テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
『白霞に溶ける声 ― 突きつけられた涙 ―』無一郎の手がわたしの頬を包み込む。
冷たい指先からは想像できないほど熱い視線が注がれていた。
「もう一回、キスさせて」
彼の唇が再びわたしに触れる。
今度はもっと深く、もっと長く。
「や、やめて……無一郎くん、そんなにされると……」
わたしは必死に体を引こうとする。けれど彼は動かない。
むしろ、強く抱きしめて逃げられないようにする。
「なんで?嫌なら言えよ」
その言葉はいつもの冷たい口調とは違い、どこか困惑した響きが混ざっていた。
「……もう、やめてってば……」
涙がぽろぽろと頬を伝う。
心も身体も拒否しているのに、無一郎は止まらない。
「……あい、泣いてる?」
彼の声が震える。普段は無表情の彼が、初めて動揺を見せた瞬間だった。
「嫌なのに、なんでやめてくれないの?」
わたしの涙を見つめる無一郎の瞳が揺れる。
ぎこちなく、唇を噛んで、少しだけ俯いた。
「……すまない。……止める」
その言葉とともに、無一郎はわたしをそっと離した。
初めて見せた弱さに、胸が締めつけられた。
「ごめん、あい……」
不器用に呟く彼に、わたしはただ小さく頷くことしかできなかった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!