠さんの全てが素敵過ぎて……
その上、香水の香りまでが、私の心をどこまでも高揚させた。