テラーノベル
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吉田:……アイツはいないな
俺は今週も映画館に来た、が、なんでこんなにコソコソしないといけねぇんだよ。でも、俺の至福の時間を掴み取るためだ。なんとか会わないように
隣の客:みーつけたぁ
吉田:うわっ!!!!
俺は背後から突然聞こえた声にビビり散らかしてしまった。平日だけど、お客さんはもちろんいるわけで、周りにいた数少ない人達の視線が突き刺さる。この男もデカすぎる俺の反応に驚いたんだと思う。俺の口を無理やり塞いでペコペコしている。いや、被害者ヅラしてるけどお前のせいだからな??
隣の客:え、そんなにビビらなくても
吉田:…あのなぁ、、
何、ほんと、まじで、コイツ、めっっっちゃ
吉田:ムカつく
隣の客:…え?
俺は精一杯睨みながら伝える
吉田:あの、ハンカチとかはもうどうでもいいんで、俺と映画を観るのだけは辞めてもらってもいいですか?
隣の客:え?なんで、?
吉田:俺、ひとりで観るのが好きなんです。んで勝手に考察して楽しんでるだけなんで、てことで
隣の客:あ、ちょっと待って下さい!
ソイツは俺の腕を掴んできたが、こんな行為は仕事上慣れてる
吉田:…離してください
隣の客:あ、すみません…
吉田:あなた、先週見た映画の主演の方ですよね、?俺、まじでSNSとか見ないから俳優さんとか分からないんですけど、もしかして新人さんだったりしますか?
隣の客:…はい
吉田:だったら、こんな素人じゃなくて、もっとちゃんとした人に聞いた方が良いと思います
流石にこれは正論でしょ。もう言い返せないだろうと思い離れようとしたのに、次に聞こえてきた言葉は耳を疑うものだった
隣の客:嫌です。俺はあなたの意見が聞きたいです
吉田:…はい、?え、話聞いてま
隣の客:じゃあ!席はめっちゃ離れたところにします。だから、見終わった後に、何に引き込まれたかとか、何が良くて何が悪かったのかとか、思ったこと教えて下さい。それでも、ダメですか、?
あまりの熱量に呆気にとられた。何がこの男を突き動かしているのか、俺には全く理解出来ないが、ここまで必死に言われたら、、
吉田:はぁ、、分かりました…
隣の客:やった!!!ありがとうございます!これからよろしくお願いします、映画博士!
吉田:…だっせぇネーミングセンス
隣の客:なんか言いました?チケット買いに行きましょ!
そこから、毎週、あの客と同じ映画を見ては俺が意見を言ってソイツがメモを取るという、奇妙な習慣ができた
最初はクソだるかった。しかも、俺の感想なんて誰にも言った事が無かったから正直恥ずかしかった。でも、、
隣の客:そんな着眼点があるんだ…すげぇ
吉田:ほんとに、俺のアドバイスでいいの?
隣の客:博士くらい客観的に観てる人中々いないからさ、ほんと勉強になる。あと…
吉田:あと、?
隣の客:…映画、観てる時の博士の顔、めっちゃ好き
吉田:ふはっ、、お前何言ってんの笑
隣の客:ねぇ、マジだって!笑
あまりにも、俺のくだらない感想に対してもピュアな反応をされるから、だんだん俺も嬉しくなって、ついつい話しすぎることもあった。いつの間にか、そのダルい習慣が日常に変わって、気付けばあんなに一緒に見るのが嫌だったのに、初めて会った日のように隣で見るようになっていた。平日の昼間だからガラガラなのに、俺とコイツはいつも隣。他にお客さんがいない日は小声で話したりクスクス笑いあったりして、なんか、コイツと会う前を思い出せないくらい、凄く楽しかった
コイツと初めて出会ったのは初夏だった。でも月日の流れは早いもんで、いつの間にか外に出るのが億劫になるくらい暑い時期になっていた
吉田:マスク、暑くないの
隣の客:暑い。でも一応ね。てか、今日は上から何個目観る?
吉田:えー…4?
隣の客:なんで?
吉田:テキトーだよ
隣の客:じゃあ、これだね。『閲覧禁止 学校の…
吉田:おい
隣の客:…え?
吉田:やっぱり上から5個目にしよ
隣の客:え、なんで
吉田:前、話してた監督作品の最新作だし、なんかおもろそうだし、キャラも良さそうだし、それに
隣の客:博士…もしかして、心霊系苦手?
吉田:……
最悪だ。だから夏は嫌なんだよ。一気に心霊の映画が増えるのがこのサマーシーズンだ。いつもなら何でも観るが、この時期だけは絶対おばけ系統の映画は選ばない。てか、あれを好んで観る奴の精神を知りたい
隣の客:とりあえず博士が最初に選んだやつ買っときますね♫
吉田:は、?
隣の客:流石にこのチケットは俺が博士分も買うから、ね?
吉田:…まじ、か
上映開始までの時間。いつもならどうでもいい話をコイツとするのに、今日は緊張して、なんも頭が回らない。はぁ、逃げたい。でも、ここで逃げたらコイツにバカにされそうだし…手汗が止まらない。背筋には冷や汗が流れる感覚がする。あー頼むから早く終わってくれ!!!
隣の客:…かせ、、博士!!
吉田:…………おわった、、?
隣の客:うん。終わりましたよ。すみません、そんなに怖がると思ってなくて…
俺は全身に力を込めて、出来るだけビビらないようにしていたが全然だめだった。途中から観るのも辛くてずっと目をつぶって、心の中でできるだけハッピーなことを考えている間に終わったらしい。情けねぇ……
吉田:俺、ホラーはいくら見ても克服できなくて
隣の客:…言っていいか分からないけど、ビビってる博士めっちゃかわいかった
吉田:…そっか、、、って、、は!?!?
隣の客:今もずっと、俺の手握ってるし
吉田 :へっ、?あっ!?
俺は急いでソイツの手を振りほどいた。恥ずかしすぎる…もう、見せる顔がない…
吉田:わ、忘れて…
目を見て必死に懇願するが、なぜかニヤニヤしてこっちを見ている。マスクしてるくせに、目だけでニヤケが分かるって、演技力ついたのかなんなのか…
吉田:ね、お願い!
隣の客:分かった。だからもう1本ホラー観ようよ!
吉田:はぁ!?
めっちゃ、恥ずかしかったし、怖かったのに、コイツと観るとなんか楽しくて。こんな日が続くと思ってた
けど
その日以降、俺はアイツの姿を見かけなくなった
♥200こえ次第次いきます
コメント
1件
第2話読み終えたよ…! 最初はムカついてた博士と俳優くんの距離が、映画っていう共通の時間を通じてじわじわ縮まっていく感じがすごく良かったな。ホラーで手を握っちゃう博士、めっちゃ可愛くて笑っちゃった。 でも最後の「姿を見かけなくなった」で一気に切なくなった…。日常が音もなく消える感じ、すごく刺さる。続きが気になるよ😢
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