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誰も知らない、高嶺の花の裏側2
第66話 〚遅れて届く未来〛(澪視点)
その日は、本当に普通の一日だった。
授業も、休み時間も、放課後も。
誰かが怒鳴ることも、
空気が張りつめることもない。
澪は、それが一番不安だった。
(……何も、起きない)
心臓に意識を向けても、
痛みはない。
ざわつきもない。
「今日も平和だね」
えまが笑う。
「逆に怖い」
しおりが小さく言った。
澪は曖昧に笑って、
ノートを閉じた。
——その時だった。
胸の奥が、
きゅっと締めつけられる。
「……っ」
声にならない息が漏れる。
強い痛みじゃない。
倒れるほどでもない。
でも——
“始まった”と、はっきり分かった。
(遅い……)
今までの予知は、
“前触れ”として来ていた。
なのに今回は、
もう日常が進んだ後に、
後ろから追いつくみたいに。
視界が、揺らぐ。
——断片。
教室の窓。
夕方の光。
誰もいない席。
そして——
恒一の横顔。
笑っていない。
怒ってもいない。
ただ、
何かを「待っている」顔。
(……これ、未来?)
澪は机の端をぎゅっと掴む。
胸が、じわじわと痛む。
心臓が、
「違う」と訴えてくる。
(遅れて来る予知……?)
その瞬間、
映像はふっと消えた。
⸻
「澪?」
海翔の声で、現実に戻る。
「大丈夫?」
「顔、青い」
「……ちょっと、予知」
その一言で、
周りの空気が変わる。
えま、しおり、みさと、りあ、玲央。
全員が、澪を見る。
「今?」
玲央が聞く。
澪は、首を横に振った。
「正確には……」
「“今じゃない未来”が、今来た」
沈黙。
「遅れてる、ってこと?」
みさとが慎重に言う。
澪は頷いた。
「うん」
「前は、危険の前に見えてたのに……」
海翔が、はっきり言った。
「ズレてる」
その言葉が、
全員の胸に落ちる。
予知は、絶対じゃない。
でも——
頼ってきたものだった。
それが、
時間を間違え始めている。
(安心しすぎた?)
ハロウィン。
笑顔。
守られている日常。
その中で、
何かが、澪の力を鈍らせている。
「でも」
澪は顔を上げる。
「完全に見えなくなったわけじゃない」
胸は、まだ教えてくれる。
痛みは、
“違う未来”を拒んでいる。
「だから……」
澪は、息を整えた。
「前より、ちゃんと考える」
予知だけに、頼らない。
海翔は、静かに頷いた。
「それでいい」
「俺たちが、いる」
その言葉に、
澪の胸の痛みは、少しだけ和らいだ。
⸻
その頃。
校舎の外、
恒一は一人で歩いていた。
(……来たか)
澪の“遅れ”を、
まだ知らない。
でも——
何かが変わったことだけは、
確信していた。
未来は、
少しだけズレ始めている。
そしてそのズレは、
誰の味方になるのか。
それは、まだ——
見えていなかった。