(――は? )
「……コイ、ビト?」
意味がわからなさすぎて、柚の口からは頼りないカトコトが出てきた。
「そう、俺の彼女になって」
「何を、言って……」
(言い直されても意味がわからない)
後ずさった柚の頭が盛大に助手席側の窓にぶつかり、鈍い音を車内に大きく響かせた。
「……え!? なんでどうして突然!?」
頭の中でその言葉の意味を理解した柚が慌てる様子を見てだろうか。愉快そうに笑顔を作り、肩に触れる手。
気がつけば身体が抱き寄せられて。
窓にぶつけた後頭部を優陽が、そっと撫でた。
「……君のことが、好きだからだよ」
そうして呟かれた台詞。
その声が酷く切なそうに響いて柚の喉はには、彼にぶつけたかった言葉が引っかかったまま。
触れていた手に力が込められ、あと僅か残っていた二人の距離。
更に引き寄せられてく。
触れ合いそうな鼻先。
車のエアコンの無機質な音だけが、ぼんやりと柚の耳に届く。
「……ど、うし」
「なんてね、嘘だよ。 可愛いとは思ったけどさっき会ったばかりだしね、さすがにないよ」
どうして、と。やっと喉を通り抜けようとしていた声は、声にはならず。
パッと手が離されたかと思えば、同時に優陽も柚から距離を取る。
その飄々とした態度に沸々と小さな怒りが膨らんで。
「い、いい加減に……!」
「まあまあ、怒らないで。 君にとっても悪い話じゃないと思うんだよ。 バラすバラさないは別として」
どう悪い話じゃないというのか。
小馬鹿にされ続け、とっくにこの人の言葉には期待できなくなっているんだけど。
「航平は、人の女が好きなんだよね」
いや、次々と出してくるな。
もはや感心している。
柚的には、そんなゾーンに入ってきた。
「……はい?」
「昔から、誰かのものだと手を出しやすいのか、好きみたいで」
「ごめんなさい、上級すぎて飲み込めないのですが」
航平のまわりには綺麗な女の人がたくさんいるし、モテるのも見ていて理解しているつもりだ。
なのに? どうしてわざわざ。
「要は深い仲にならないで済むし、自分が浮気相手な訳だから」
「……いや、待ってください、その、それは」
「よくないことだよね。 だから君が変えてあげればいいじゃないの?」
でしょ? と。 さも、いいことを言ったと言わんばかりに微笑む綺麗な顔。
「俺のものだって思わせて興味持たせて、あとは、君のことを好きにさせればいい」
「……ご紹介予定のお知り合いは」
「ああ、大丈夫だよ、あれは嘘だから」
「嘘!?」
また悪びれる様子もなく、あっけらかんと。
はあ、と既にため息しか出なくなっている柚のことなんて気にもかけず優陽は話を続けた。