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「瀬戸!」
昼休憩。
廊下を歩く瀬戸の背中を見つけて、雪乃は駆け寄る。
「草凪さん」
瀬戸は雪乃に気付き立ち止まる。
「今から風紀室?」
「そうだよ。何だか久しぶりに会う気がするね」
最近雪乃はお昼も美希と一緒だし、風紀室に行くことが少なくなっていた。
「私に会えなくて寂しい?」
雪乃は少し意地悪気な表情で瀬戸に聞く。
瀬戸は、そんな表情も出来るようになったのか、と微笑みながら答えた。
「僕は大丈夫だよ。それより最近立花さんと仲良くしてるみたいで良かった」
まるで模範解答。
面白くない、と雪乃はいじける。
「何その親目線」
「はは。ごめんごめん。それより、その子どうしたの?」
瀬戸は雪乃が抱えていたニャオハに視線を移す。
「あぁ。拾った」
「拾った…?」
「うん」
「じゃあ草凪さんの新たな仲間ってこと?」
「…うん。そうだね」
雪乃は答えながらニャオハを見下ろした。
ニャオハも視線を感じたのか、こちらを見上げる。
そんな会話をしていると、2年生と思しき男子生徒が2人、こちらに近付いてきた。
「あれー?草凪さんじゃーん」
「これが噂の草凪妹?」
一気に警戒心を高める雪乃。
ニャオハもそれを感じ取っていた。
「実物めっちゃ可愛いじゃん!」
「なぁなぁ、今から俺らと飯食わねぇ?」
男子生徒の1人がチラリと瀬戸を見る。
「そんなヒョロい奴ほっといてさ」
「もしかして彼氏?」
「んなわけねーだろ」
ギャハハ!と下品に笑いながら、1人が瀬戸に手を伸ばす。
「ほら、おめーはどっか行けよ」
そう言って押しのけようとした手を、雪乃は見逃さなかった。
ガッ!とそいつの腕を掴み、力を込める。
「気安く触るな」
男子生徒を鋭く睨みつけながら、ググググッと握る手に力を込めていく。
「い、いでででででッ!!!何しやがるッ!!!」
男子生徒は雪乃の手を振り払い、後ずさった。
「シャァァァ!!」
ニャオハも続いて2人を威嚇する。
「まさかこんな怪力女だとはな!」
「いこーぜ」
捨て台詞を吐いて、男子生徒2人は逃げていった。
「ごめん、瀬戸。私のせいで絡まれて」
申し訳なさそうに眉を下げる雪乃に、瀬戸は首を振る。
「謝らないで。草凪さんのせいじゃないよ。むしろ庇ってくれてありがとう」
でも、と瀬戸は続ける。
「僕なんかのために、そんな怖い顔しないで」
そう言っていつものように優しく微笑むが、雪乃はそれが引っ掛かった。
「『僕なんかのために』って何、そんなこと言わないでよ」
そんな風に笑わないでよ。
「私は瀬戸のためだったら、鬼にでもなれるよ」
真っ直ぐな視線には、幾つもの感情が混ざり合う。
瀬戸はそんな視線を受け、「ごめん」と謝る。
「僕の言い方が良くなかった。ありがとう、気付かせてくれて」
反省したように微笑む瀬戸に、雪乃は頷く。
「まぁ、思い合う気持ちは同じってことだね」
「何それ」
「ふふ、何でもないよ。ね、ニャオハ」
瀬戸がニャオハに指先を近付ける。
雪乃はハッとし、咄嗟に後退る。
「この子、警戒心強いから…噛まれるかも」
「そうなの?でも…」
瀬戸は迷わず指を近付ける。
雪乃はハラハラしながら見守る。
「ニャオ」
ニャオハはその指を受け入れ、クンクンと匂いを嗅いだ後、前足を指先に乗せた。
「ほら、大丈夫だった」
「どうして分かったの?」
さっきの男子生徒たちにはあんなに警戒していたのに。
「だって僕には敵意がないから。草凪さんに対して」
「私に?」
「そう。この子はキミの感情を常に感じとっているんだよ」
なるほど、と雪乃はニャオハを見つめた。
「キミが怒れば、この子も怒るし、キミが笑えば、この子も落ち着く」
確かに、家族にも美希にも威嚇したりはしなかった。
「きっと草凪さんのことが大好きなんだね」
ね?ニャオハ、と笑って前足の乗った指先を動かす瀬戸。
そんな瀬戸を、雪乃は見つめる。
「…ねぇ、瀬戸」
「ん?」
「…私に会えなくて寂しい?」
同じ質問をする。
すると瀬戸は困ったように笑って、
「そうだね。少し寂しい」
と答えた。
「…今日は一緒に食べようね」
雪乃は満足気に、そして嬉しそうに微笑む。
ニャオハもリラックスしたように、ふわりと欠伸をした。