テラーノベル
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「パパ、行ってきます……! 三日間、ちゃんとご飯食べてね?」
「おう、心配せんでも大丈夫や」
大きなリュックを背負ったひまりが、観光バスに乗り込んでいく。
塾の夏期合宿
親元を離れ、勉強漬けになる三日間や。
俺は手を振りながら、精一杯の「親父の顔」を作っとった。
バスが見えなくなるまで見送り、俺は事務所へと戻った。……が、そこからが地獄の始まりやった。
事務所に戻るなり、俺はソファにどっかりと腰を下ろし、一点を見つめたまま動かんようになった。
自身から漏れ出る「寂しさ」という名の殺気が、事務所の空気をマイナス40度まで冷やしおる。
「兄貴、お茶入りました……」と声をかけた和幸に対し、俺は眼鏡を光らせて一言。
「……和幸。今、ひまりは何をしとる時間や」
「兄貴、まだ出発して一時間っすよ。中央高速の談合坂あたりでトイレ休憩じゃないっすかね」
俺は時計を五分おきに確認し、ひまりの脱ぎ捨てた靴下を、なぜか神棚の横に供えようとして和幸に止められた。
二日目
俺の「ひまりロス」は極限に達した。
事務所の廊下を走る足音が聞こえた気がして、「ひまり!」と叫んだが、そこにおったんは、怯えきった顔で雑巾がけをしとる長治やった。
「合宿所の周りに変な虫がおらんか確認してくる」と
百キロ以上離れた長野県の合宿所まで車を出そうとし、和幸に鍵を没収された。
「……ひまり、枕が変わると眠れんタチやのに…もし東のガキがまた嫌味言うたら、合宿所ごと買い取って追放したる……」
「兄貴、いい加減にしてください! 自分らまで精神が持たないっすよ!」
◆◇◆◇
そして三日目の夕方
バスが校庭に戻ってきた。
ボロボロになりながらも、一回り成長した顔で降りてきたひまりを見つけた瞬間
俺の「氷河期」は一気に春を迎えた。
「パパ!ただいま!聞いて聞いて、私、テストで2番にいい成績取れたんだよ!」
駆け寄ってくるひまりを、俺は周囲の目も構わず抱き上げた。
「…ほんまかいな!!?よう頑張ったやんけ!えらいでひまり!」
「ふふっ、パパは寂しくなかった?」
「あ、当たり前やろ?一分一秒たりとも寂しくなかったわ」
「えー、パパ、嘘だ!お目々が赤いよ?」
俺はひまりの小さな温もりを噛み締めながら、和幸たちに
「……宴会の準備や。一番ええ肉用意せぇ」と、震える声で命じた。
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