pn side
夜の病室はやけに静かで、時計の針の音がやけにうるさく感じた。
消灯後の蛍光灯の残光が、白い壁をぼんやり照らしている。
カーテンの隙間から街灯の光が細く差し込んで、天井の角を淡く縁取っていた。
カルテに向かっている先生の姿が、視界の端に見える。
ペンを止めてこちらを見ている気配がしたけど、目を合わせる勇気が出なかった。
眠れずに天井を見つめる自分の瞳は、どこか遠くに焦点を合わせていた。
rd「眠れない?」
先生の静かな声がした。
それは先日までの冷たく突き放すような声ではなく、俺を気遣い、心配しているような声だった。
俺は首を横に振る。
pn「… いつもこの時間になると、変に目が冴えるんです」
pn「… 考えなくていいことばっか、浮かんで」
自分の声がかすれていた。
先生は何も言わず、机の上のマグカップに目を落とす。
もう冷めたコーヒーの匂いが、淡く漂っていた。
沈黙が長く続いて、呼吸の音さえ気になり始めた。
堪えきれず、口が勝手に動いた。
pn「……先生」
小さく呼ぶと、先生が顔を上げる。
その表情は昨日よりも少し柔らかい気がした。
シーツの上で、自分の手が小刻みに震えているのがわかった。
pn「俺、もう頑張りたくないです」
pn「笑うのも、話すのも、息するのも」
pn「全部、苦しい」
言葉が出た瞬間、胸の奥が少し軽くなったような、でも同時に深く沈んでいくような気がした
きっと、こんなこと言うつもりじゃなかったのに。
先生は黙ったまま、何も言わない。
その沈黙が、優しすぎてつらい。
rd「……死にたい、って思う?」
俺が言い出せなかったことを先生が感じ取って言ってくれた。
それでも先生の声はかすかに震えていた。
俺は俯いて、かすかに笑う。
pn「…ずっと」
pn「…でも、先生の前でだけは、言いたくなかった」
その瞬間、涙が出た。
自分でも理由がわからなかった。
先生の顔を見たら、全部崩れてしまいそうで、目を逸らした。
rdside
その言葉が胸の奥に刺さった。
彼の口からは絶対に聞きたくなかった言葉だった。
俺は椅子を離れ、無意識にベッドのそばへ歩いた。
pn「.. 先生の前だけではちゃんとしたいって、思ってたんです」
pn「… なのに、結局こんなことしか言えなくって ッ 」
ぺいんとの頬を涙が伝って、シーツに落ちていく。
小さく嗚咽を押し殺す姿が痛いほどに見えた。
ぺいんとの鳴き声は聞いたことがあったけど、泣くのを見るのは初めてだった。
俺はそっとその手を握った。
骨折した手に巻かれた包帯が冷たく、あまりにも細い。
rd「生きていてほしい」
今回は逃げなかった。
しっかりとぺいんとの目を見てそういった。
その言葉は医者のそれでも、1人の男のそれでもあった。
rd「俺がぺいんとにしてあげられることなんて、限られてるけど」
rd「… それでも、消えないでほしい」
ぺいんとは唇を噛みしめ、必死に涙をこらえていた。
けれど次の瞬間、抑えていた嗚咽がこぼれた。
pn「…どうして、そんな優しくするんですか」
pn「そんなの、もっと苦しくなるのに」
何も答えなかった。
ただ握った手を離せずにいた。
どんな言葉を選んでも、今は軽く聞こえてしまう気がした。
やがてぺいんとは泣き疲れて、静かに息を整えた。
目を閉じたまま、小さく「ごめんなさい」と呟いた。
俺はそれに何も返さず、そっと手を離した。
何も答えないのが1番良い返事だと思った。
彼の手の微かな温もりが掌に残っていて、どうしようもなく熱い。
ゆっくり立ち上がり、カーテンの隙間から夜の街を見た。
遠くで雨が降っている。
冷たい音が屋根を叩き、誰もいない廊下に反響していた。
息を吐いて、後ろを振り返る。
ぺいんとは穏やかな寝顔で眠っていた。
特別辛そうなわけでも、幸せそうな訳でもなく。
涙の跡がまだ乾かないまま。
この手を、もう少しだけ握っていたかった。
そう思ってしまった瞬間、俺は自分に小さく舌打ちした。
rd「やめろ」
その声は自分に向けたものだった。
ぺいんとにかける声とは180度違った声色に自分でも少し驚いた。
白衣のポケットに手を突っ込み、静かに病室を出る。
ドアの外で一度立ち止まり、掌を見つめた。
まだ、ぺいんとの温もりが残っていたような気がした。
その夜、俺は医務室に戻らず、病棟の屋上へ足を運んだ。
本当は彼と2人で行くまでは行かないでおこうと思っていたけど。
先程まで降っていた雨は止んでいて雨上がりの匂いが強く香る。
夜風が髪を乱す。
初めて見るこの病院の屋上からの景色。
それは眼下の街の灯が滲んで見えた。
患者の涙でこんなにも動揺していた自分に気づく。
それが“感情移入”ではなく、“恋”に近いものだと、薄々感じていた。
だが、その言葉を認めることだけは、しなかった。
医者と患者の線を、越えてはいけない。
その自覚が、冷たく胸に沈んでいった。
コメント
3件
うわっ!最新話ありがとうございます!(´▽`)マジでこのお話好きすぎます!好きなお話ランキング1位ですマジで!!新しいお話待ってます!頑張ってください!!PS ♡2000にしたよ
好きすぎます;; 次が楽しみすぎる…!! > <

好きですありがとうございます生き甲斐です!!!!!! コメント失礼します!