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『…..立花先輩 、?』
「喜八郎 、遅くなったな 。」
『大丈夫ですよ 。でもなんでいるんですか?
先程食べていませんでしたっけ』
「細かいことは気にするな!!」
「えっ!?七松先輩?!」
「おー!滝夜叉丸!っておまえ
顔ぐしゃぐしゃじゃないか!!」
「なっ…..言わないでくださいよぉ….」
「…..あはは 、とりあえず 。
食堂では迷惑になるから 、移動しようか 。
四年生は戻ってていいからね」
伊作先輩がそう言ってくれて
僕達四年生は先に部屋へ戻った 。
出入口の前で 、六年生方がおひとりずつ
僕の頭を撫でてくださって 、少しだけ
少しだけ心がぽかぽかしてきた 。
長屋へ続く廊下を歩いて
とうとうい組の部屋が見えてきた
ろ組とは組の部屋はもう少し先のはずなのだけど
「なんっっでお前らまで入ってくる!?!」
「いやぁ 、偶には一緒に寝ようかなって!」
「そうそう!偶には円になって話そう!」
「し 、仕方なくだからな!」
『えぇ 、ならいいよ 。僕眠いし 』
「 「 おい三木ヱ門!」 」
「んなッ … うるさい!良いからもう座れ阿呆!」
『もぉ引っ張らないでよ〜』
そうして 、いつも
ふたりでちょうど良かった部屋は
五人放り込むことで 、とても窮屈になった
「聞いてるのか 、久々知 。」
『……はい 、立花先輩 。』
「なら早く答えよ」
『….ッ 、』
四年生 、いや綾部の姿が見えなくなった途端
立花先輩は一気に気配を変えた 。
伊作先輩が場所を変えないとって
立花先輩を促すけど 、すぐ終わると言って
今に至っている 。
立花先輩はこう言った 。
「喜八郎を泣かすくらいなら
好きになるのをやめてしまえ 。」
その言葉を 、俺は断った 。
でも 、すると立花先輩は
怒りを露わにしてこうも告げた 。
「お前を想ってまで泣くような恋なんて
無意味に決まってる 。
そして 、いまお前には何ができる?」
そう 、俺に何ができるのかわからないから
こうやって黙り込んでしまっている 。
俺は 、綾部が好きだ 。それは変わらない 。
でも 、綾部が立花先輩を好きなら
綾部がそれでもって幸せなら良かったのに
だから 、勘右衛門との時間を増やしたし
無理に喜八郎を避けたりしていた 。
なのに 、なのに本当は
俺のことが好きだと聞いて 、今更どうすればいい
もう 、自分で起こした過ちを戻せるわけがない 。
俺が悩みすぎていたのか 、立花先輩
ではなく 、その同室の潮江先輩が口を開けた 。
「まぁ 、仙蔵の言う通りではある
だけど色恋自体難しいからな 。
それは理解するが 、尾浜も久々知も 。
それを喜八郎に 、後輩にぶつけるのは
人として 、忍たまとしてどうかと思うぞ」
本当 、その通りだ 。
こんなにも惨めな自分が情けなくて仕方がない 。
今にも悔しくて涙が出そうだった 。
でも 、それを見越してか
七松先輩がこう言った
「泣くな 、久々知 。
お前が泣いたって喜八郎は変わらないぞ?
そんな事をするくらいならさっさと喜八郎に
会って話せばいい!まぁ今は無理だけどな!」
そう釘を刺されれば 、
もう俺は為す術がなかった 。
そして 、最後立花先輩が仰った 。
「久々知 、今まで私は
喜八郎の気持ちを配慮して何もしてこなかった 。
だが 、もうこれからは容赦はせんからな 。」
そう言い残し 、立花先輩は食堂を出ていった
「あーあー 、仙蔵が燃えたぞ 。」
「ありゃあえらいことが起こるな」
「私も燃えてきたぞ!!」
「…..小平太が燃えてどうする。」
「はは!そうだったな!」
なんて 、次々に食堂から出ていく先輩方の中で
伊作先輩だけが 、まだ食堂に残っていた 。
『……伊作先輩 、?』
「仙蔵 、喜八郎の事になると必死だからさ
きっと口 、悪かったでしょ ?
同輩として謝らせて 。ごめんよ。」
『いえいえ….元はと言えば僕が悪いので 、』
「でも 、兵助なりの考えがあるんだろう?
もちろん 、今回ふたりがした事は
喜八郎に大きく影響させたと思う 。
きっと急な出来事でびっくりしちゃってるかも
だから 、ゆっくりでいいから 。
また喜八郎と話してみるといいよ 。」
そう言って 、伊作先輩も食堂を出ようとした 。
でも 、振り返ってまた微笑んでこう言った 。
「僕はどっちにもつかずだから
いつでも頼るといいよ 。」
そう言って去っていく先輩を見て 、
やっぱり六年生には届くことができない 。
そう気付かされて行くのだった 。
でも 、そのあとの俺に残されたのは
後悔と絶望だった______
でも 、そんな暇は無いみたいだった 。
「おい 、一旦長屋へ戻るぞ 。」
聞いた事のないくらいの八左ヱ門の低い声
きっと 、八左ヱ門も皆も怒っているんだろう 。
そうして 、俺と勘右衛門は肩身の狭い思いで
五年長屋へと戻って行った 。
そして 、ろ組の部屋についた頃だ
「….兵助に用があるんだ 。
悪いがい組の部屋で待っててくれるか?」
「あぁ 、わかったよ 。」
「大事にするなよ?」
「……..ほら 、入れよ 。」
『あ 、あぁ….. 』
しれっと 、三郎の言うことを無視した
八左ヱ門を怖く思ったが 、これはケジメとして
しっかり話をしなければならないと思った 。
「で 、お前は自分が何したかわかってるわけ?」
『…….わかってる 、わかってるよ 。』
明らかに怒った様子の雷蔵にそう言われ
俺は今までの出来事を振り返ってみた 。
俺こそ 、邪魔者だったのに 。
なのにむしろ 、幸せになるべき喜八郎を
邪魔者扱いした俺 。俺のせいで 、
二人はもう結ばれないかもしれない 。
二人が結ばれないことが 、
俺の一番の願いだったのに 。
めげずに頑張る喜八郎や 、
日に日に元気がなくなっていく喜八郎 。
いつも辛そうに喜八郎を避ける兵助 。
そんなふたりを見て 、後悔しか残らなかった
俺は 、ふたりの幸せを願うって決めてたのに
兵助の親友でいるって決めてたのに
そうやって色々考えた結果の答えがそれだった
すると 、ずっと黙っていた三郎が
こんな事をいってきた 。
「なら 、言うことはないな 。」
『…..え?怒んない 、の?』
お人好しすぎる回答に驚きを隠せないでいると
顔がそっくりなふたりが顔を見合わせ笑った
「だって 、それくらい好きだったんでしょう?」
「あれがお前なりの頑張りなんだろ 。」
あぁ 、こんなにも俺を思ってくれて
こんなにも優しくしてくれる同級生が居るのに
俺はなんて事をしちゃったんだろう
なんて思えば思うほど
涙が止まらなくなってしまった 。
でも 、すぐひとつの衝撃が走った
『い “ っ…. !? なんで 、っ?!』
「だが 、それで兵助の好い人である
喜八郎に八つ当たりするのは許せん!!」
「…..そんなの 、わかってるよぉ………」
一見 、拗ねているようにしか見えないかもだけど
ちゃんと 。ちゃんと反省してるんだからね 。
だから 、今度しっかりと謝らせてよ 。喜八郎 。
『かはっ….!』
『何するんだよ八左ヱ門ッ……』
突然 、前に居た八左ヱ門が後ろを振り向き
思いっきり俺の頬を殴った 。
だが次の瞬間 、八左ヱ門は
瞬時に俺の胸ぐらを掴んで叫んだ 。
「お前ッ….喜八郎を泣かして
どういう気持ちだよ!!」
『どうって 、八左ヱ門には関係ないだろう 。』
そう 、口走った瞬間 、
八左ヱ門が俺に頭突きをして
部屋には鈍い音が響き渡った 。
『…..ー ッ !!』
「自分の気持ちに素直になれねぇクセにッ
そんなんで喜八郎を
幸せにできるはずがねぇだろ!!
お前と勘右衛門がしたことは 、
それぐらいのことなんだよ!!!!!!」
そうやって八左ヱ門は
涙を浮かべながらそう言った 。
八左ヱ門は綾部や七松先輩と夜によく
鍛錬をしており 、五年生の中でも特段
綾部を可愛がっていたように思える 。
だからきっと 、今回起こったことも
許せなかったんだと思う 。
涙を流しながらも 、俺を叱ってくれて 。
最後まで綾部を守ってくれて 、ありがとう 。
だから 、もう大丈夫 。
俺は 、もう俺のしたいように動く 。
だから待っててほしい 、綾部 。
あれから 、五年生からは
今回のことを許してもらい 、その条件として
喜八郎としっかり話をするよう言われていた 。
そして 、勘右衛門は既に話終わっていて
何やらスッキリした顔になっていた 。
だから俺も 、はやく喜八郎に会って
伝えたかった 。今までの思いも謝罪も含めて 。
それでも 、なぜだか一向にそのチャンスは
やってくることは無かった 。
それは 、四年生が本気を出している証拠で 、
喜八郎が居た痕跡すら与えてはくれなかった 。
それでも俺は諦めることなく 、
喜八郎を探し続けた 。
そうして 、やっとこっちに機転が回ってきた 。
ある時 、廊下をひとりで歩いていれば
向かい側から見覚えのありすぎる人を見つけた
そいつは 、俺を見つけるやいなや一目散に逃げた
だから 、俺だって追いかけた 。
そいつは 、難なく掴まってくれて
俺の指示に従うと言ってくれた 。
だから 、俺は人に見られない場所へ誘導した
ここなら誰も来ることはないだろう 。
だって 、ここは俺と綾部が秘密で会う場所で
よくふたりで星を見ては愚痴をこぼしたりと
沢山の楽しい一時を過ごした思い出の場所 。
そこでふわっと今までの綾部との
思い出が蘇ってきた 。
俺だけの宝物だったこの場所
綾部がはじめて訪れたあの日 。
綾部がはじめて血に触れたあの日 。
綾部が実習で失敗したあの日 。
綾部が気味の悪い男に言い寄られたあの日 。
綾部と流星群を見たあの日 。
綾部と勘右衛門の話をしたあの日を最後に
俺たちは二度とここでかち合うことは無かった
なら 、自分達でそこに足を運べばいい 。
どうしても 、この想いを伝えるときは
この思い出の場所で伝えたかったんだ 。
『…..あやべ 。』
「…….はぁい 、くくち先輩 。」
この場所で会う時は 、
互いに名前で呼び合うようになっていた
久しぶりに呼んだお前の名前は 、
とても喉をよく通って
俺を呼ぶ声は 、また透き通って綺麗だった 。
そうして俺は 、かちりと目が合う
綾部の目を離さぬように 、告げたのだった
『おれ 、綾部がずっと好きだったんだ 。
なのにお前ばかり悲しませて 、怖がらせて 、
情けないよな 。ごめん 。』
そう言って 、深々と頭を下げる 。
すると 、頭上から苦笑が落とされる 。
「待ちくたびれちゃいました 、ぼく 。
もう 辞めちゃいました 。先輩をすきになるの」
「….ぼくはもう 、あの人のものなのに 。」
顔を上げれば伏し目気味にそう言う綾部 。
でも 、それでよかった 。
それで俺はよかったんだ 。
「 お前を好きになれてよかった 」
最後の最後で 、そういう貴方 。
言って欲しい言葉は 、そんなんじゃないのに 。
『……..あなたは本当に 、、いえ 。
なんでもないです 。それじゃあ委員会なので 。』
そう言って僕は 、逃げるように
あの人が居る教室へと足を急がせた 。
( 諦めない 。また好きになせる 。
って 、言ってくれないんだ )
それでも僕は 、あの場所で
座り込んで静かに泣いている久々知先輩を
見ることなんてもうできなかった 。
なんで 、そんな顔をしたんだよ 。
それじゃあ 、かっこつけた意味が無いだろ 、
お前を好きなことを 。
過去形なんかで表せられるわけたないだろう 。
この先 、プロの忍者になっても引退しても
どんな俺になっても 、お前を好きじゃなくなる
日なんて 、そんな日は決して来ないに決まってる
俺の大好きな綾部
どうか 、立花先輩と幸せに
それでもどうか 、
かつて交わっていたその思いを忘れないで
コメント
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最高おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお