テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
あの日、自分の気持ちに蓋をした羽衣子。
けれど、一度気付いた好きという気持ちは簡単には消えず、何をしている時にもふと、昴に視線を向けてしまい、優しい眼差しを見るたびに胸が締めつけられていく。
そんな中、不穏な影が羽衣子たちに迫り始め、想汰の動きを追っていた者からの報告で明るみになる。
「……それで、奴らが何かを探っているような動きに変わっている、ということか?」
事務所のソファーに座って電話をしていた昴は煙草を灰皿へ押し付けながら、僅かに眉を寄せた。
『はい。恐らく、吾妻 想汰の妹、羽衣子さんを探しているような動き……ですね』
「……そうか、分かった。引き続き動向を探ってくれ」
『はい』
通話を終えた昴は忌々しげに溜め息を吐く。
想汰に関わりがある者が羽衣子を探している。
それは想定内のことではあるものの、実際そうなると厄介でしかない。
羽衣子が昴の元へ来ることになったと同時に彼女が持っていたスマートフォンは解約し、新たなスマートフォンを持たせていたことから、想汰が羽衣子に連絡を取ろうとしても取ることが出来ない。
その上アパートの部屋は既にもぬけの殻。
当然、居場所を突き止めに来るだろうことは分かっていたから対策自体に抜かりは無い。
ただ、一体何が目的なのか、そこが昴にも分からない。
そもそも借金を押し付けた想汰がのこのこ羽衣子に会いに来る方が不自然過ぎるのだから。
そしてそれは数日後、羽衣子が幼稚園に希海を迎えに行った時に状況が悪化する。
「幼稚園の近くで、不審者が出た?」
羽衣子は思わず顔を強張らせた。
それを伝えた保育士の表情もどこか張り詰めている。
「はい……園の周辺をうろついていた男がいたみたいで……」
「…………」
その瞬間、羽衣子の脳裏に過ったのは自分が保育士をしていた頃の出来事だった。
そして、その話を羽衣子から聞いた昴の表情は一気に険しくなる。
「……やはり」
そんな低い声に羽衣子の背筋がぞくりと震える。
「吾妻さん」
「は、はい」
「暫く幼稚園には近づかないでください」
「え……?」
「迎えも当面は乙哉に任せます」
「でも……」
「不審者と聞いて、吾妻さんも頭に過ぎったでしょう?」
「……っ! も、もしかして、やっぱり前と同じで私を……?」
「確証がある訳ではありませんが、貴方のお兄さん、吾妻 想汰の周りの人間の動きが怪しくなってきているのは確かです」
「…………」
「これは貴方を守る為でもある。ですから、お願いします」
「分かりました……」
以前と同じように自分が狙われているかもしれない、そう思うと怖くてたまらない。
ただ、以前と違うのは、すぐ傍に昴が居てくれる環境であること。
それだからなのか、そこまで怖いという感情は羽衣子の中に湧いてこなかった。
暫くは乙哉のみが希海の迎えに行っていたものの、ある日の昼過ぎ、家事を終えた羽衣子のスマートフォンが鳴った。
「え……希海くんが熱を?」
『はい、お昼前から顔色が悪くなってしまって……少し前に熱を測ったら……』
それは園からの連絡で、幸い高熱ではないらしいが早めに迎えに来て欲しいという内容だった。
電話を切った羽衣子は乙哉に連絡をする前にふと思う。
「広瀬さん、一人で大丈夫かな……」
体調を崩した希海は機嫌も悪いだろうからいつも以上に駄々をこねる可能性は十分にある。
そう考えた羽衣子は乙哉に連絡をする前に昴に連絡をした。
すると、それを聞いた昴は少し悩んだ末、
『……分かりました。ですが、絶対に乙哉の側を離れないでください』
「……はい」
『何かあればすぐ連絡を』
迎えに同行する許可をした。
そして、乙哉が羽衣子を迎えに来てから幼稚園へ向かい希海を引き取り病院へ。
診察を終え、後部座席ではぐったりした希海が羽衣子に寄りかかって眠っていた。
その時、運転していた乙哉の表情が変わる。
「……チッ」
「広瀬さん?」
「気のせいかと思ったけど、後ろの車、さっきからずっと付いてきてる」
「え……?」
その言葉で羽衣子の背筋が凍る。
ミラー越しに見てみると、確かに一台の黒い車が一定の距離を保ちながら後ろを走っていた。
乙哉はすぐにイヤホンを耳へ当てると電話を掛け始めた。
「昴さん、俺です。やっぱり来ました。今、後ろに一台」
それが昴との通話だと分かった瞬間、羽衣子の鼓動が速まった。
そんな中、短いやり取りの後、乙哉は小さく頷き、通話を切るとすぐにハンドルを切った。
「羽衣子ちゃん、今からちょっとある場所に向かうね」
「え……?」
「ごめんね、相手を撒きたいからちょっとスピード上げるよ」
「…………っ」
不安に駆られた羽衣子は思わず希海を抱き締める。
一体どこへ向かうのか、そんな不安を抱えた羽衣子を乗せたまま車は走り続け、やがて追ってきていた車を撒いた上で辿り着いた場所に、
「……え?」
羽衣子は目を瞬かせた。
住宅街の中にある一際派手な外観の建物――それはどう見てもラブホテルだった。
(ど、どうしてこんな所に……!?)
混乱する羽衣子をよそに、乙哉は敷地内へ入ると一台の車の横へ静かに停車する。
そして、隣に停まっていた黒い車の窓がゆっくりと開くと、
「――京極さん……!」
そこには、険しい表情をした昴が乗っていた。
コメント
1件
いやー、このエピソード緊張感がヤバかった!昴の「暫く幼稚園には近づかないで」って言う所、もう完全に危機を察知してる感じで背筋が冷えたわ。でも印象的だったのは、羽衣子が「前みたいに怖いけど、今は昴さんがそばにいる」って思うシーン。そこにグッときた。最後のラブホテルに辿り着くオチ、思わず「えっ!?」って声出たわ。次の話が待ち遠しすぎる!
#シークレットベビー
#ヤクザ
夏目萌*優しい彼~コミカライズ
1,277
西原衣都
639
猫塚ルイ

757