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私は社会情報学部の女子大生だ。民俗学を専攻している。しかし、3年生のとき就職活動で、全然フィールドワークが出来なかった。やばい、4年生の夏休みでなんとかしないと、卒論が書けない……。
もう自分の専門が、とか言っていられない。どこか、手ごろにフィールドワークできるところはないものか……。
そんなふうに考えながらネットで適当に調べていると、ある村のHPが検索にひっかかった。
「猿神信仰か……。面白そう」
その村では、猿を神として信仰しているという。しかも、その信仰は江戸時代から続くものらしい。調べてみたけれど、この村の信仰について書かれた論文はなさそうだ。
「これは、ちょうどいいんじゃないだろうか。問題は、どうやってフィールドワークの許可をもらうか、だけど……」
その村で、山奥の寒村だ。交通の便も悪そうだ。最寄り駅は特急が止まらず、そこからバスで1時間20分かかるらしい。さらに最寄りのバス停からも、車で20分くらいかかるようだった。
「歩いて行けなくはないけれど、村に旅館とかはなさそうだし、どうしたもんか……。まあ、とりあえず、連絡してみよう」
村のHPに書かれていた電話番号に連絡してみることにした。フィールドワークの許可が下りるといいんだけど……。
「はい、もしもし」
電話に出たのは、おじいさんの声だった。
「あのー。私、卒論で民俗学を研究テーマにしていまして……。もしよろしければ、村のフィールドワークをさせて頂きたいのですが……」
「ああー……。そうねえ。うーん」
お爺さんは歯切れが悪いようだった。もしかして駄目かな?と思ったときだった。
「ひとつだけ条件があって、それさえ守ってくれるならいいよ」
「えっ。あ、はい。何でしょう?」
「信仰の内容とか、村の様子とかは卒論に書いてもらって構わないんですが、時期だけ、いついつにこんなことがあった、というのは、村の秘伝なんで隠してもらいたいんですね」
「はい、わかりました。卒論には書かずに、個人で調べるだけにします」
「それでお願いします。あと、その関係で、村にいつ滞在したかは誰にも言わないでください。何日から何日まで村にいました、とばれたら、結局わかっちゃいますから」
「なるほど」
「どこに言ったかは秘密にするか、あるいは別の場所に行ったと嘘をつくか。とにかくそこは気をつけてください」
「わかりました!」
「あと、村に来てくれても、泊まる場所がないもんでね、村の人に協力してもらって、空いてる部屋を貸してもらいますよ。もちろん、ただとはいきませんが、まあ1日1500円くらいでどうです? そうだ、村のバス停まで迎えに行きますから。明日でも明後日でも、都合のいい日に来て下さい」
そこそこの長期滞在になりそうだったから、これはありがたい。こうして私は電話を切り、数日後準備を整えてから村に行くことになったのだった。(続く)