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夏目萌*優しい彼~コミカライズ
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西原衣都
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猫塚ルイ

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第33話、読み終えました……。昴さんの「大切な人を作ると、失った時に辛くなる」という言葉が本当に胸に刺さりましたね。彼の過去がひたすら重くて、それでも希海くんのために必死で生きてきたんだなと伝わってきました。羽衣子が昴さんの気持ちを知ってしまったからこそ、想いをしまい込むしかなかったラストが切なくて……でも、この距離感がすごくリアルで、二人のこれからが気になって仕方ないです。素敵なお話をありがとうございます。
「そして、希海を引き取ると決めてから、私は当時住んでいたマンションを引き払いました」
「え……?」
羽衣子が目を瞬かせると昴は静かに言葉を続けていく。
「当時の私は一人で生きることしか考えていませんでしたから、料理は最低限、掃除や洗濯も適当で……ましてや子育ての知識など、ほとんど無かった」
「…………」
「ですので、親父さん――組長の屋敷へ移ったんです」
「組長さんの……お屋敷に?」
「ええ。屋敷には親父さんと姐さん、それから数人の組員も同居していましたので。慣れない家事や育児を周りがサポートをしてくれたんです」
その光景を思い出しているのか、昴の表情がほんの少し柔らかくなる。
「食事の作り方や家事全般を教わったり、希海が熱を出した時の対処方を聞いたり……夜泣きで眠れない時は、姐さんが代わってくださることもありました」
「……皆さんで希海くんを可愛がっていたんですね」
「ええ。特に親父さんと姐さんは孫のように」
そこで昴は小さく笑みを漏らした。
「希海にとっても二人は完全に祖父母のような存在ですね。会えば“じいじ”“ばあば”と呼んでいますから」
「ふふ……そうなんですね」
思わず零れた羽衣子の笑みに、昴も僅かに目元を和らげる。
「……屋敷を出たのは、つい最近です」
「最近?」
「ええ。希海が吾妻さんの勤めていた保育園へ通うようになる……ひと月ほど前ですね」
「じゃあ、このマンションで二人で暮らし始めたのは……」
「その少し前からなので、まだまだ日は浅いんです」
その答えに、羽衣子は静かに納得した。
どこか生活感が薄かった理由も。
慣れているようで、時折ぎこちなさが見えた理由も。
真実を知れば知るほど、今まで不思議だった部分が少しずつ繋がっていく。
そして同時に、
(……京極さんは、既婚者じゃなかった)
勝手に諦めようとしていた想いが、再び静かに息を吹き返していき、胸が熱くなる。
(大切な人がいるわけでも、なかったんだ……)
その事実を嬉しいと思ってしまう自分に戸惑いながらも、その気持ちは止められなかった。
「あの……一つ、いいですか?」
「何でしょう」
「その……こんな質問をするのは失礼かもしれないんですけど」
「…………」
「希海くんを引き取る上で京極さんは……今後どなたかとの将来を考えたり、そういうことに関して悩みはなかったのでしょうか?」
言い終えた瞬間、羽衣子の胸が強く鳴った。
まるで自分の気持ちを見透かされてしまいそうで、羽衣子は俯きそうになるのを堪える。
すると昴は、
「……そうですね……普通の人なら、そういう悩みもあるのかもしれませんね。ですが、私はこの先も結婚するつもりはありませんから、悩みませんでした」
「――……っ」
その瞬間、羽衣子の鼓動が止まったような気がした。
「どうして、ですか……?」
そして気づけば、そう問い返していた。
昴は一瞬だけ目を伏せると自嘲するように薄く笑う。
「私のいる世界は、常に危険が伴います」
「…………」
「実際、慶太さんたちもそのせいで命を落としました。組織に身を置いている以上、何が起こるか分からない。そんな世界に、誰かを巻き込みたくないんです」
「京極さん……」
昴のその言葉は誰かを遠ざける為というより、自分自身を戒めているように聞こえた。
「それに――大切な人を作ると、失った時に……辛くなくなりますから……」
「…………っ」
大切な人を失う痛みを昴はもう知ってしまっているからこそ、二度とその思いをしない為にも、必要以上に踏み込まないということなのだろう。
「ですから私は、希海が幸せになってくれればそれだけで良いんです」
昴の思いを知った羽衣子は、胸の奥をぎゅっと掴まれたような感覚に襲われる。
既婚者ではなかったし、大切な恋人がいるわけでもなかった。
だから、諦めなくていいのかもしれない――そう思っていたけれど、昴の思いを知ってしまった今、とてもじゃないけど想いを伝えることなんて出来るわけも無く、羽衣子の中にあった昴への想いは再び胸の奥へとしまい込まれてしまうのだった。