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10 - 破損なんかじゃ済ませない

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2023年12月29日

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自分達の距離感なんて分かってる。

遠からず、近すぎず、なんてことはね。

距離なんて簡単に調整できるものだから。自分が離れたり近づいたりを繰り返して、適切な距離が見つかる。

それがベストな距離なんだ。

そうやって、何日も、何年も作り上げた距離を壊してみたいと、初めて今日思った。

貴方はどう、思ってるの?


ーーー

朝目覚めると隣で寝ている彼。ソファとカーペットの上には実況を撮っていた残りの二人。

俺は心底驚いた。

何で、隣に。

「れ、レトさん」

「んぅ……」

狭くも広くもない自分のベットに身長がまあまあある男二人が寝ているのは普通に考えておかしい。 さらりと髪の染め過ぎで少し傷んだ髪の毛が俺の手の甲にかかる。

昨日、何かしたか?ゲームをしてご飯を食べに行って、次の日休みだからって泊まって。

二人はカーペット、一人はソファ、俺はベットと決めてちゃんと寝たはずだ。

とりあえず、コイツを起こさないことには何も変わらないということだけは分かったのでゆさゆさと体を揺らす。

「なにぃ………」

「…あ、起きた」

声はガラガラで聞き取りにくい。目を覆いながらその人は目を覚ました。

「なんでここで寝てたの?」

「………は…?」

予想外だったのか、彼は目と口を大きく開いた。チュンチュンと雀の鳴いてる声が聞こえるほどだ。

「覚えてないん?」

「…え?何を…??」

「………うっしぃ〜〜!」

大声を出し、まだ毛布に包まっていたうっしーに駆け寄る。ソファで寝ているメガネはまだ寝るつもりだろう。

カーテンから漏れる光に顔をしかめながらうっしーは迷惑そうに小さな声を出した。

「…なに」

「昨日の俺、覚えてるよね!」

「んぇ?……あぁ、うん」

「ほらぁ!」

ほらと言われても知らないものは知らないからなんとも言えない。レトさんはうっしーの手を握りしめて感謝の言葉を述べている。握られている方は相変わらずヘラヘラしているようだ。

「……で、なんで」

「…俺が言えるところまでなら言うけどぉ」

「いけ!うっしー!!」

ーーー

「まぁ、夜寝てたらレトルトさんがいなくなってて、帰ってこなかったっていう」

「簡単にしすぎ!!!」

「んえぇ〜………あの面白いこと言っちゃう?」

「こっちは大変だったんだからな」

「いやあれはおもろいから」

「もうそれでいいから、早く!」

「うへぇ……」

淡々と繰り返されるいつもの光景な筈なのに、ずっとなにか引っかかってしまう。その原因にふと目を向けると口に出すつもりなんてなかった言葉が出る。

「………とりあえず手、離したら?」

何を焦っているんだろう。男同士が手繋ぐなんてどうでもいいはずなのに。

少し、頭がモヤつく。どうでもいい。

二人は手を話したあと、うっしーがニヤつきながら話し始める。

「あー…レトルトさんがね『うっしー!』って叫んでて紙でもねぇのかなって優しい俺は見に行ってあげたんですよ。」

「そんな叫んでたら俺も気づくくない?」

「いやいや、ちっちゃかった。隣でソファの脚に頭ぶつけてた音で俺起きたから、うん。」

「………はーん…」

「そんで、キヨが…レトルトさんの手握ってたんだよ…ふっ…はっ、」

「……どんだけ馬鹿力なんだよお前」

「…は?」

「…お前が手、離さなかったんだろうが」

「…ん?……それはつまりレトさんが隣で寝てたのは…」

「お前のせい」

「俺のせい」

「はぁっはっはっはー!」

「うっしー!」

意味が本当にわからない。これ、あれだ。自分が知らぬ間に犯人になっているやつだ。

ぽかんと口を開けたままその二人を見つめる。楽しそうな、困ったような、二人の間ではやわらかい雰囲気が流れている。ここで自分が会話に入るのも野暮だと思い、「ごめん」と今までの会話に戻す。

「…まぁ…べつにいいよ」

「…うん」

気まずい空気のままその朝は幕を閉じた。


ーーー

「トイレ借りてから帰っていい?」

「いいよ」

「この前のケーブルどこやった?」

「あー…あっちの部屋。持ってくる。」

「いいよ。大体場所分かるし」

「え…うん」

バタリと両方の戸の音がなる。しんと静まり返った二人の空間は少しだけ気まずいものがあった。まあ、一方的に俺だけがもやもやしてるだけなんだけど。

「…もう忘れて。思い出さんといて」

「え…?そんなに嫌だった?」

「いやっ…んー…あー…うん」

「ひっどぉ」

あーそうかいそうかいとでも言い返してやりたかったが思うように口は動かなかった。多分、怖かったんだろう。

「キヨくーん、トイレありがとってうわっ?!」

「ちょっ?!」

カーペットの上にあるコンセントに盛大に足を引っ掛けてメガネ野郎が転けそうになる。そのとき反射的に俺はレトさんの手を引っ張っていた。少し冷たくて形がきれいな手。強く握ったせいでほんのり赤くなっている。

「大丈夫?」

「あぇ…………あ、うん」

「ごめんねレトさん!」

「ホントだよ危ねぇなぁ」

「あたり強っ」

あ、まただこの感じ。俺を見ないようにしている感じ。そんなに嫌だった?ねぇ、教えてよ。

「れ」

「あったわ…あ」

「…よかった」

そんな俺の勇気も虚しく、簡単に散ってしまった。目を細めて小馬鹿にした言葉を放って、空いた手ではいじいじと手遊びをしている。

彼は俺によく見られていることを知らない。

「…なんだよ」

誰にも聞こえない独り言を囁き、帰っていく彼らの背中を見送った。

そう思っていたのにガタッとドアに思い切りぶつかる音が聞こえた。

「キヨくん」

「ど、どうしたの」

「これ、いこ」

ずいっと手を出されたブルーライトが眩しい。恐る恐る目を開けるとそこには俺達で共通しているもののイベント開催の文字がデカデカと記されていた。

「…うん、行く」

「ん」

「てか、レトさんからって珍しくない?というか俺らが誘い合うのが珍しいのか。」

「今回は一人じゃ無理。これ二人からしか行けないらしいから」

「ふーん…そ」

「じゃ」

ぱたぱたと二人の方へ駆けていく姿は年上のはずなのに子供っぽくて少し呆れてしまった。

「…」

心の中でよし、と手を握ってしまうのは何故だろう。

「………」

俺が、一番初めに選ばれたのを頭いっぱいに埋め尽くしてしまうのは、

「…………っはぁ……」

表情筋が緩くなってしまうのはどうしてなのかな。




ーーー

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