お風呂から上がって、髪を乾かすのもそこそこにダイニングに行く。
「お風呂ありがとう」
「早かったな。あ、J それちゃんと髪乾かしてないやろ」
「あ~まあそこまで手入れしてるわけでもないしいいかなって」
「ちょっとこっち来て?」
かるてっとさんはそのまま俺を適当な椅子に座らせて、手際よく丁寧に髪を乾かしてくれる。
弱すぎず強すぎないちょうど良い力加減で乾かしてくれるので、つい眠ってしまいそうになるのを必死にこらえる 。
ぼーっとした頭で思い出すのは、同棲し始めたころ、はこたろーさんが俺の髪を乾かしてくれた時のことだ。
二人で鏡の前に座り、ドライヤーで声が聞こえないのをいいことに、普段は言えないような愛の言葉を二人で言いあっていた。
声は聞こえないはずなのに、口の動きでなんとなく相手がなんと言ったかは自然と分かって、二人で照れて笑いあいながらそんな遊びをしていた。
いつしかそれが習慣になっていて、俺が仕事で遅くなったりしない限りいつもやっていた。けれど、はこたろーさんが自室に籠るようになってからは、なかなかしなくなってしまった。
そんな些細なことが積み重なっていき、今回ろくに話し合いもせずに黙って出てきてしまったのだ。
……やっぱりかるてっとさんの言う通り話し合いをした方が良いのだろうか。でも、本人の口から直接じらいちゃんのことが嫌いになったとは聞きたくない。
そんな風に思考が同じところをグルグルと回って結論が出せずにいると、かるてっとさんに「終わったぞ」と声を掛けられる。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」
考えていても虚しくなるだけだ、と無理やり思考を変えて席へ着く。するとそこには、連絡もなしにいきなり来たにもかかわらず、しっかりと2人分の食事が並べられていた。
「ごめん、買いに行く時間なくて残りもんで作った簡単なのばっかやけど」
「いや、こっちこそ作らせちゃってごめん。ありがとう」
「いただきます」
「いただきます」
二人で手を合わせて食べ始める。かるてっとさんは食べている最中も色々話を振ってくれたけど、気を遣ってくれたのかはこたろーさんに関する話題は全くなかった。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした」
食器などの後片付けをしたあと、手持ち無沙汰になったところでかるてっとさんが「気晴らしにゲームでもやるか?」と提案してくれたので、せっかくなら、とオフラインでしかできないようなゲームをやる。
ついゲームをするのに夢中になってしまい、地域の夕方を知らせるチャイムで随分と時間がたっていたことを知る。ぼちぼち夕飯の準備をしようかと二人でキッチンに立つが、なにせいきなり来てしまったので冷蔵庫の中身が何もなく、材料を買いに近くのスーパーに向かう。
少々寄り道もしてしまったが無事材料を買い、二人で夕飯を作り始める。一応一緒に作ったのだが、かるてっとさんの手際が良すぎてほとんどお手伝いのような形になってしまった。