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「わぁ……!」
その青さに思わず声が漏れる。そして俺自身が宙に浮いているのだと気づき、下を見ると街の景観が一望できた。
青い空の元に広がる街は、太陽の光によって窓や噴水、金属の装飾などがキラキラと乱反射に光って所々が輝いていた。
「ヒナ、見てみろ! 凄い綺麗だぞ……!!」
俺は妹の被っていた紙袋を、そっと外して景色を見せる。妹は涙混じりに固く瞑っていた瞼を、少しずつ開けて景色を見る。
「わぁ……! 綺麗……!!」
妹は宝物を見つけた子供のように、目を輝かしながら呟く。
重力で降下した時、下の方では警備兵達が慌てて図書館から出てきて騒いでいるのが見えた。
俺と俺たちを抱えた人物は、騒いでいる警備兵たちに向かって『べー』っと舌を出した。
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俺たちは掴まれたまま、何度か屋根の上を着地と跳躍を繰り返しながら、徐々に高度を下げる。
そして人気の少ない街外れの最後の屋根から飛び降りた時、俺と伊織は妹から剥がされると同時に地面に叩きつけられた。
「ぐえっ!!」
「くっ……!!」
「……ふん!」
俺たちが激痛に悶えていると、叩き落とした張本人……もといロキは、両脇に妹とセージを抱えながら、綺麗に着地した。
「……つったく、何がどうしたらあんなクソめんどくせぇ事になるんだよ、お前らは!」
ロキはセージの腰に回していた腕を、容赦なく離しては顔面から地面に落とし、妹には「おら、さっさと立て」とぶっきらぼうに立たせて手を離した。
「酷いよロキ……。もっと優しくしようよ……」
セージが鼻を擦りながらロキに文句を言う。そうだ! 野郎にも、もっと優しくしろ!!
「はぁ? なんかやらかしてんじゃねーかと思って見に来たら、案の定騒ぎを起こしていたアホ共を助けてやったんだ。むしろ感謝して欲しいところだね」
ロキは害虫でも見るかのような軽蔑の目をしながら、俺たちを見下してそう言い放った。くっ! 言い返せない……!!
「ぼ、僕はウィングベルグ領は、教会以外ではあまり権限を持てないんだ……。それはロキも知ってるだろ……?」
「だからだろ。……他所の人間を、ホイホイと図書館なんかに連れてきやがって……。ウィングベルグ領民はこんなどー見ても怪しい奴らを簡単に入れるわけねーだろ、バーカ」
「ひ、酷いよロキ! 僕は、御三方のお役に、少しでも立てればと思って……」
「それが甘いんだよ、バカセージ。アホ面のこと考えてんなら、ほっとくのが一番だっつーの!!」
ん? なんか今、変な字体変換された気がするぞ?
「……! そんなのはダメだよ! 困ってる人がいたら、ほっとけないよ!!」
「〜〜っの! 脳内お花畑野郎が!!」
「はい、ストーップ!!」
そう大きな声を出しながら手を叩いて二人の口論を止めたのは、誰でもない俺の妹だった。
「ダメだよロキロキ! セージさんは私たちのためにやってくれたんだから、そんなに責めちゃダメ! ほら、捨てられた子犬みたいにしょんぼりしちゃってるじゃん!!」
そう言って指さされたセージの顔は、とても悲しそうで……。何だか本当に捨てられた子犬みたいに、垂れた耳が見えるような気さえしてくるオーラだ。
「ロキロキが、セージさんを心配する気持ちは分かるよ! でも、そうやって頭ごなしに怒るのはよくないと思うよ!!」
「……は、はぁ!? 僕がいつ、バカセージを心配したって!?」
「いつもでしょー! 昨日だって私たちが悪さしないか、ずっと徹夜で見張ってたし、今朝もだけど本当はずっとセージさんが心配で、毎日こっそり教会に行ってたでしょ!!」
「バッ、おま……!!」
ロキは顔を真っ赤にしながら、妹の口を慌てて塞ごうとする。が、時すでに遅し。セージはジッとロキを見ながら「本当なんですか……?」と、問いかける。
「……べ、別にお前のためじゃねーよ! 勘違いすんな……!!」
「……ぷはっ! 本当です! ロキロキは昨夜すっっっごく! 楽しそうにセージさんの話! してました!!」
「だーっ! お前は! もう黙ってろ!!」
ロキが妹の口先をつまんでは、黙らせようと一生懸命になる。その光景を見ながらセージは「プフッ……!」と吹き出すと、クスクスと笑った。
「な、何笑ってんだよバカセージ……!!」
「すみません、ロキ……! あまりにもロキが楽しそうだったので、つい……!」
「全っ然、楽しくねーよ!」
「だってロキ、僕や子供たち以外にそんな口調で話すところ、あまり見た事ないので。けど、はい。僕もロキのことが、大好きです♪」
「〜〜っ! どーしてくれんだよ、アホヒナ!!」
「酷ーい! 今『アホヒナ』って言った! どう思う!? ねぇヒロくん! イオ!?」
……どうやら良くも悪くも、セージとロキの二人のおかげで、妹のトラウマスイッチは完全にオフになったようだ。俺と伊織は目を合わせて、互いにホッと息を吐く。まだ不安は残るが、とりあえず一安心だ。
「まぁ〜、酷いなぁ〜……」
「はい、酷いですね……」
「でしょ〜!?」
妹は俺と伊織の言葉に、腕を組んでは「うんうん」と頷く。
しかし、そんな勝ち誇った笑みは、一瞬で逆転される。
「「事実すぎて」」
俺と伊織の見事なハモリに、ロキが吹き出した。そしてゲラゲラと笑いながら、妹を指さす。
「ブハハッ! お前そこの二人にも、捨てられてんじゃん!!」
「この〜裏切り者共め! いーもんね! セージさ〜ん!!」
「はい、何でしょう?」
膨れる妹をセージがあやす姿を見ながら、俺と伊織も笑う。
どうやらロキという人物は好きな子や、気に入った相手には意地悪をしたくなるタイプの人物らしい。それになんだかんだ口では文句を言ってても、俺たちのことを助けてくれたし……。セージの言うように、ロキは悪い奴ではないのだろう。
妹の情緒も治まった事だし、ロキとも少しだけ打ち解けられた気がした。
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街の中心……丘の上の一番高い建物、協会のさらに上空から【それ】は見下ろしていた。
まるで道化師のような派手な衣服に、シルクハットを被った男。青白い顔には、トランプをモチーフにしたような厚化粧をしている。片手にはステッキを持ち、その肩に一匹の外見が鴉のような……、しかし頭が二つに別れた一際大きな鳥が止まっている。
『状況はどうだ……?』
二つある鳥の頭の一つが人の言葉を発する。
「……普段通り、人間たちが生活してイマスヨ」
『そうか……』
鳥は肩から飛び立つと、【それ】の目の前へと移動する。
『手筈は整った。予定通り、任務を遂行しろ……』
そう言って飛び去って行った鳥を横目で見送ると、【それ】歪な笑みを浮かべた。