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誰も知らない、高嶺の花の裏側2
第67話 〚心臓が拒んだ選択〛(澪視点)
その違和感は、
朝からずっと続いていた。
予知が来そうで、来ない。
来ないのに、胸の奥がざわつく。
(……変)
教室に入っても、
海翔はいつも通り隣にいて、
えま達も普通に話している。
何も、起きていない。
——なのに。
心臓だけが、
ずっと緊張したままだった。
「澪、大丈夫?」
りあが小声で聞く。
「うん……たぶん」
そう答えながら、
澪は自分の胸にそっと手を当てた。
ドクン、ドクン。
少し、速い。
⸻
昼休み。
澪は一人で、
廊下の端を歩いていた。
理由はない。
ただ、じっとしていられなかった。
その時——
視界の端に、恒一が映る。
目が合う。
恒一は、
近づいてこない。
何も言わない。
ただ、
「待っている」ような視線。
(……来る)
そう思った瞬間だった。
——未来が、流れ込もうとする。
いつもの感覚。
視界が狭くなり、
意識が引き込まれる。
(見える……!)
でも。
次の瞬間。
心臓が、
強く痛んだ。
「——っ!」
今までとは違う。
見せようとする未来を、
心臓が——
拒んだ。
(やだ……!)
頭が映像を受け取ろうとするのに、
胸が「違う」と叫ぶ。
(それ、選ばない)
視界が、
ぷつんと途切れた。
未来は、
“見えなかった”。
⸻
澪は、その場にしゃがみ込む。
息が荒い。
胸が、じんじんと痛む。
「澪!?」
駆け寄ってきたのは、海翔だった。
「今……予知?」
玲央の声もする。
澪は、首を横に振った。
「……違う」
その言葉に、全員が固まる。
「見えなかった」
「……私が、止めた」
「止めた?」
えまが聞き返す。
澪は、ゆっくり言葉を探した。
「未来が来ようとした」
「でも……」
「心臓が、嫌だって」
沈黙。
「選ばなかった」
澪は、はっきり言った。
「その未来」
海翔は、澪の肩にそっと手を置く。
「それでいい」
「澪が決めたなら」
その言葉で、
胸の痛みが少しだけ引いた。
⸻
遠くで。
恒一は、立ち止まっていた。
(……見えなかった?)
確信はない。
でも——
何かが、
“予想外”に変わった。
澪は、
未来を見る存在じゃなくなり始めている。
選ぶ存在に。
それは——
恒一の計算に、
初めて入っていなかった要素だった。
⸻
澪は、ゆっくり立ち上がる。
まだ、胸は痛い。
でも——
怖くはなかった。
(私は、もう)
見える未来に、
従うだけじゃない。
心臓が拒んだ道は、
進まなくていい。
澪は初めて、
はっきりと感じていた。
——未来は、
見るものじゃなく、選ぶものだ。
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