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#ざまあ
そらとんでるきのこ
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イリヤがリリスの家の店の手伝いをするようになって一週間が経ち、ノアが来た時と同じ現象が起きているのだそいだ。 それは、イリヤが村の男達よりかっこいいものだから、パートナーのいない娘達はこぞってリリスの家に遊びに行くのだった。
ノアの場合、レインがいたものだからそこまで騒ぎにはならなかった(それでも連日人がやってきた)が、リリスの場合はそうも言ってられない。
本当に客としてやってきている人もいるので、無下に扱えないのだ。
もはやイリヤは客寄せパンダ状態になっており、リリスの父と母はこの絶好の機会にこの手を逃すわけにはいかないと、お店はてんてこ舞いだった。
イリヤは好青年なのが功を奏し客受けはよかった。
しかし、リリスは彼のことが異性として気になっていたので、村の娘達に構われるのがすごい嫌だったのである。
ある日、仕事も終わりリリスとイリヤは談笑した。
ふたりとも年が同じ十九であることから、丁寧な話し方から友達に話すような話し方で接するようになり、会話する機会が多くなる。
その結果、リリスは本気でイリヤのことが好きになってしまった。
土曜日になり、レーナのところに愚痴をしにリリスがやって来た。
レーナの部屋に上がり、お茶会をしながら上記のことを話し始めたのである。
「……ということなの。イリヤも愛想がいいから、一生懸命仕事をしてくれたのは分かるわ。でも、村の子達に腕を組まれたりして断らないのよ、それが嫌なの」
「リリスはイリヤさんとどうなりたいの?」
「どうって……。そんなの、決まってるじゃない」
年頃の娘が異性に対して持つ感情、それは、恋でしかない。
「恋人になりたいのね」
「そう。でも、イリヤはある程度お金貯めたら出ていくって言ってるの。理由を聞いても教えてくれなくて……。私、家のことを手伝ってくれるイリヤが好き。とっても優しくてね、私の知らないことを教えてくれるのよ。でも、うちを出ていく理由だけは絶対に教えてくれないの。ねえ、レインさんは事情を知ってるのよね? だったら、レーナからレインさんに聞いてくれないかしら?」
「それはダメよ、リリス」
突然部屋にやって来てダメと言ったのは、事情を知っているノアだった。
「ノアさん、どうしてダメなの? ……もしかして、ノアさんも理由を知っているのね? だから言えないのでしょう?」
「そうよ。いくらリリスがイリヤのことを好きでも、こればかりはアタシ達の口からは言えないわ。イリヤに深入りするのも辞めた方が身のためよ」
イリヤは貴族の庶子として生まれ、現在捜索届けが魔女都市で出ている男なのだ。
マッシュ家の者がいつトート村にやってきてもおかしくない。
「そこまで言うのなら理由くらい教えてよ! そんな風に言われても、私納得できない!」
リリスはとうとう泣いてしまった。はらはらと落ちる滴をレーナはハンカチで優しくふき取った。
「リリス……」
レーナは泣くリリスを優しく抱きしめて、悲しみを分かち合った。
「リリス、あなたの気持ちはよく分かるわ。でもね、イリヤ本人が望んでいないのなら、無理に聞く方法はよくないわよ」
「……そうね、だったら、アタックあるのみよね! ふたりともありがとう! 私、頑張るから!」
涙を拭いて元気よく走って家まで帰ったリリスを心配そうに眺めているレーナに「恋は盲目なのよ、放っておきなさい」と言って、窓に張り付いているレーナを引きはがした。
「ノア、リリス大丈夫かなあ……」
「なるようになるわよ。でも、そうね、アタシもリリスのことは気になるし、イリヤといい雰囲気なことは伝わったから、手助けでもしてあげようかしら」
「なにするの?」
「男同士の秘密よ」
そう言われてしまったらレーナの出る幕はない。ここは大人しくノアに任せることにした。
その晩、レーナに先に寝るように言ったノアは、レーナが完全に寝たことを確認してからリリスの家に瞬間移動した。それも、イリヤの部屋にである。
「うわあ! ノアさん高度な魔法が使えるんですか!?」
いきなり現れたノアを悪魔だと思わないところが、魔女学園のある都市に住んでいたわけあるなとノアは思ったが、敢えて余計なことは言わなかった。
「しー。静かに。みんなが起きちゃうでしょう」
ノアは小声で話しかけた。イリヤは眠る前だったようで、ベッドで寝転んでいた。
「あ、すみません」
そう言って、イリヤはベッドから起き上がり、ノアを椅子に座るよう促し、自分も座った。
「あんた、お金が貯まったらこの村を出て行くんだってね」
「どうしてそれを……」
「リリスがうちにやってきたのよ」
「リリスが?」
「さあ、どうしてでしょうね」
ノアは妖しく笑い、唇は弧を描く。淫魔として覚醒したノアは、目の前の男が恋をしていると分かったのだ。リリスのことを話題に出すと、面白いくらいに食いついてくるイリヤに目論見通りとなったノアは上機嫌になる。
「……もしかして、リリスはノアさんのことが──」
「さあ、どうかしら?」
「あなたにはレーナさんがいるじゃないですか!」
「そうね、レーナは特別よ」
レーナ。ノアの愛するレーナ。何よりも愛おしくて可愛い、ノアだけのレーナ。
「だったら、リリスを遊びの相手にしないでください!」
「それはあんたに関係ないことよね。だって、この村を出て行くもの」
厭味ったらしく言ってやれば、悔しそうに端正な顔を歪めさせながらイリヤはノアを睨んだ。
「……あなたにだから言いますが、僕はリリスが好きだ、本当は誰にも譲りたくない!」
「だったら最初からそう言いなさいよ。アタシ、レーナにしか興味ないから安心なさい。リリスはただの友人よ」
優しく微笑んでそう言えば、素直なイリヤは「なんだ、そうだったんですね……」と、苦笑しながら答えた。
「で? 好きなくせに何も言わないのは、あんたがマッシュ家の生まれだからでしょう?」
「……そうです。リリス達には迷惑かけたくないんです、同じ男なら分かってくれますよね?」
「はあ? 分からないわよ。好きな女をみすみす逃すなんて無様な真似、一ミリたりとも分かりたくないわ」
吐き捨てるようにノアは言った。
もし、レーナがほかの男にとられそうになったら、嫉妬の炎で相手を嬲り殺すことだって厭わない。
愛するレーナはノアに骨抜きになっていることがよく分かるだけではなく、ノアのことを心から愛してくれているのが伝わるため、暴挙に出ないだけである。
優しいレーナのことだ、ノアがそんなことをすれば相手のことを思いやり、悲しみで涙を流すだろう。
想像しただけで苛々してきたノアは、くだらない与太話を考えることをやめた。
「どうせあんたはこのままリリスと結婚するのだから、特別に教えてあげるわ」
ノアは変身を解いて、元の姿に戻った。金髪赤眼の淫魔の姿である。
「あなたは、まさか」
「そう、悪魔よ。ふふ、こうして人間を驚かすのって堪らなく楽しいわね。少しだけ姉上の気持ちが分かったかも」
「なんで魔女の家に悪魔がいるんだ!?」
「そんなのレーナがアタシを呼んだからに決まってるじゃない。あの子、才能あるのよ」
「レーナさんが……?」
「そう、アタシの『お手つき』になったから、レーナはずうっと一緒なの。いい? 時間がないからアタシの話をよく聞きなさい──」
それから一か月が経ち、魔女都市からきたという大きな御車がトート村にやって来た。
「ここにイリヤという青年がいると聞いた、誰か知っている者はいるか!」
偉そうに顔が描かれたイラストを持ちながら話しているのはお腹が目立つおじさんで、身綺麗な恰好をしているが綺麗なのは服だけだった。
村人達はイリヤを知っていると話したら「連れて行け」とどこまでも横柄な態度を取るおじさん──マッシュ子爵はふんと鼻を鳴らした。
そして、リリスの家まで赴き、中から出てきたのはイリヤ本人だったが、当然マッシュ子爵は気づかない。
なぜならば、そこにいたのは左側の顔が溶けてどろどろになっており、膿がぽたぽたと滴り落ちているゾンビのような見た目をしたイリヤがいたからだ。
「ひい! な、なんだおまえは!」
「僕、イリヤっていいます。あ、それ以上近づかない方がいいですよ。うつりますから」
にたあっと不気味な笑みを見たマッシュ子爵は「おまえなんか知らない! あっち行け!」と慌てて御車に戻るが、イリヤはその後を追いかけた。
「なんで僕のことを知っていたんですか? 待ってくださいよ、お貴族様!」
「知らぬ! イリヤなんてもう死んだんだ、そうに違いない!」
「"僕"は生きてますよ」
「ええい、さっさと馬車を出せ! もう二度とこの村になんてくるものか!」
「その言葉、違えないと誓え」
馬車の中、マッシュ子爵の前に現れたのは、金髪赤眼の美しすぎる青年だった。
魔女都市に住む者は、赤眼の美人を見たら逃げろというルールが設けられているほど、悪魔──淫魔に誑かされている者が多いのだ。
「お、おまえは悪魔……!」
「この村には寄り付かないと誓え」
「ち、誓う! だから、殺さないでくれ!」
「あんたなんて殺す価値もないわよ。それと、あんたは悪魔と契約をした。ここに寄り付けば何が起こるか、もう分かるわね?」
美しい悪魔に脅されたマッシュ子爵は青ざめて最終的には気絶した。
「まあ、こんなところかしらね」
ノアは瞬間移動して、家に戻った。
それからは、マッシュ家の者はトート村に一切近寄らなくなったという。
「めでたしめでたしね!」
乾杯! とワインを飲むのはいつものメンバーのレーナ、ノア、ローラ、リリス、メイ、オリオンとイリヤだった。
ここはレインの家のダイニングで、祝杯という名のパーティーが始まっていた。
「まさか、ノアさんが悪魔だなんて思わなかったよ」
そう言うのはオリオンで、ローラの夫である。
「もう言ってもいいかなって思ったのよ。どうせ長い付き合いになるんだし」
「……それもそうだな」
オリオンは珍しく笑ったので、みんなオリオンに釘付けだった。
「それにしても、ノアさんの作った魔道具はすごいですね。顔が爛れたようにみせる仮面を作ってしまうなんて」
「まあ、アタシはこれでも次期王ですからね。レーナの不安の芽は徹底的に潰すわ」
「摘むんじゃないんだ……」
レーナの言葉にみんな頷いた。
「ノアさん、本当にありがとうございました。これでリリスのそばにいられます」
「ノアさん、ありがとう! 心から感謝するわ」
「いいのよ。あんた達のことは友人だと思っているから、今回は王子様特典をつけちゃうわ」
ノアは悪魔らしくなく朗らかに笑い、その場を和ませた。
時は一か月前に遡る。
あの日、イリヤのところに行ったノアは、練っていた計画を話したのだ。
それは、ノアが作る魔道具である仮面をイリヤが着け、マッシュ子爵がきたタイミングでゾンビのようになったイリヤが脅かし、二度とトート村に近づかないと約束したところでノアが悪魔として誓約させるといったものだった。
ノアの魔道具は完璧にひとには見えない悍ましい面をしており、その出来栄えにレーナが叫んだほどである。可愛そうなことをしたとノアは大いに反省した。
ちなみに、ノアが誓約させたのはあくまで言葉で誓わせただけであって、何か特別な力を使ったわけではない。小心者ほどそういう脅し文句に弱いのだとノアは鼻で笑って説明したのだ。
そして、ノアから発破をかけられたイリヤはリリスに本当のことを打ち明け、それでもいいから男女交際して欲しいとリリスに言われ、正式にお付き合いすることになったのである。
「でも、意外だったわ。ノアさんが貴族を相手に本当の姿を見せるだなんて」
そうメイは言ったが、魔女都市からやって来た相手ならば、最も有効な手であるとも思えたのでそれ以上は言わなかった。
魔女都市は昔から魔女信仰が強く、対悪魔となるとまず頼りにされるのが魔女都市のいる魔女達なのだ。
ありもしない呪いに怯えて過ごすのは気の毒ではあるが、あまりいい評判を聞かない相手なので、ノアはどうでもいい相手と判断したらしい。どうせ跡継ぎもいないのだから、そのうち爵位も返すことになるだろうとのことだった。
「いいなあ、みんなは恋人がいて。私も欲しいな」
そう寂しそうにこぼすのはメイだった。
「あれ? メイ、恋人いたんじゃなかったの?」
レーナが聞くと、メイは「いたけれど、心が満たされなかったわ」とぼやいた。
「そうなんだ」
「メイって本当にひとりばっちだったのね……」
リリスは思ったことをそのまま口にして、ローラに窘められていた。
「そうね。私って見栄っ張りだから、相手の外側やステータスだけ見ていたからかしら、外見しか見てもらえなかったのよ。あとは身体目当ての男ばっかり」
「メイは昔から可愛いもんね」
レーナは微笑んで言った。そこに悪意などはなく、ただ本心からそう思っているからこそ出る言葉なのだ。
「……私、あんたのそういうところがムカついていたけれど、それはレーナの美点なのよね。本当に気づくのが遅いわ……」
「いいよ、私もメイのこと誤解していたところもあったし。今は仲良くなれて嬉しいよ」
「……そうね、レーナの言う通りだわ」
「もう、辛気臭い話はおしまいよ! 今日は無事イリヤが実家から逃げ切ったお祝いパーティーなんだから、もっと楽しまなくちゃ!」
「みなさん、本当にどうもありがとうございました!」
それからは夜が更けるまで飲み明かし、深夜までどんちゃん騒ぎは続いた。
レインは自分が張った防音の結界でとっくに眠りに就いていたのであった。
翌朝、片づけもしないで全員眠りに就いたものだから、それはそれは激しく叱られた七人だった。
そして、イリヤは薬代を支払い、無事に騒動は終わったのであった。