テラーノベル
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「よっしゃあー!」 手を握り締め心の叫びを放ち、勢いよく立ち上がる。
……気温が上がり、日に日にむさ苦しくなる教室で。
七月上旬。期末テストが終わったものの就職や受験に、ピリピリとし出す高校最後の夏。五限目が終わり、帰りのショートホームルームの待ち時間。ほどほどにザワつく部屋の中で響いた歓声。当然だが全員がギョッとし、俺をまじまじと見つめてきた。
「……悪いっ」
前の俺ならそんな言葉まず出てこないし、こっち見るなと言いたげな目でガンを飛ばすが、そんなことはしない。
ただスマホに映し出されている名前を見つめる。西条寺 華、その名前を。
「藤城くん、大丈夫?」
その声にサッとスマホを裏向け、顔を上げる。
目の前には内藤。以前より吉永未来に気があったコイツは、当然ながらあいつが居なくなった時に落ち込んでいた。
一応籍は置いてあり二年生として名前はあるが、一度も登校出来ていない現状。あいつの母親は、同級生が卒業する時に退学手続きをするつもりだと話していた。
卒業は残念ながら叶わない。そう言葉を詰まらせていた。
こいつはそんなことも知らずに、あいつが帰って来ることを待っている。本当に小説に出てきそうなぐらいに、一途な奴だ。
「いや……。悪いっ、本当になんでもねーから」
「そう? 何かあったら言ってよね?」
俺のような奴にも、わて隔てしないアイツ。
性格が良すぎて、俺にとっては眩しい存在。
誰に聞いてもアイツは優等生で穏やかで優しく、気遣いの出来るいい奴。俺とは正反対の。
……俺がやっていることは、ある意味抜け駆けだよな? アイツの気持ちが分かるこそ、何とも言えない罪悪感が襲ってくる。
「はぁ、はぁ、はぁ」
すぐにあいつの元に駆けつけたい気持ちをグッと堪えて、帰りのショートホールルームまでしっかり出席した。あいつと約束したんだ。
受験するということは、学校での生活態度も改めるこということ。しっかり授業に出席して勉強し、先生の話を聞いて必要な情報を得て書類を出し、自分で責任持って動かなければいけないということ。
だから俺は、真夏の空下を走っている。一刻も早く、あいつに会いたくて。
「おい!」
気付けば病室まできていて、感情のままドアをガラガラと開けていた。……つまり、ノックを忘れて。
「きゃあっ!」
顔を合わせた瞬間、布団にガパッと被るこいつ。
「悪い!」
ドアをバンっと閉め病室より離れ、窓からの景色を見上げる。
……髪、なかった。眉毛も。
ドクンドクンと鳴る心臓を、ひたすらに抑えた。
「ごめんね、もう大丈夫だから」
窓より見える白浜の海を眺めている俺に、こいつは病室より声をかけてきた。
「……ああ」
俺はこいつの顔を見ることが出来ずに、逸らしてしまう。いつもは帽子を被っているが、今は夏。一人の時は、暑くて脱いでいるのだろう。
それにマスクもせずにこいつに接近するなんて、何を考えているんだ俺は。バカヤロウ。
だからこそ。
「……悪かった」
心から、そう呟いていた。
「ううん。普通は気遣わなくていいことだから、ごめんね。……でも女性の部屋はノックしないとだめだよ?」
ムスッとした表情を浮かべる、こいつに。
「言い返す言葉もねぇな……。全く、その通りです」
頭をわしゃわしゃ、掻いてしまう。
「……他の子にやっちゃだめだよ?」
スッと背中を向けるその姿に。「やらねーよ! んな相手いねーし!」と、語尾を強めて全力で否定する。
「そ、それより見たか? 一次選考?」
「え、うそ! 出たの!」
「ああ、確認してみろよ」
こいつはパソコンを立ち上げ、名前を一つずつ確認していく。
「あった、私の名前!」
パソコンを食い入るように見たこいつは、両手を口にやっていた。
「千作品以上のエントリーから、一次通過は百二十一作品。通過率約一割、よくやったな」
「……うん」
通過者の名前を見つめたこいつは、小さく頷く。
こいつの考えは分かっている。
共に名前を残している通過者が、強者だという現実だ。
プロ作家の名前、他の文学賞で最終まで通過した作品、複数の作品を一次選考に残した作家も居る。そこから這い上がらないと、受賞は叶わない。それが、書籍化作家になることなのだろう。
果てしなく遠く、誰でも叶えることのできるわけもない、選ばれしき者のみが辿り着く栄光。
彼女はそんな茨の道を、突き進んでいかなければならない。
「しっかしよ、別に俺には気を使わなくて良いんじゃねー?」
暑そうな帽子としっかり描かれた眉に、思わずそう声を漏らす。
「え、やだよ。本当はファンデとかも塗りたいぐらいだしー。禁止だけど……」
「はあ? 別に、どーでもいいだろ?」
「もー。分かってないな」
ぶすっとした表情が、マスク越しでも伝わってくる。
何怒ってんだ? 化粧するにも体力いるだろうに?
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