pnside
眠れなかった。
瞼を閉じても、先生の声が頭の奥で反響する。
「生きてほしい」
その言葉が何度も反芻されて、息をするたび胸が痛くなる。
病室の白が、やけに眩しかった。
蛍光灯の残光が壁に溶けて、夜の影をぼかしていた。
静けさの中で、時計の針がやけに大きく響く。
そのたびに、俺がまだ生きてることを思い知らされる。
デスクの明かりの下で先生が書類に目を通していた。
けど、手は止まったままだった。
何度か深く息をついて、視線を落としている。
その背中を見るのが、少し怖かった。
優しさが、俺を追い詰めていく気がした。
pn「……先生」
自分でも驚くほど小さな声だった。
先生が顔を上げて、柔らかく笑う。
その笑顔を見るだけで、少し息が詰まる。
rd「起きてたんだ」
pn「寝ようとしたけど、眠れなくて」
rd「また考えごと?」
pn「たぶん、そうですね」
苦笑いをすると、先生もそれに合わせて笑った
それだけで、安心したように見えた。
けど俺の中では、波が立っていた。
不安の底にいるのに、笑顔だけが浮かんでいる。
pn「でも … もう平気です」
そう言うと、先生の表情が少しだけ緩んだ。
その顔が、好きだった。
でも、同時に怖かった。
俺が平気そうにしている限り、先生は安心してしまう。
その安心の中で、俺の本音はゆっくりと沈んでいく。
pn「明日には元気になれそうです」
rd「そっか、それならよかった」
そう言って、先生は小さく息をついた。
肩の力を抜いたように見えて、心が少し痛んだ
俺が嘘をついて、救ってるみたいで。
ほんとは、俺が1番救われたいのに。
pn「……ありがとう、先生」
rd「何もしてないよ」
pn「してくれてます」
rd「… そう言ってもらえると嬉しいね」
そのやり取りがやけに静かで。
穏やかな夜の音のように、途切れず続いた。
けど、俺の中でだけ違う音が鳴ってた。
ざらざらとしたノイズのかかった音。
沈んでいく心臓の鼓動みたいに重たく響いてた。
rdside
ぺいんとの顔に、久しぶりに笑みが戻っていた。
それだけで、胸の奥の重さが少し軽くなった気がした。
「明日には元気になれそう」
そう言われて、心の中に灯りが灯るみたいだった。
ここまで来るのに、どれだけ時間がかかっただろう。
少しずつ、彼の言葉に“生”の色が戻ってきたような気がしていた。
デスクに置いたペンを握り直す。
「焦らなくていい」なんて言葉を、ようやく自分でも信じられる気がした。
彼が微笑んでくれただけで、それで十分だった。
rd「今日は眠れそう?」
pn「うん、さっきよりは」
その答えに小さく頷いて、俺も笑った。
静かな夜だった。
白いカーテンが風に揺れて、街灯の光がわずかに揺れてる。
その光の中に、彼の横顔があった。
少しやつれてはいるけど、ちゃんと息をして、ちゃんと笑っていた。
それが嬉しかった。
もう大丈夫かもしれない、そんな錯覚さえしていた。
“もしまた死にたくなったら”
そう言った彼が、今は穏やかな顔で笑ってる。
それだけで、救われたような気がした。
ぺいんとは俺の方を見て、ゆっくりと言った。
pn「先生って、優しいですね」
rd「そうかな」
pn「はい。…だから、安心する」
その言葉に、何かが崩れた。
どうしようもなく心が揺れた。
こんな時間に、二人きりで。
こんな言葉を言われたら、理性なんて簡単にほどけてしまう。
伸ばしかけた手を、寸前で止める。
“越えてはいけない”
その線が頭にちらつく。
ぺいんとは気づいていないように、静かに目を閉じた。
まつ毛の影が頬に落ちる。
呼吸がゆっくりと整っていく音がした。
… このまま、触れたら壊れる。
そう思って、息を飲む。
手を握りたかった。
抱きしめてやりたかった。
だけど、俺がそれをした瞬間に、医者としても人としても何かが終わる気がした。
だからただ、見ていた。
眠っている彼の肩越しに。
夜の向こうに広がる闇を。
“ああ、やっと少しだけ笑ってくれた”
その安堵が胸を満たしていた。
pnside
目を閉じていたけど、眠ってなんかいなかった。
眠れなかった。
けれど先生がまだそこにいる気配を感じて瞼は開けられなかった。
自分の言葉が、先生を安心させたのが分かった。
それが嬉しくもあり、苦しかった。
“俺はもう平気”
“明日は元気になれそう”
そんなの、全部嘘なのに。
でも、先生が安心した顔をしてくれたから それで、それだけでいいと思った。
この人の心を軽くできたなら、それで。
俺の不安なんか、いらない。
けど、目を閉じていると心臓が静かに沈んでいく。
鼓動が水底に落ちていくみたいに、どんどん遠くなる。
目の裏に浮かぶのは、先生の笑顔だった。
その笑顔を壊したくない。
だから、本音は言わない。
言わないまま、沈んでいく。
“優しい嘘”
それでいい。
それでいいはずなのに、涙が出そうになった。
“俺、もう少しだけ頑張ってみます”
さっきのその言葉が、頭の中で繰り返されて。
まるで自分が誰かの真似をしてるみたいに感じた。
もう少しって、どれくらい?
今日だけかもしれない。
明日かもしれない。
もしかしたら…今夜が終わるまでかもしれない。
そんな不安が波のように押し寄せてきて、
それでも笑顔だけは崩さなかった。
先生の足音が廊下に遠ざかっていく。
扉が静かに閉まる音を聞きながら。
俺は初めて、声を出さずに泣いた。
静かな夜の中で、誰にも気づかれないまま。
???
その夜、誰かは“救えた”と思っていた。
でも同じ夜、誰かは“終わりに近づいてる”と思っていた。
二人の間にある静寂は、優しくて、冷たかった。
コメント
3件
うわぁぁぁぁ最高すぎるっ!!先生との距離感も儚くて切ない、、、、!! ♡2000目指して連打してます✨

???って誰だ… 素敵なお話楽しみにしてます! コメント失礼しました!