テラーノベル
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「和幸。全国の有名な天満宮、全部回るぞ。…あ、お布施は一千万くらいで足りるか?」
ひまりが机に向かって必死にペンを動かす姿を見とると、俺の「親の情」が暴走を始めた。
自分にできることはもう、栄養のある飯を作ることと、あとは『神仏への圧力』しかないと考えたんや。
「兄貴、一千万もお布施したら、神様も逆に引きますよ! それに、全部回ってたら組の仕事が完全に止まります」
和幸の正論を無視し、俺は一番高い数珠を手に取った。
結局、俺は組員全員を招集し、まずは地元で一番有名な天満宮へと向かった。
黒塗りの車が十数台、神社の参道に並ぶ。
降りてきたのは、全員真っ黒なスーツにサングラスの男たち。参拝客がモーゼの十戒のように割れて道を作る。
拝殿の前で、俺はひまりの受験票のコピーを高く掲げた。
「……神様。うちのひまりをどうか合格させてくれ」
俺は賽銭箱に、お札の束が厚すぎて入らんくらいの封筒を無理やりねじ込み、二礼二拍手一礼。
その柏手の音は、境内にパーンと銃声のごとく響き渡り、鳩が一斉にパニックを起こして飛び去った。
◆◇◆◇
帰り道
俺は社務所にある「合格祈願」を、在庫があるだけ全部買い占めようとした。
「……これ、全部くれ。ひまりのランドセルに、これでもかいうくらい詰め込むんや」
「兄貴、重すぎてひまりお嬢が肩凝りますよ!神様同士が喧嘩するっていう説もありますし!」
結局、厳選した五つの最強のお守りを手に、俺は事務所に戻った。
事務所に帰ると、ひまりが呆れた顔で俺を迎えた。
「パパ、おかえり。……また和幸さんたち連れて、すごいことしてきたんでしょ?」
「……いや。…ただ、神様にちょっとした『挨拶』をしてきただけや。これ、お守りや。筆箱に入れとき」
俺が渡したお守りを、ひまりは愛おしそうに眺めた後、ふふっと笑った。
「ふふっ、ありがとう。でもね、神様にお願いするより、パパに『頑張れ』って言われるほうが、私、百倍元気が湧いてくるよ」
「……っ」
俺は眼鏡を指で押し上げ、必死に動揺を隠した。
一千万のお布施より、一万回の柏手より、あの子のその一言が、ワシの心には一番効く。
「…そ、そうか?なら、神様は解散や。頑張るんやで、ひまり」
「うん!」
「和幸、飯の準備しろ。…今日は験担ぎに、最高級のトンカツや!」
「兄貴……さっきから胃もたれするメニューばっかりっすよ!」
受験シーズン、本番まであとわずか。
神頼みはほどほどに、俺は親父として、ひまりの背中を支える一番の「味方」でおることを心に誓った。
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#シリアス
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