中学最後の卒業式のとき、
1個年下の後輩から呼び出された。
「あの、僕からなんですけど…」
差し出された手紙は、見るからに憧れていた
“ラブレター”そのもので。
少し緊張している様子の後輩が愛おしくなってしまうほどに、私はその雰囲気によっていたんだと思う。
クラスメイトからの
「告白イベじゃん!絶対行くしかないっしょ!」という確定演出も受けていたし、 正直体育館裏に呼び出す目的は”あれ”しかない。
(そんなもじもじしちゃうなんて、よっぽど私のことが好きってこと?…告白されたらどうしようかな、付き合っちゃってもありじゃんね?)
…確実に、告白だと思っていたのに。
「これ、春咲ことね先輩に渡してくれませんか!」
(…え、)
「私のこと、好きじゃないの?」
「?」
「…あ、うんん。何でもないよ」
戸惑う私をよそに、名も知らない後輩はさらに私の親友について沢山喋り始める。
「ことね先輩は本当にすごいんですよ!
僕はもう、昨年の運動会で一目惚れしちゃって…鈍くさいのに頑張る姿が最高でした!!」
「ことね先輩の親友の…えっと、」
「あ、朱璃です」
「朱璃先輩はいつもことね先輩といるので、良ければ話すついでにラブレターを渡してくほしいんです…! 良ければ僕が一目惚れした話もしてくれると、助かります」
以外と沢山喋る後輩をよそに、もはや名前すらも覚えられてなかった衝撃で私は硬直していた。
本当は、ついに私にもモテ期が来たかと腹を括っていたのだ。
親友のことねだけモテる時代は終わったのだと、私もこれから皆に「羨ましい」と言われるくらいにはモテて、ちやほやされまくるんだと思った。思ってしまった。
ちょっと前髪を整えてからきたり、普段はしないことをするようになって、ついに私も1人前の乙女だと鏡の前で微笑んだのに!
「…ラブレター、渡しておくよ」
「本当ですか!?」
「でも、渡すだけだからね?返事の保証はしないし返ってくるかも分からないから。」
「全然大丈夫です!ありがとうございます…!」
少しキツめに返事はないかもしれないと言っても、キラキラと目を輝かせてくるので、もはや眩しくみえてきた。
元気いっぱいに手を降る後輩を可愛いなぁ、と思いながら、私は諦めの境地に1歩足を踏み入れている。
「…あぁ、モテたいなぁ…」
ため息とほぼ同時にその言葉は、 紛れもない本心だった。
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