テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
月曜日の朝
オフィスの空気は、週末の浮かれた気配を微塵も感じさせないほど冷ややかに引き締まっている。
私は、何度も鏡で首元をチェックし、ハイネックのブラウスを選んだ自分を褒め称えたい気分だった。
「……おはようございます」
自分の席に座り、PCを立ち上げる。
視界の端に、いつものようにデスクを並べる真司の姿が入った。
彼は完璧にプレスされたシャツを着こなし、眼鏡の奥で冷静にメールをチェックしている。
(……別人みたい)
数時間前まで、同じベッドで私の名前を呼んでいた男と
この「有能な同期・真司」が同一人物だとは到底思えない。
仕事モードの彼に少しだけ安心し、私も必死にキーボードを叩く。
そうよ、あれは一夜の過ち
大人の火遊び。
今日からはまた、良きライバルに戻ればいい。
「佐藤さん。ここの数字、先週のデータと乖離してない?」
不意に、真司が私のデスクを覗き込んできた。
「えっ、あ、ごめん。すぐ確認する」
慌ててマウスを動かす私の背後に、彼が立つ。
周囲には他の社員もいる。
日常の、どこにでもある光景。
けれど、彼が私の肩越しに画面を指差した瞬間
鼻先をかすめたのは、今朝彼の部屋で嗅いだのと同じ、清潔な石鹸の香りだった。
「……っ」
背筋にゾクりと震えが走る。
真司は、他の人からは見えない位置で、私の耳元に唇を寄せた。
「昨日の続き、する?」
「……は!?」
心臓が跳ねた。
驚いて隣を向こうとしたけれど、彼の左手がデスクの端を強く掴み
私を自分の体とデスクの間に閉じ込める。
「忘れようとしてるみたいだけど、無理だよ。俺、一度掴んだものは離さない主義なんだ」
声は低く、酷く甘い。
でも、彼が顔を上げた時には、そこにはまた「いつもの冷徹な同期」の顔があった。
「じゃあ、1時間以内に修正よろしく~」
彼はそれだけ言い残して、涼しい顔で自分の席に戻っていく。
残された私は、震える指先を隠すように強く拳を握りしめた。
仮面を被っているのは、私だけ。
真司は、日常という皮を被ったまま、牙を剥いて私を追い詰めようとしている気がしてならなかった。