テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる

77
KamassKRRR (くらリ
1,021
夜風と熱
「じゃ、お試し恋人ってことで。手、繋いで帰りますか」
そう言って深澤がポケットから手を出して、渡辺の手に自分の手を絡めてきた。
指と指が重なる恋人繋ぎ。
「っ……」
不意の体温に、渡辺は思わず息を呑んだ。
深澤の手は大きくて、少し冷たくて、でも驚くほど優しく渡辺の手を握りしめている。
ただの冗談の延長のはずなのに、つなぎ合わされた手の存在感が凄まじくて、渡辺の心臓がうるさく脈打ち始めた。
「……なぁ」
動揺を隠すように、渡辺はわざと低い声で呟く。
「ん?」
「付き合うって言ってもさ……俺たち、何すりゃいいんだよ」
「え? 何って、恋人らしいこと?」
深澤は空いたほうの手でアゴを触りながら、「うーん」と真剣に考え込んだ。
「恋人らしいことなぁ……。佐久間たちみたいにデート行く? 映画見たり、遊園地行ったり?」
「男ふたりで遊園地は、普段の俺たちと変わんねぇだろ」
「それもそっか! じゃあ何だ? 毎晩おやすみ電話するとか? ……あ、でも俺たち普通にLINEしまくってるわ」
ふはふはと笑う深澤の横顔を見つめながら、渡辺は密かに手を握る力を少しだけ強めた。
「結局さ、手を繋いでこうやって歩くくらいしか、思いつかねぇな」
「だねぇ。でもさ、翔太」
深澤がふっと足を緩め、繋いだ手を少しだけ揺らした。
「恋人って、別に特別なことしなくてもいいんじゃない? 『隣にいるのが当たり前だけど、今までよりちょっとだけ距離が近い関係』……みたいなさ」
「なにそれ。意味分かんねぇ」
「俺も分かんねぇ!」
街灯の下で顔を見合わせ、二人でケラケラと笑う。
いつもの幼馴染の空気。けれど、繋いだ手のひらから伝わってくる確かな熱だけが、二人を「ただの友達」から遠ざけていた。
佐久間への未練を隠すための深澤と、深澤への長年の恋心を隠すための渡辺。
互いに嘘を抱えたままの、歪でおかしな恋人関係。
やがて見慣れた渡辺のマンションの前まで着くと、深澤が足を止めた。
「はい、到着〜」
「……お前、わざわざ俺の家まで送ってくれたの?」
「だって俺たち、今恋人だし? 彼女を家まで送るのなんて、男として当然でしょ」
「俺は彼女じゃねぇよ」
「はいはい。じゃあね、翔太。明日また連絡する」
深澤は繋いでいた手を名残惜しそうに離すと、渡辺の頭の上にポンと手を置いた。
そして、顔をぐっと近づけて、耳元で低く囁いた。
「……おやすみ、俺の彼氏さん」
「〜〜〜っ!?」
イタズラっぽく目配せをした深澤は、ひらひらと手を振りながら夜の街へと消えていった。
残された渡辺は、固まったまま深澤の後ろ姿を見送る。
顔が、耳が、全身が熱い。深澤の甘い匂いと、耳元に残った残響が脳内を支配していた。
――エレベーターを駆け上がり、自室のドアを閉めた瞬間。
渡辺はその場にへたり込み、両手で真っ赤になった顔を覆った。
「……くそっ!!」
暗い玄関で、一人激しい吐息をつく。
冗談で始まった「お試し」のはずだった。
佐久間の穴埋めでも、身代わりでもいいと思って乗った提案だった。
なのに、当の深澤はいつも通り飄々としていて、自分だけがまんまとアイツのペースに巻き込まれ、本気で翻弄されている。
「あんな顔されたら……期待しちゃうだろ、馬鹿……」
暗闇の中、深澤に触れられていた右手のひらをぎゅっと握りしめる。
冷たいはずの冬の夜風が吹き抜けたはずなのに、渡辺の体温は一向に下がりそうになかった。
コメント
3件
全部読んできた ! ! めっっっちゃ好きすぎてやばいんですが 💘💘💘 表現がうますぎるしこの作品の世界観に引き込まれたわ ... ✨ 続き待ってます ッ
え、、、第4話、やばすぎん??😭💕 「おやすみ、俺の彼氏さん」でしょ!!!耳元で囁くとかずるすぎるし、渡辺の顔真っ赤になってるの想像しただけでこっちまで照けるわ…! 「お試し恋人」って言葉の軽さと、手の熱さや心臓のドキドキが全然釣り合ってなくて、ギャップがエモすぎるよ〜🥺✨ 渡辺くんの「期待しちゃうだろ、馬鹿…」のセリフ、本音すぎてグッときた。ふたりとも嘘抱えてるの苦しいけど、それでも繋ぎたい気持ちが手に現れてて切ない…次話も絶対読む!!🌸