テラーノベル
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職と癒しを失う覚悟を決めなければならないのかと、脱力しかけた時だ。
優陽は顔の半分ほどを覆っていた黒いマスクをずらした。
見えた顔は、こんな状況でもやっぱり目を惹くもので。
(あれ……)
吸い込まれそうなブラウンの瞳は公園の街頭のせいでだろうか、キラキラと星のように輝き。
その瞳の色から、その輝きから、目が離せなくなる。
知っている、気がして、離せなくなる。
吸い込まれるようなこの感覚に既視感を覚えたけれど。
「わあ、たかだか半年一緒に働いてるだけの相手に、重いね。 それ」
ハッと現実に引き戻された。
どうせテレビかなんかでこの人を見たんだろう。
優陽の発言で、既視感なんてものは柚の頭の中からすぐに消え去った。
そんなことよりも無性に腹が立ってしまう口調に、グッと手を握りしめる。落ち着かなければ。
「……仰る、とおりなんですが」
「そう。それなのに相手にされてないとか、かわいそうだね」
「……はあ、かわいそうと、きましたか」
声の柔らかさ、口調、笑顔。
そのどれからも想像し難い……何というか、毒舌なるものに柚の気分は沈み続ける。
今、猛烈に、日本中に、この森優陽を拡散したい。
この人性格ヤバいよと拡散したい。
「あの、別に店長が別の方を選ぶとなっても邪魔はしたりしませんので、この話は聞かなかったことにお互いしませんか。店に居づらくなるのは、ちょっと避けたいんですが」
しかし、そこは我慢して柚はあくまで冷静を装い提案した。
「そっかそっか。そんなに航平と一緒にいたいんだね。 だったら」
柚の言葉が伝わってなさそうな優陽は、助手席に身体を向けて。私の頰に大きな手のひらを添えた。
その手のひらが思ったよりも冷たくて背筋に力が入る。
目の前には、やっぱりキラキラとした彼の瞳。
「録音した会話、航平に聞かせないかわりに。君は俺の恋人になってくれない?」
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