テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「林田部長、木村室長、あと内海部長の三人に、特許と製品化の件を任せて良いか?」
「もちろんです、西園寺CEO」
「福岡から一人エンジニアを呼んでも良いでしょうか?」
「必要なだけ呼べ」
「ありがとうございます!」
特許問題もなんとかなりそう。
先に製品化されてしまった物も、今から製品化を目指しても大丈夫そう。
残る問題は誰が情報を流したか、だけれど。
統括室に戻った沙紀は、ジャケットからスーツに着替える彰の手伝いをした。
冬木に指定されたネクタイを彰に手渡すと、慣れた手つきでネクタイを締めタイピンをつける。
「沙紀、うちの情報を綾小路商事に売ったのは、営業部の加賀大輝だ」
「……え?」
沙紀の従業員番号とパスワードを使用して不正にアクセスし、データをローカルフォルダにコピーして持ち出す手口だと教えられた沙紀は目を見開いた。
「……だから出社するなと……?」
絶対に私じゃないという状況を確認するために?
会社にいなければ私はログインできない。
いない間に私のログイン記録が出れば、それは誰かが不正アクセスをしているということだ。
「今朝も不正アクセスされた。警告音が鳴っただろう?」
鳴ったのは彰に抱き枕にされている時だ。
「どうして不正アクセスだとわかるのですか?」
「この会社は中小企業としてはありえないほどセキュリティが高いのです」
作ったのは当時まだ学生だった彰だと冬木はチラッと彰の方を確認しながら、誰がどんな操作したかも、誰が何を印刷したかも記録が残っているのだと冬木は説明した。
「あのフォルダには特別な保護がかかっているんですよ」
特別共有フォルダのデータは、会社のパソコンでしか表示ができない。
メールで送っても相手が開くと真っ白に。
印刷もできないため紙で持ち出すこともできない。
沙紀のIDを使用し、まずは特別共有フォルダからファイルをローカルフォルダにコピー。
会社のパソコンを持って社外へ。
綾小路商事はパソコン画面の写真を撮ったのではないかと。
「だから不完全な特許の資料と、不完全な製品ができあがったのでしょう」
図面や技術資料をそのまま使用できないので、作り直したが不鮮明な所に不備や欠陥ができたのだろうと冬木は沙紀に説明した。
「沙紀、おそらくアイツが接触してくるはずだ」
「え? どうしてわかるのですか?」
「パスワードを変えたからな」
あ、そうか。不正アクセスができなくなったから探ってくるってこと?
「あと特別共有フォルダに『関係者外秘』という罠を仕掛けたのです。普通の人は権限がなくて開けないのですよ」
気になるでしょう? と冬木が笑う。
「中身は俺が10歳の時に作ったゲームだ」
万が一見られても大丈夫だと彰もニヤリと笑った。
本当に来るのかな?
沙紀はそんなすぐに大輝は来ないだろうと思いながら、社員食堂で同期の絵里と菜々美とランチを楽しんだ。
「ねぇ~、ちょっとさ、気になってるんだけどぉ」
「私も~」
「え? 何が?」
サラダのキュウリを頬張りながら沙紀が答えると、絵里と菜々美は沙紀の右手を指差した。
「どういうこと?」
「相手紹介してもらってないんだけど」
沙紀の右手の薬指には婚約指輪。
さっきもらった婚約指輪だ!
「えっと、これは、その」
しまった! 外してくるのを忘れた!
こんな所で演技だって言えないし、相手が彰様だなんてもっと言えない。
「なによ、ちゃっかり。幸せなんじゃない! あーあ、心配して損した~」
「ホント、元カレ引きずってるかと思ったのにさー」
相手はどんな人? 何歳? 何をしている人?
二人からの質問が続き、沙紀は焦る。
「待って、待って、無理ムリ!」
そんなに答えられないと沙紀は両手を左右に振った。
「……沙紀、ちょっといいか? あ、えっと、また仕事の話で、ここ座ってもいいか……?」
いいなんて言っていないのに勝手に座る大輝に三人は呆れる。
「加賀くん、ダメだよ。沙紀はねー、もう売約済なの」
前から大輝のことをあまり良く思っていなかった絵里は、沙紀の右手を指差しながら大輝を揶揄った。
指輪に驚いた大輝が目を見開く。
沙紀はパッと指輪を左手で隠した。
#御曹司
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!