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どうして舞台が隣国に!?

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どうして舞台が隣国に!?

44 - 第44話 赤い王女の交渉(ジャネット視点)

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2023年07月09日

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三日後。アルバートと、魔塔の応接室で会うことになった。


本来なら、ジャネットの執務室で会う方が、向こうに対して自然と圧をかける意味も成せるため、使用したかったのだが、生憎室内は未だ書物だらけで、人を呼べる状態ではなかった。

机の上も、何一つ減った様子がない有り様を、他の人に見せられないのもまた、理由だった。


「お会いできて光栄です。アルバート・カラリッドと申します」


先に応接室にいたアルバートは、入ってきたジャネットを見て立ち上がり挨拶をした。ゾド王室と姻戚関係という証のような、王族特有のピンク色の髪をした男性だった。


「ジャネット・ポーラ・ソマイアよ。ここは魔塔なのだから、そういう挨拶は無しにしましょう」


アルバートが手を差し出したのを見て、ジャネットが一蹴した。求婚を受け入れる訳ではないことを、敢えて分からせるために。けれど、相手は不快な表情を、見せることはなかった。


さすがは、ゾドが送ってきた人物なだけのことはあるわね。こんなことで感情を露わにするような者を、交渉に向かわせたりはしないでしょうから。


アルバートは何でもなかったかのように、手を元の位置に戻した。


「分かると思うけど、忙しい身なの。回りくどい挨拶や謝辞は無しにして、さっさと本題に入りましょうか。理解してくれると、嬉しいのだけれど」


そう言いながら椅子に腰掛け、足を組んでアルバートを見た。ジャネットの後ろには、一緒に入ってきたユルーゲルが、専属護衛らしく立っていた。


アルバートはジャネットの言葉に驚いた後、やれやれと頭を掻く仕草をしながら、一息吐いて向かい側にある椅子に座った。


「すでにこちらの思惑など、お見通しと言ったところなのですね」

「まさか。全て知っていたら、今日ここで貴方と会うことはないでしょうに」


知っていてこの場にいるのなら、交渉に応じるか、はたまた根元から叩きのめして、今後交渉すらしたくないようにするかの、二択しかない。


今回は後者であり、情報を絞り取れるだけ取って、お帰り願おうと思っていた。さらに警告も忘れずに。


「ですが、私の求婚を受け入れて下さらないのは、変わらないのでしょう」

「えぇ。そもそもその意思があったら、とうにしていたと分かるものではなくて」

「しかし、考えなどいくらでも変わるものですよ。これを機に、考え直してみてはいかがですか」


こいつ、本題に入りましょうか、という私の言葉を聞いていなかったのか? 婚姻の方の交渉、もとい説得をしているんじゃないわよ!


そんなジャネットの心を読んだかのように、アルバートは話を続けた。


「そんなに邪険になさらなくても、悪い話ではないと思うんです。魔塔ではなく、ソマイアとしてのジャネット様の立場からすると」

「私は今の地位で、十分満足しているのよ。それに、私の婚姻に関しては、父であるソマイア王も容認しているから、貴方が心配する必要はないし、断ったとしても、ソマイアに落ち度もない」


先手を繰り出しても、アルバートの表情は未だ変化はなかった。これも想定の範囲内とばかりに。


「満足なさるのも、分かります。私も、この年まで独り身でしたから。ゾドの魔術師というのは、祖国では肩身が狭いのをご存じですか? ですから私自身、このまま魔塔で過ごしたいと思っているんです」

「なら、尚更、結婚する必要はないでしょう。貴方は魔塔で、実績を積んで、自身の研究室と弟子たちに囲まれているのだから」


あれから、アルバート・カラリッドについて調べた。ゾドのカラリッド侯爵家の嫡子として生まれたが、神聖力ではなく、ゾドでは珍しい魔力を持って生まれてきた。

末端の貴族、もしくはゾド王室から離れている貴族なら、魔力を持った子が生まれてくることは、さほど珍しくはなかった。数としては、他国に比べて少なかったが。そのため、肩身が狭いというのは、本当だった。


ゾド王室と姻戚関係があるということは、血が繋がっていることを示唆している。アルバートの場合は、髪の色がその証として表れているのにも関わらず、持って生まれた力は、神聖力ではなく、魔力だった。カラリッド侯爵家からしたら、落ち度以外何物でもない。


故に、アルバートは嫡子でありながらも、幼少から魔塔で過ごしていた。侯爵家よりも魔塔の方が家であるかのように。


だから、ゾドで何を言われたかは知らないが、安心させるようにジャネットは言った。


「このまま行けば、今後も変わりなく、魔塔で過ごせるだけの地位が約束されるでしょう。貴方はそれだけの努力と力があるのだから。それだけでは、不満なの? 私と結婚することで、魔塔のトップになりたいというのなら、話は別だけど」

「いいえ。そのようなつもりはありません。ただカラリッド家のために、私でも成せることは成したいと思っただけです」


やはり、ゾドが、いやカラリッド侯爵家が求めているのは、神聖力を持った人間、ということか。いつまでも、確信に触れないやり取りに、苛立ってきたジャネットは、ストレートに聞くことにした。


「それで、アンリエッタが必要なのかしら」

「はい」

「あら、先ほどまでとは違って、素直に認めるのね」


ただ単に、自分からアンリエッタの名前を出すと、私の逆鱗に触れるかもしれないから、言えなかったのもあるかもしれない。


けれど、認めた時のアルバートの表情は、先ほどのものと同じではなかった。まるで、覚悟を決めたような、そんな表情だった。


「こちらの事情も、分かって欲しかったものですから。一刀両断に断られてしまうよりかは、良いかと思いまして」

「分かったわ。それで、カラリッド家は何をしようと目論んでいるの? このまま魔塔に居続けたいのなら、そして私の協力を仰ぎたいのであれば、洗いざらい白状なさい」


何だか、悪役みたいなセリフになってしまったわ。けれど、仕方がない。アルバートの真意が、魔塔にあるのか、カラリッド家にあるのか、そこまでは分からないのだから。


先回りしてしまったが、アルバートの苦笑した表情を見て、問題なかったことに、内心安堵した。


「やはり、裏で動くより、ジャネット様に交渉して良かったです。正直言うと、家のことなど、どうでも良いのです。後継はもういますから。私が実家の要望に応えたところで、私に対する扱いなど、変わることがないのは、承知していましたから」

「そうね。私が魔塔の主であっても、ソマイアの王女としての地位が、未だ末端であることに変わりないのも、同じことよ。努力しても得られないものはある。なら、得られるものの方を、取るべきじゃないかしら」


魔術は研究次第で、さまざまな形を見せてくれる。利益になるようなものなら、魔塔を通じて国に進言すれば、名声だって得られる。魔塔としての地位に、身分は関係ない。実力主義である。

ジャネットが主であるのは、ソマイア王からの推薦と任命によるものではあるが。偏に、親心からだった。


「さぁ、今度こそ、話を聞かせてちょうだい」


開き直れば、口も軽くなるものだ。アルバートは、快く答えてくれた。



***



アルバートはまず、ゾド王室とカラリッド家の関係性から話してくれた。


建国前、つまりゾド王室が公爵家の時から、聖女が起こした家系だと言われていた。そのため、代々聖女を輩出していたのだが、年代と共にその数は減り、今は存在すらしていない。


ゾド公爵家から生まれにくくなる少し前から、それを危惧した者らによって、いくつか傍系ができた。その最初に出来たのが、カラリッド侯爵家だった。


それ故、ゾド王室に何かあれば、カラリッド家から輩出し、繋ぎとめていた。ちょうど、今のゾド王がそうである。王族特有のピンク色の髪の毛をしているが、生家はカラリッド家だった。アルバートが同様の髪の色をしているのが、何よりの証拠だった。


しかし、カラリッド家は、元々ピンク色の髪の毛の子供が生まれていたわけではない。婚姻を繰り返したため、そうなっただけだった。


では、本来の色はというと、銀色である。アンリエッタを求めた理由は、まさにそれだった。


銀色の髪に、神聖力。それも大きな力を持っていることが、必要だった。


「ジャネット様との婚姻で、アンリエッタ・イズルとの接点を作り、交渉しようと考えていたようです」

「交渉? 拉致ではなくて?」

「恐らく、それも視野に入れていたと思います」


ジャネットは溜め息を吐いた。

どいつもこいつも、アンリエッタを拉致したがるんだから。マーカスが護衛をつけると言っていたから、カラリッド家が早まった行動をしたとしても、まぁ大丈夫そうね。


「最終的には、アンリエッタをどうしようとしているのかしら。聖女にするつもりなの?」

「そうです。ゾドでさらに勢力を付け、王室そのものをカラリッドの血に、取って代わるのが、カラリッド家の野望です。今のゾド王であれば、それが可能ですから。カラリッド家から、久しく不在だった聖女を出す。これほどのことはないでしょう」

「そんなことのために、巻き込まれるアンリエッタも、大変ね」

「実は、それだけの理由ではないんです」


アルバートは意味ありげに言うと、懐から一枚の写真を取り出した。


「アンリエッタ・イズルは、我々カラリッドの人間に、よく似ているんです」


写真に写っている人物の中から、アルバートはある人物を指差した。色あせて、セピア色になってしまい、髪色や目の色は分からなかったが、アンリエッタに似た少女が写っていた。


「それから、こちらも見れば、我が家系の顔に似ていると言っても良いかと」


そう言って、もう一枚見せる。そこには、青年が写っていた。性別が違うため、判別は難しいが、輪郭や目の形が似ていた。


「アンリエッタ・イズルは、孤児だと聞きました。もしかしたら、我がカラリッドの血を引いているのではありませんか?」

「けれど、アンリエッタはマーシェルの孤児院にいたのよ。それは……」

「マーシェルは、ゾドと隣接しています。あり得ない話ではないかと。それ故に、カラリッド家はアンリエッタ・イズルに固執しています。もし、彼女がそれを望んでいないのであれば、どうか止めて下さい」


カラリッド家で、発言権がほぼないアルバートでは、止めることは出来ない。ゾドの中でも、王族に並ぶほどの権力を持つ家を相手にするなら、他国の王女であり、魔塔の主たるジャネットが、適任だった。


アルバートは、カラリッド家が望む通りの行動をしているように見せかけて、ジャネットの協力を仰ぎたかったのだと、白状した。


「これが成功すれば、カラリッド家内に私の居場所を作ってやる、とか言われて、少しぐらつきました。ようやく認められたと思ってしまいました」

「その代償として、平民とはいえ、一人の少女が犠牲になるのよ。罪悪感を抱かないでいられる?」

「いいえ。それに、今の研究や弟子たちを放って、ゾドへ帰っても、落ち着けないと思います」


似たような立場だからか、ジャネットはアルバートを責めなかった。むしろ、よく告発してくれたと感謝した。

今はとりあえず、注視してみる様にする、とだけ伝え、アルバートを退席させた。


アルバートが置いていった写真を眺め、ジャネットは考えを巡らせていた。


もし本当に、アンリエッタがカラリッドの血を引いていたら、どんな反応をするだろうか。侯爵家に行きたいと言うのなら、私は協力できるかしら。


もし、マーカスと結婚したいのであれば、侯爵家の地位は助けになるわ。でも、聖女として祀り上げられたら、苦労するのは目に見えている。


今だって、生活は大変そうだけど、自由がある。アンリエッタはその自由を引き換えにしても、地位と名誉、財産を欲しがるとは思えない。


いや、アンリエッタを侯爵家に行かせたくないのは、もう気安く会える立場でなくなるのが、一番嫌なのだろう。


そもそも、王女だとバレてから会っていないから、これまで通り接してもらえなかったら、どうしよう。


「ジャネット様。大丈夫ですか?」


いつの間にか頭を抱えていたらしい。向かい側の椅子に腰かけていたユルーゲルに、声を掛けられた。


「ちょっと、予想だにしなかったこともあったから、考えていたのよ」

「そうですね。ちょうど私がいた時代の聖女は、このカラリッド家の者でした」

「え? 本当?」

「はい。以前話しましたよね。その聖女は銀髪だったこと。その家系の特徴が銀髪であること。そして、ゾド公爵家の傍系だと」

「それが、カラリッド家?」


ユルーゲルは頷いた。


これが何を意味しているのか、疑問だけが残った。

生贄の証の模様である蔦が描かれた紋章。そして、アンリエッタの生家かもしれないことも含めて。


共通しているのは、蔦と神聖力。


「カラリッド侯爵家……か。気になるわね」

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